2015年11月6日8:00
タッチでつながるさまざまなアプリケーションが登場
決済、ポイント/会員証、エンターテインメント、デジタル家電などで利用が進む
本章では、キーとなる決済をはじめ、ポイント/会員証、エンターテインメント、デジタル家電など、NFCの適用アプリケーションについて紹介する。NFCには、「カード・エミュレーション」、「リーダライタ・モード」、「機器間通信」の3つのモードがあるが、それを活用したアプリケーションも登場している。
決済分野では国際ブランド準拠の決済の広がりに期待
従来のFeliCaベースとの共存が可能に
国内では、NTTドコモの「iD」、ジェーシービーの「QUICPay」、セブン&アイホールディングスの「nanaco」、イオンの「WAON」、楽天Edyの「楽天Edy」のように、FeliCaベースのおサイフケータイを活用した複数の決済サービスが展開されている。
それに加え、今後はMasterCardの「MasterCard Contactless(MasterCard PayPass)」、Visaの「Visa payWave」、JCBの「J/Speedy(ジェイ スピーディ)」、American Expressの非接触IC決済といったように、国際ブランドが提供する決済の普及が期待できる。これらの決済は、ISO/IEC 14443 Type A/Bによるもので、MasterCardやVisaブランドは国内で対応のカードが発行されている。MasterCard PayPassについては、商業施設の「イクスピアリ」や「コレットマーレ(Colette・Mare)」で利用可能だ。
カード会社にとっても、FeliCaアプリを稼働させるには、それぞれの独自の業務アプリを搭載して、決済センターや決済代行事業者とのネットワークを敷設する必要があったが、国際ブランドが提供する決済であれば、EMVCoが統一したルールでシステムの構築が可能となるため、対応コストは下がる可能性がある。また、日本では非接触IC決済というと電子マネーのイメージが強いが、国際ブランドのルールの上で決済ができるため、将来的にはより高額な支払いでも便利に利用される可能性もある。
MasterCardでは、「MasterCard PayPass」を利用できるNFC 対応の非接触決済端末を2013年第2四半期より3年間で全国に41万台設置する計画を発表している。これらは、国内の大手カード会社である三菱UFJニコス、三井住友カード、ユーシーカード、オリエントコーポレーションによって展開されると発表されているため、徐々にアクセプタンスは広まると期待したい。
また、Appleの「Apple Pay」、サムソンの「Samsung Pay」、Googleの「Android Pay」といったグローバルプレイヤーが提供する決済サービスの広がりも期待される。
決済以外のサービスも搭載したウォレットサービス
アプリケーションが先行する国内は普及に向け一日の長?
また、決済に加え、ポイント、会員証、クーポンといった他のアプリケーションを搭載可能なウォレットサービスの普及も期待される。海外では複数のウォレットサービスが登場。たとえば、MasterCardは、2013年2月25日、次世代型デジタル決済サービス「MasterPass」を発表した。同サービスは、店頭やレジはもちろん軒先でも、NFC、QRコード、電子タグ、モバイル機器などを使った決済が可能だ。利用者は、オンライン、実店舗など、どんな場所からでも、マウスでのクリックあるいは画面でのタップやタッチだけで、あらゆる種類の決済カードや対応するデバイスを利用して決済を行うことができる。
国内でも大日本印刷がウォレットアプリケーションを提供している。クレジットカード、キャッシュカード、ポイントカードなどのアプリケーションをまとめて提供できるサービスとなる。
また、ハイパーソフトでは、全国の美容サロンで展開しているPOSシステム「Salon de Net(サロン・ド・ネット)」と連携したスマートフォン用サービス「Salon de Wallet」を提供している。同サービスは、美容サロンの顧客がヘアサロン、ネイル、エステ、マッサージなどの会員証をスマートフォンで一元管理できる機能や、美容・ヘルスケア・ファッションに関する新製品情報やクーポンを提供し、既存顧客の満足度を高め、新規顧客の拡大に役立てていくという。
ギフト/プリペイドカードサービスはNFCとカードの併用
決済端末としてスマートフォンを活用
クローズドな電子マネーへの活用も期待される。国内では、凸版印刷/富士通エフ・アイ・ピー、バリューデザイン、大日本印刷、レピカなどがサーバ管理型のギフト・プリペイドカードのASPサービスを提供しているが、すでに非接触カードで発行している流通企業もある。今後も「MIFAREウルトラライト」や「NTAG」、「FeliCa Lite-S」といった安価なNFCタグを利用したカードを発行するケースが増えると予想されるが、カードを補完する形でモバイル対応を行うケースも増えてくると思われる。
また、リーダライタ・エミュレーションを利用して店舗の読み取り端末にスマートフォンを使用することも考えられるだろう。これにより、読み取り端末設置のコスト削減が可能となる。たとえば、クレジットカードなどのEMV決済は、店舗の読み取り端末として利用されるのは、若干時間がかかると思われるが、クローズドなギフト・プリペイドカードであれば、セキュリティの問題さえクリアできれば早期の実現が期待できる。
住基カードや運転免許証を認証カードとして幅広く活用
生保・損保の利用シーンも拡大へ
認証分野での活用も期待できる。NFCスマートフォンのリーダライタ・エミュレーションを利用して、マイナンバーカード(個人番号カード)、住民基本台帳カード(住基カード)、運転免許証など、個人認証ができるICカードのデータを読み取って認証に使うシーンも考えられる。たとえば、手元の免許証の情報を、PIN(Personal Identify Number)で照合して認証し、データを携帯電話の通信機能で金融機関などのサーバに送り、口座の残高照会、資金移動などのサービスに使う方法が想定される。
生保・損保では、スマートフォンやタブレット端末の活用が比較的進んでいる分野であるといえる。生保・損保の営業員がタブレットやスマートフォンを利用して訪問営業を行う際、住民基本台帳カード(住基カード)や運転免許証を利用して顧客の認証を行うことが考えられる。また、最近では説明資料をタブレットで紹介するシーンなども見受けられるが、Peer to Peerの機能を利用して情報を伝送することも可能となる。
交通分野では世界各国で活用が進む
スマートポスターによる時刻表データの受信や乗継の案内も可能
鉄道やバスで利用できる交通カードは、有望な分野だ。国内の交通機関では、JR東日本の「Suica」、首都圏のバスや地下鉄などで利用できる「PASMO」、JR西日本の「ICOCA」などで、おサイフケータイとFeliCaを採用している。海外では、TypeA/Bを活用した交通乗車券を導入しているところもあるが、それに加え、ロシアなどのように、安価なNFCタグを導入したチケットを採用するケースも見受けられる。
また、日本の「モバイルSuica」のようなモバイルサービスが海外で展開されている。たとえば、韓国では、コリアスマートカード(Korea Smart Card)が2011年から、モバイルを活用して鉄道乗車が可能な「モバイルT-Money」を展開している。また、香港では、2013年秋から、Gemalto製のSIMカードを活用したチケットシステムをOctopus(オクトパス)が、キャリアのPCCW-HKTと協力して実験を行ってきたが、2014年4月から商用サービスがローンチされた。FeliCaを活用したモバイルサービスをSIMで運用する初のケースとなった。
短期での実現は厳しいかもしれないが、将来的には海外の利用者が手持ちのスマートフォンで日本の鉄道乗車ができるような仕組みの構築にも期待したい。
決済と連動したポイントやクーポンサービスの浸透にも期待が持てる。すでにおサイフケータイでは、日本マクドナルドの「かざすクーポン」等が展開されている。携帯キャリアなどでもNFC搭載スマートフォンの普及により、決済とクーポン、ポイントなどとの連動をスムーズに図りやすくなると期待している。
また、Tポイント・ジャパンと、キタムラは、Tカードの機能がスマートフォン・携帯電話に搭載された新サービス「モバイルTカード」を、2014年11月6日より、電子マネーが使える「カメラのキタムラ」店舗で導入した。
スマートポスターを活用した送客サービス
書籍などのノベルティにも活用可能
NFC搭載スマートフォンのリーダライタ・モードを活用したスマートポスターの代表的な活用例は、ポスターやカタログなどに添付したNFCチップにURLを仕込み、NFC搭載スマートフォンや携帯電話で読み取るとサイト誘導するアプリケーションである。具体的には、水族館や動物園などのエンターテイメントの活用、飲食店のクーポン、期間限定のセールを行うショッピングサイト、モニターのアンケートサイトなどが挙げられる。
たとえば、駅の構内や電車内でNFCタグ搭載のスマートポスターを添付し、NFC搭載スマートフォンでタッチするとクーポンを配信して実店舗に送客するサービスが考えられる。QRコードの場合、読み取りに時間がかかるといった課題があったが、NFCタグであればその課題も解決できる。また、店舗の敷地面積が狭い場合、商品を紹介したPOPにNFCタグを添付することで、販売商品のWebサイトにスムーズに誘導させるといった取り組みも行われることだろう。
さらに、NFCタグの固有の識別子を利用して、ログを蓄積することが可能だ。たとえば、どのタッチポイントが一番多くかざされているのかといったデータを把握することもできる。
安価なNFCタグを出版物やガイドブックなどに添付してプロモーションに活用する事例も増えそうだ。最近では、出版物にノベルティをセットにして販売するケースも出てきているため、たとえばアパレルブランドがノベルティに添付してサイトに誘導し、オンラインショップでの購買につなげる手法などが考えられる。
また、図書館ではISO/IEC15693のICタグを書籍に添付して利用しているが、将来的には書棚に添付されたタグとの連携も考えられる。また、NFCスマートフォンのリーダライタ機能を活用した在庫管理や貸し出し管理なども期待できそうだ。
NFCとSNSとの連動
リアルの行動をネットに拡散
NFCタグとソーシャルメディアとの連携も期待される。流通店舗やイベントなどの事業者は、スマートフォンでSNSのアカウント情報をリストバンド型のNFCタグに紐づけ、顧客や参加者に配布。ユーザーは、気に入った商品やサービスの脇に設置されたNFC搭載スマートフォンに、NFCタグを内蔵したリストバンドをかざすことで、ソーシャルメディアのページに投稿が自動的に行われ、個人のページにもコメントが投稿される。将来的にNFCスマートフォンが普及すれば、リストバンドの配布なく手持ちのNFCスマートフォンをかざしてSNSへ投稿することが可能となる。
同システムにより、リアルとデジタルを融合し、実際の行動が即座にソーシャルメディアに反映されるプロモーションを実現可能だ。ソーシャルメディアのメリットは、共有する利用者との広がりが期待できる点である。投稿されたコメントは、仲間のページにまで共有・伝播され、高い宣伝効果が期待できる。
プロトコル・ハンドオーバーによるデータ転送が可能に
ビデオカメラ、ゲームマシンなどでコンテンツ転送
NFCは、プロトコル・ハンドオーバーの技術を利用してペアリングを行い、データ通信はより高速のプロトコルに引き継ぐことが可能だ。この技術は今後、数多くのアプリケーション構築に生かされると考えられる。また、スマートフォンに加え、カーナビやゲーム機、テレビなどにNFCリーダが搭載されることにより、アプリケーションの幅が広がることは間違いない。すでに、ソニーやパナソニックでは、NFCを搭載した家電を発売している。
家電の活用として、たとえばNFCを搭載した炊飯器の場合、NFC搭載スマートフォンやタブレット端末が手元にあれば、スマートフォンを炊飯器本体にタッチするだけで、お米の種類や炊き方、炊き上がり時間設定ができる。このような技術は、電子レンジ、冷蔵庫などにも応用が可能になるだろう。また、洗濯機にNFC機能が搭載されれば登録した洗濯物情報をサーバに保存し、洗濯機にスマートフォンをタッチすれば簡単にコース・予約設定ができるといったこともできるようになる。ヘルスケア製品でもNFC対応の健康機器をかざして健康管理を行うシステムが稼働している。今後は、タブレット端末を訪問介護の管理用端末として利用する方法なども考えられる。また、カードやNFC対応機器を端末にかざして高齢者の「見守りサービス」的に利用することも可能だ。
さらに、カーナビにNFCリーダが搭載されれば、音楽、通話、地図、写真、Webなどの情報を流すことが可能となる。当然、スマートフォンは車やオートバイのキーとしても活用が可能だ。
NFCを活用した所在管理は注目の分野だ。現在、ある程度高額の商品には物品管理・不正対策としてNFCタグやモジュールが搭載されているそうだ。さらに屋外の用水路や電信柱などの劣化情報を管理することも可能になる。
また、物流分野での活用も焦点となる。NFCフォーラムでは、NFCタグの物流分野での活用を進めている。UHF帯ICタグは、読み書きを行うリーダライタが専用端末だったが、NFCスマートフォンを活用することで価格を抑えることが可能だ。また、BtoBに加え、BtoCの活用も想定される。