2019年6月11日8:00
ヤフーは、2019年5月31日、東京国際フォーラムにおいて「地域デザインラボ展2019」を開催した。当日は、スマートフォン決済サービス「PayPay」を導入した石川県金沢市最大規模の商店街である近江町市場商店街振興組合の取り組みが紹介された。
PayPayを選んだ理由は大きく6つ
石川県金沢市の近江町市場商店街振興組合(以下、振興組合)では、2019年3月28日から、ソフトバンクとヤフーが共同出資する PayPayのスマートフォン決済サービス「PayPay」を金沢市最大規模の商店街である「近江町市場」 で導入している。
近江町市場は、江戸時代から300年間金沢の食卓をさせてきた海の幸や生鮮食品などが介した市場だ。国内でもキャッシュレス化の推進に期待が高まる中、金沢市では「新産業創出ビジョン」を発表したが、キャッシュレス化への動きが鈍かったという。また、地域の店舗にとっては、①決済手続きが煩雑、②端末の導入/入金に費用がかかる、③入金に時間がかかる、④キャッシュレス自体が不便、という先入観があった。
近江町市場では、利用者の高齢化が進んでおり、若い世代にも足を運んでもらいたいという思いがある。また、2019年10月の増税時、期限付きで導入されるキャッシュレス決済のポイント還元では、キャッシュレス決済の有無により店舗の選別が進むことも考えられるため、キャッシュレス決済に現時点から慣れておく必要性も感じていた。
振興組合が他の決済手段ではなく、PayPayを選択した理由として、①QRコード決済の導入が簡単・手軽であった点、②導入・運用コストが期間限定で不要であったこと、③日常づかいを想定していること、④現金を持ち歩かない若年層など、新たな顧客の開拓チャンス、⑤共同キャンペーン実施により高いPR効果を期待、⑥営業人数が多く安心フォローが期待できる、という6つがあった。
振興組合が中心となり契約などを徹底サポート
実際に、意思決定から導入までは、3カ月の短期間で進んだ。1月17日に商店街振興組合の販促委員会で勉強会を実施。その際は、個別にPayPayを導入している店舗から「簡単、費用が掛からない」というメリットが挙がった。2月15日には、PayPayからQRコード決済の説明会を受け、その3日後の18日には理事会で、商店街に導入する方針を固めた。同25日には、PayPayと包括加盟店契約を結び、全組合員向けに説明会を実施。また、当日説明会に参加できなかった店舗にも1件1件説明を行っている。その結果、3月28日のローンチ時には、170店舗のうち130店舗が導入している。
PayPay導入のハードルを下げるため、2019年3月~2020年2月を「お試し期間」として、振興組合が中心となって契約などを徹底サポートしている。具体的には、振興組合がPayPayと契約をして、決済関係の手続きを代行した。結果的に、130店舗のうち80店舗が包括契約で導入を行った。
PayPay開始の3月28日~30日には、利用活性化策として、対象店舗での買い物でスタンプを2つ集めるとくじが引けるキャンペーン「近江町市場×PayPay スタンプラリーキャンペーン」を実施した。同キャンペーンでは、「近江町市場」で使える最高 2,000 円相当の割引券(商品代金の最大 50%まで利用可能)が当たり、「PayPay」での決済時に利用できた。同キャンペーンの成果もあり、当該3日間には900回の決済、PayPay決済金額100万円の売り上げがあったそうだ。また、スタンプラリーは800枚を回収している。
組合員、利用者ともにPayPay決済に肯定的だった一方で、QRコード決済はクレジットカードなどの決済に比べて利用者、店舗の浸透が進んでいないという課題もある。また、特に高齢者にはなじみが薄い面もある。その課題解決に向け、振興組合では金沢市の普及啓発に期待する。金沢市では5月に「キャッシュレス決済普及促進協議会」を設置するなど取り組みを進めているとした。
地域と複数企業が連携し課題解決に取り組むための情報交換と議論の場として開催
地域デザインラボは、民間企業が連携して地域の課題解決に貢献するラボとして2018年より、多くの自治体のと協働し活動している。それに伴い、2018年まで企業の自治体向けソリューション紹介の場として開催されてきた「地方創生フォーラム」は、自治体が主導して地域と複数企業が連携し課題解決に取り組むための情報交換と議論の場、地域デザインラボ展として2019年よりアップデートして開催している。
当日は、最近の地方創生の動向について、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局次長の川合 靖洋氏が講演した。また、地域デザインラボが取組む自治体との取り組みの現状について、ヤフー SR推進統括本部 CSR推進室 マネージャー 内藤 剛氏が紹介した。そのほか、「SDGs未来都市・横浜が挑む様々な主体との連携による持続可能なまちづくり」についてのセッションも実施。午後には、鳥取県知事 平井 伸治氏が登壇し、「地域資産活かす誘客へ向けた官民協業の取組み」についての講演、クロストークを行った。また、福山市 企画財政局 企画政策部 部長 中村 啓悟 氏、北海道遠別町 遠別農業高校 校長 佐藤 裕二氏など官民の当事者が、自治体が成果を上げた地域の人財育成とプロ人財の活用事例についてトークセッションを実施した。
なお、地域デザインラボ展は、6月27日に滋賀県大津市、7月3日に福岡圏久留米市での開催を予定している。