2016年11月28日8:30
多慶屋では、2015年12月1日から中国人決済サービス「Alipay(アリペイ)」の店頭決済を導入している。導入から1年が経過したが、Alipayのプロモーションと連携した取り組みにより、想定以上の集客につながるなど、成果を感じているという。同社では、「銀聯」や、他の中国系決済も導入するなど、訪日外国人の取り組みに力を入れている。
幅広い商品を取り扱い、中国人観光客の売上は2割に達する月も
Alipayのリアルイベント「W12」に合わせて導入
御徒町を中心に店舗を構える多慶屋は、老舗ディスカウントストアとして食品・生活用品・医薬品から家具・家電・衣料品に至るまで、幅広い商品を取り扱う。年間43万人の訪日外国人が来店しており、最も多い旅行者は中国だが、台湾、タイの顧客も目立つ。同社の免税売上は、2016年4月からの中国の税法改正で、高額品については売れ行きが減少しているものの、「まだまだ高い金額を示しており、件数ベースでは前年並みで推移しています」と多慶屋 企画部 馬躍原氏は話す。中国人観光客を含む免税の売上は、全売り上げの2割に達するときもある。多慶屋には、中国人スタッフが約30人おり、接客に力を入れている。
訪日中国人向けの決済としては、「Alipay」、「銀聯」、「WeChat Pay」を導入している。最も利用されている決済手段は銀聯だが、「Alipayもイベントを行うと、銀聯を上回る取り引きが発生しています」と、多慶屋 企画部部長 伊藤欣司氏は説明する。
Alipayの導入は、決済処理事業者のユニヴァ・ペイキャスト、およびLe Shanghai合同会社の協力を得て実現した。導入前は、金銭の管理、店舗でのオペレーションなどが課題に挙がった。まず、金銭の管理は、すでに非対面でAlipay決済を提供しているユニヴァ・ペイキャストと連携することで、社内の理解を得た。また、「システム面では、タブレットにアプリをダウンロードするだけでよく、POSシステムの改修が不要だったことが大きかったです」と、伊藤氏は説明する。
実際のローンチは、W12(12月12日に行われたアリペイのフェア)に間に合わせる形で準備に取り掛かった。11月11日のW11がコマースのイベントであるのに対し、12月12日はリアルの最大のイベントとなる。伊藤氏は、「9月に準備を開始し、結果的に2カ月で導入に至りました」とほほ笑む。現在、iPad miniは計53台を導入している。
「W12」では免税販売件数のうち46.98%を占める
次回の決済時に使える電子クーポンが買い回りに寄与
W12では、500元購入してもらうと、200元をキックバックするキャンペーンをAlipayが実施。利用者は、同クーポンを使用して買い物をすると、次に店舗で決済するときにその金額が自動的に差し引かれる電子クーポンとなった。多慶屋は御徒町に複数の店舗を構えているが、「次の会計で使用いただけるため、買い回りにつながります。弊社はフロアが多いので、この仕組みは相性がいいです」と伊藤氏は笑顔を見せる。馬氏は、「期間中は一日中、店舗にいたお客様もいらっしゃいました」と話す。
同月は同店全体で推定2万5,000人の中国人客が来店し、免税手続件数は約8,300件、免税基準額を超えるAlipay決済は約3,900件にのぼり、免税販売件数のうち46.98%を占める結果となった。特に多慶屋SELECT上野店では、W12のイベント効果もあり、12月の総販売件数のうち約10%、金額にして約25%をAlipayが占めた。また、同期間は銀聯の決済額も大きくは落ちておらず、プラスオンとなったことも大きい。
導入時の課題として、新たな決済手段であったため、店舗のスタッフの混乱がないように努めたが、「閲覧画面は中国語であり、また、現場の社員が実際に支払いを体験できないため、シミュレーションがそれほどできなかったことが大変でした」と伊藤氏は打ち明ける。しかも、キャンペーンと同時の導入で、想像以上の利用者が訪れたため、キャンセル発生時等、店員のオペレーションが苦労した部分もあった。
「Alipayは日本での本格的な普及はこれからであり、プロモーションもANT FINANCIAL様が積極的に行っており、W12により認知度も向上しました」(伊藤氏)
Alipayが日本に進出する際、中国現地で記者会見を行ったが、上野店の横断幕がプレスリリースに使用されたこともプラスとなった。
決済単価は2万円弱と高額でも普通に利用される
今後もAlipayのプロモーションに期待
実際の利用者の決済単価をみると、「元々は、日本の電子マネーのように少額決済が多い想定をしていましたが、単価は2万円弱ありました。銀聯よりはやや低いですが、高額品でも普通に利用されています。また、Alipayは、販促活動に積極的であり、化粧品などのまとめ買いが起きています」と多慶屋 企画部 経営企画課 課長 東方宏昭氏は話す。
多慶屋の平均決済単価や、クレジットカード決済の平均単価と比べても非常に高い金額だ。傾向として、「比較的年配の方は銀聯が多く、30代前半まではAlipayを抵抗なくお使いいただけています」と東方氏は話す。2016年8月には、Alipayの売り上げが9,600万円、9月には売り上げが1億円程となったように、キャンペーンと絡めた施策により、取扱高は順調に推移している。
直近の取り組みとして、Le Shanghaiの協力を得て、Alipayのアプリのトップ画面からジャンルを選択し、利用者が訪問したいお店を選んで来店すると、特典が受けられるO2Oサービス(「Koubei」中国語名:口碑)をスタートしている。まだまだ導入初期だが、「少しずつ効果が出てきました」と伊藤氏は語る。
地に足をついたインバウンドを強化
海外、国内の決済事業者と連携し集客を図る
このように、Alipayを導入した1年間は想定以上の効果を得ることができた。ただし、「我々は、いち早くAlipayを導入できたことで、最初のボーナスステージに立つことができました。現在は税法の改正により、爆買いのボーナスがなくなる中で、地に足をついたインバウンド施策をどのように行うかが課題となっています」と伊藤氏は気を引き締める。
決済に関しては、各決済事業者も加盟者が喜ぶことをテーマに施策を進めているため、多慶屋と連携する機会も増えている。今後もAlipayとのパートナーシップを深めることはもちろん、日本のジェーシービーや三菱UFJニコスなどと協力し、集客に力を入れる方針だ。伊藤氏は、「決済事業者との連携は海外から来られる観光客から見て、安心感を得ていただくことができます」と口にする。決済手段としては、DCC(ダイナミック・カレンシー・コンバージョン)の準備も進めているそうだ。