2014年8月7日8:00交通利用に加え、電子マネーの加盟店も広がる韓国「T-Money」世界的に見ても一歩進んだモバイルサービスを展開
韓国のコリアスマートカード(Korea Smart Card)は、2003年10月に設立され、2004年7月1日から「T-Money」と呼ばれるIC乗車券を発行している。鉄道、バス、タクシー等の交通機関に加え、日本の「Suica」等の電子マネー同様にコンビニエンスストア、ファーストフード等での決済にも利用可能だ。今回は、コリアスマートカード ペイメント&プラットフォーム・ビジネス・ディビジョン モバイル・ビジネス・チーム リーダー キム ヨンジュ(Kim Youngju)氏に、T-Moneyの現状やNFCを活用した「モバイルT-Money」の状況について話を聞いた。
T-Moneyは提携カードやモバイルを含め7,000万枚を発行
2007年から他の事業者との相互利用を開始
――まずは、コリアスマートカード様の役割についてお聞かせください。
キム ヨンジュ:まずTマネーのカードのイシュア業務を行っています。また、タクシーやバス、地下鉄といった交通インフラの構築・運営を行っています。
イシュア業務では、他の発行会社とのアライアンスも行っています。「cashbee」のような前払いの企業、クレジットカードといった後払いの企業とも連携しています。銀行で発行しているクレジットカードと連携してカードに機能を搭載しています。日本ではSuicaやPASMOがクレジットカードと一体型のカードを出していますが、そのイメージとなります。また、T-Moneyでは、街中の加盟店の開拓も行っています。
-現状のT-Moneyの発行枚数をお聞かせください。
キム ヨンジュ:T-Moneyだけを見た場合、3,700万枚ですが、金融機関との連携やモバイルを含めると7,000万枚の発行枚数となります。
発行枚数と利用者については、普及期から安定期に入っています。すでに多くの方にT-Moneyは浸透しています。韓国全土での利用がスタートしましたので、アクティブユーザーには安定して利用されています。また、新しい携帯電話やスマートフォンの場合、ストラップ型のT-Moneyを付ける部分がないため、若干需要は下がっています。
――電車でのT-Moneyの利用率はどの程度まで高まっていますか?また、交通機関においての利用範囲の拡大は進んでいるのでしょうか。
キム ヨンジュ:地域によって若干差はありますが、地下鉄の場合、首都圏は98.9%がカードになっています。また、バスは約96%がカードとなっています。
日本ではSuicaやPASMOが全国で利用できると思いますが、T-Moneyは2007年からハナロカードやMYbi等と連携しており、2007年から全土で使えるようになっています。
T-Moneyの利用はクレジットカード等が63%、プリペイドが37%
約13万の加盟店でも電子マネーとして利用可能
――T-Moneyには、プリペイドに加え、クレジットカードの後払いでも利用できるそうですが、現在の利用比率についてお聞かせください。キム ヨンジュ:
現在はクレジットカード等が63%、プリペイドが37%になります。2年前までは半々の比率でしたが、クレジットカード等の割合が増えました。原因については、国からの施策でデビットカードの利用が増えているため、その影響を受けてのものであると考えます。
――T-Moneyは市中での利用も可能となっていますね。電子マネーサービスの現状の成果についてお聞かせ下さい。
キム ヨンジュ:電子マネーとしては、約13万の加盟店があります。コンビニエンスストア、ロッテリア等のファーストフードで利用可能です。
利用についても成長しています。交通利用の実績は年に約1兆8,000億ウォンですが、それに比べれば10%程度の規模です。ただ成長率は月70%となっていますので、4~5年後は大きい数字になっているでしょう。最近は、加盟店のほうからT-Moneyを導入したいという声をいただいています。また、クレジットカードに比べ、加盟店手数料も安価となっています。
――T-Moneyを加盟店に勧める際、クレジットカード等の決済に比べての差別化についてお聞かせ下さい。また、eB Cardとの相互利用も行われていますね。
キム ヨンジュ:決済のスピードが速いので、ファーストフードなどの加盟店には必要です。また、クレジットカードの場合は、発行できない人もいます。さらに、月に利用する額を予め決めることができるため、節約にも役立ちます。
eB Cardとの相互利用については、まだT-Moneyのみが利用できる端末機の方が多いです。最近の端末では双方が問題なく利用できるため、今後は両サービスが利用できる端末はさらに増えていくと思います。また、「cashbee」があることにより、競争意識が生まれたことはプラスに働いています。
「モバイルT-Money」はサービス開始から約3年で約17%の利用率
オートチャージ機能をデフォルトで搭載
――NFCを利用した「モバイルT-Money」の取り組みについてお聞かせください。
キム ヨンジュ:将来的にはプラスチックカードがモバイルに移行していくと考えています。なぜなら、プラスチックカードは限界があります。例えばコンビニエンスストアで利用する際、残高が気になります。モバイルの場合、機能として設定金額以下になるとオートチャージが利用できるため、ユーザーのロイヤリティも高まります。モバイルT-Moneyは、本格的に展開する2011年から、3年余りで17%の利用率があります。
――ポイントサービスやウォレットサービス等は展開していますか?
キム ヨンジュ:ウォレットサービスについては準備しており、今年中には形にしたいと思います。ポイントとしては「Tマイレージ」という名称で運営していましたが、リニューアルを行っています。
海外のスマホ対応はサービスの品質面から見送る
さらなる普及には利害関係者との協力が不可欠
――モバイルT-MoneyはSIM上で運営していると思いますが、ホスト上で管理するHCE(ホスト・カード・エミュレーション)が話題となっています。キム ヨンジュ:
金融サービスとして展開しているため、セキュリティは重要となります。現状、HCEについては検証されているプログラムがございません。ただ、検証ができるようになれば検討していきたいと考えています。
――日本のスマートフォン利用者が観光などで韓国に訪れた際にモバイルT-Moneyを利用できるサービスは考えていらっしゃいますか?
キム ヨンジュ:モバイルT-Moneyは17%の利用率になっていますが、当初の期待はもっと高いものでした。当初の期待通りに進んでいない理由としては品質が挙げられます。NFCが利用できるモバイル端末は数年前から登場していますが、品質が落ちるものが多かったです。弊社では品質の改善に3~4年をかけており、現状も満足していません。品質面では、無理にモバイルサービスを増やし、海外の方が韓国に訪れた際に迷惑をかけるわけにはいきません。海外のモバイルでも不具合なく、きちんと提供できる状態になった際に海外展開を行いたいと思います。
――今後の意気込みについてお聞かせください。
キム ヨンジュ:モバイルTマネーは、長い時間、苦労して、研究を重ねて、ここまで来ることができました。世界的に見てもここまで整ったモバイルペイメントはないと思います。今後は、キャリア、製造会社、電子マネー事業者など、利害関係者が集まって研究し合う体制を整えていく必要があると考えます。
※本インタビューは2014年5月に行われました。