2012年2月10日8:00
地上に舞いおりたPayPal
☆☆☆ バーチャルからリアルの巨大市場に参戦 ☆☆☆
Grab The Real World
日本カードビジネス研究会 代表 佐藤 元則
世界に1億人の稼動会員と900万加盟店をもつオンライン決済の覇者PayPalが、2011年11月ニューヨークにショッピングショーケース(実験店舗)をオープンした。
2012年NCBレポートのテーマは「進化する決済」。今回はバーチャル決済という天空から、リアル決済という巨大な大陸をも手に入れようと舞い降りた、PayPalの進化をとりあげる。
場所はニューヨークのマンハッタン南部の三角地帯トライベッカ(TriBeCa:Triangle Below Canal)。ハドソンストリートに面したビルの1階である。もともとトライベッカはさびれた倉庫街だったが、最近ではギャラリーやモダンなロフトなどに改装され、人気のスポットになっている。
PayPalがトライベッカを選んだのは、野望の街マンハッタンのなかでも、特に新しいトレンドを創造する人たちが多く集まる場所だからである。オンライン決済からリアル決済への挑戦は、単にいままでの延長線上ではなしえない。
世界中に向けて新たな決済トレンドを発信するにふさわしい場所はどこか。その結論がマンハッタンのトライベッカだったのである。ちなみにPayPalの本社はカリフォルニア州のサンノゼ。西海岸のサンフランシスコやロサンゼルスではなく、ショーケースにふさわしい地として、東海岸のニューヨークを選んだのである。
実験店舗のターゲットは小売店。消費者ではない。会員獲得ではなく、リアル店舗をPayPal加盟店にするのが目的だ。PayPalの既存オンライン決済加盟店のなかには、リアル店舗を運営しているところも少なくない。そんな加盟店も対象だ。
ショッピングショーケースでは、PayPalが開発中のリアル決済の最新ソリューションを体験できる。ショーケースのテーマは「スワイプ(Swipe)、エンター(Enter)、タップ(Tap)」である。
PayPalの独自ブランドカード(磁気プラスチックカード)を小売店頭の端末でこする(Swipe)決済。携帯電話番号と4桁のPINを入力(Enter)する決済。そしてスマートフォンをNFC非接触端末にかざす(Tap)決済である。加えてPayPalWalletというスマートフォン上の最新バーチャルサイフの紹介もある。
ショッピングショーケースと命名しただけあって、多様な決済手段を用意した。PayPalにとっては新しい試みだけれど、既存決済プレイヤーたちが数十年間使ってきた磁気カードのデモから、最新のNFC非接触決済まで幅広く揃えている。
オンライン決済の経験から、加盟店は多様な決済を望んでいることを熟知している。かならずしも最新技術を好んでいるわけではない。現実的な決済手段も必要としている。ショップにとって、決済オペレーションを変更することの負荷は重い。
ニューヨークのショッピングショーケースは、リアル決済の既存プレイヤーへの戦線布告だ。PayPalがめざすゴールは、VisaやMasterCardに代る新たな決済ブランドネットワークを、天空と大地の両方に構築すること。オンラインとリアルを融合した決済、はやりの言葉でいえばオーツーオー決済(Online 2 Offline)でそれを実現しようとしているのである。