2017年1月25日8:30
訪日外国人による日本国内での決済であるインバウンド決済においても、日本人の海外旅行者による外国での決済であるアウトバウンド決済においても、日本にとってコンタクトレスペイメントは難しい問題をはらんでいる。
先に紹介したJCCA(日本クレジットカード協会)の『観光立国実現に向けたクレジットカード業界としての取組』(2014年12月)において、「カードをかざすだけで(スワイプせずに)決済できる環境(Pay Pass、pay Wave等)が少ないことが不満だった」という回答が8%寄せられていた。3年前の2014年の調査において8%という小さな比率だったとはいえ、EMV化を達成した国ではVisa payWave(Visa)やMastercard Contactless(PayPass、Mastercard)、American Express Contactless(Express Pay:アメリカンエキスプレス)などのコンタクトレス化が、現在、急速に普及しつつある。自国でコンタクトレスペイメントになじんだ訪日外国人旅行者からの、こうしたコンタクトレスペイメントに未対応である日本のインバウンド決済への不満は、増えていくものと思われる。
一方、日本のクレジットカードはEMV化が遅れているうえ、クレジットカードのコンタクトレスペイメントへの対応は、オリエントコーポレーションやジャックスなどごく一部のクレジットカードにとどまり、実質的には未対応の状況にある。日本人の海外旅行者のクレジットカードを用いたアウトバウンド決済において、EMV化されていないクレジットカードの場合は、パスポートなどの提示を求められたり、カードによる決済自体を拒まれたりすることも予想される。
イギリスやカナダ、オーストラリアなどEMV化を成し遂げた国では、コンタクトレスペイメント化が急速に進んでいる。韓国や台湾、中国、香港、シンガポール、マレーシアなど多くの訪日観光客を送り出している国でも、EMV化がほぼ完了している。こうした国では、少額決済のショップを中心にコンタクトレスペイメントが一般化して、通常の決済手段となっており、日本人の海外旅行者のアウトバウンド決済においても、特に少額決済の場合には、クレジットカード決済がスムーズに行われないシーンが生まれる可能性がある。
コンタクトレスペイメントソリューションには、クレジットカード、オフラインデビットカード、オンラインデビット、オープンループのプリペイドカード、IC電子マネー、IC乗車券、NFC(Near Field Communication)モバイル財布などがある。中国の支付宝や微信支付などのQRコードによるモバイルペイメントも、NFCモバイル財布と同様に、コンタクトレスペイメントソリューションに含める考え方もある。日本でコンタクトレスペイメントが全く普及していないわけではなく、2000年代中頃には、SuicaなどのIC乗車券やEdyなどのIC電子マネー、モバイルSuicaなどの非接触技術が世界に先駆けて普及してきた。
インバウンド決済とアウトバウンド決済におけるコンタクトレスペイメントの問題は、クレジットカード、オフラインデビットカード、オンラインデビットカード、オープンループのプリペイドカードにおいてVisa payWaveやMastercard Contactlessのコンタクトレスペイメントの対応が行われていないことである。FeliCaとNFC TypeA/Bの問題から、2016年末現在、モバイル財布Apple Payにおいても日本仕様のAppleスマートフォンはアメリカやイギリス、カナダなどのVisa pay WaveやMastercard Contactlessのカード加盟店では使えず、アメリカやイギリス、カナダなどのAppleスマートフォンでの日本のカード加盟店での決済はほとんどできない。
今後は2020年に向け、国内の利用者が便利に使用できるFeliCaベースの非接触決済の加盟店開拓はもちろん、TypeA/Bに対応したコンタクトレスペイメントのインフラ整備に期待したい。