2011年2月15日7:49
アメリカン・エキスプレス:消費者支出の展望(6)
Ginkanomics
(シルバー経済)
日本の消費者は、長生きで健康的な生活をしている。総務省によれば、現在65歳以上の日本人は2,940万人(2010年10月現在)、2008年の国連推計では、2050年には人口の3人に1人以上(37.8%)が65歳以上になる見通しだ。年金暮らしの夫婦の平均貯金額は2,400万円以上で、1世帯の毎月の平均支出額は、60~69歳の年齢層が最も高いと政府は伝えている(2009年、『The Independent』紙)。この層の人たちは、自由な晩年生活を楽しみ、平均的な消費者に比べ贅沢な商品にお金を使っており、この年代に特化した商品に対する需要の成長を後押ししている。さらに、彼らには特色がある。より環境に配慮し、地元に根ざしたものへの意識が全国平均よりも高いことだ。
「シルバー・マーケット」の経済力はかなり強く、日本の経済回復に欠かせない要素だと考えられている。政府統計によると、2009年における60歳以上の消費額は前年比で1.2%増加しているのに対し、30歳以下の支出額は7.3%減少している。企業は、高級品や実用的な商品・サービスを扱うことで、高齢者の活発な市場から利益を得たいと狙っている。
本調査によると、65歳以上の93%が高級品を購入している。これは、国民平均の88%より高い。高島屋や三越などのデパートでは、ワニ皮で覆ったデザイナーブランドの杖や、Swarovskiのクリスタルグラスをちりばめた5万6千円もする杖の取り扱い
を始めた。
研究機関であるInformation et Inspirationによれば、このような傾向を踏まえて、シルバー層にターゲットを絞った広告や商品開発が生まれている。カネボウChicca(キッカ)と資生堂エリクシールプリオールのフェイスクリームは、どちらも60歳以上の有望な市場を狙っており、同年代のモデルを広告に起用している。
同機関によると、60歳以上が購入する化粧品は全体の19%を占め、この数字は毎年4%の割合で増加すると予測している。本調査では、65歳以上の59%が最も気にしている事項として健康を挙げており、日本で健康・ウェルネス市場が新たに伸びていることがそれを裏付けている。そして、日本は世界で2番目に大きな医薬品市場であるとオンライン・メディカルニュースの
『Just Pharma』は報じている(2010年10月)。
このシルバー層が小売や商品開発のイノベーションに拍車をかけている。象印マホービン社が発売した、i-Pot(アイポット)は高齢の家族や親族の安否を伝えてくれるインターネット接続の電気ポットである。さらには買物かごを持ってくれるロボット、Robovie-Ⅱ(ロボビー・ツー)まで登場した。シルバー層が消費者として特に求めているのは、分かりやすさと使いやすさである。ローソンが店内の棚をより低くし、通路の幅を広げたことなどがその良い例である。
この世代を対象として富士通が開発した携帯電話らくらくホンは、2001年の発売開始以来1,800万台を売り上げ、最新モデルには簡単にインターネットにアクセスしてシニア向けの旅行・グルメ情報が無料で得られる機能が付いている。シルバー・マーケットに受け入れられる鍵を握るのは、機能的でシンプルなデザインと小売スペースが提供できるかどうかだ。
今後10年間で影響力と購買力を増していくシルバー層を狙うために、各企業が注力しなければいけないことは、セグメントをきちんと絞り、この世代の需要に見合った商品と広告を作ることである。
65歳以上の人が人生で優先する事
: 健康 (85%)
: 家族と過ごす時間 (52%)
: パートナーと過ごす時間 (34%)
: 文化的な知識 (33%)
: 友達と過ごす時間 (25%)
消費者ケーススタディー: Ginkanomics
北九州に住むササキノブエは62歳の退職者である。家族は近くに住んでいるが一人暮らしをしている。
ノブエは引退後の生活を十分に楽しんでいる。仕事をしていた頃を懐かしく思うことはあるものの、今は家族と一緒に過ごす時間が増え、訪れたことのない面白い場所を旅行する時間も持てるようになった。「自由な時間はたくさんあります。でもそれほど貪欲になりたいとは思いません」とノブエは言い、近所の同じく退職した人たちとスポーツや趣味、イベントを楽しむ時間を持ちたいと望んでいる。
買物については、ノブエはここ数年習慣を変えていない。「買物は好きです。幸せな気分になります」と彼女は言う。「でも、必要ないものにお金を使わないようにしています」。買物は若さとやる気を保つための大切な手段だと彼女は感じており、東京の娘を訪ねる際には一緒にエステへ出かけるのを楽しみにしている。
若者世代について質問されると、最近の若い人たちは凄い物質主義だと感じている。ノブエは、「若い人たちはステータスや物質的・表面的なものを気にし過ぎています。競争することに夢中で自らを苦しめています。そのような状況で幸せな人生を送ることはできないのでは」と感じている。
ノブエが求めているものは面と向かってのコミュニケーションと交流である。彼女はインターネットを使って、Skypeや音楽・画像サイトを利用するものの、次のようにも述べている。
「私はインターネットで『遊んだり』『交流したり』はできません。とても難しいですから。買物はすべて店舗でします。インターネットでの買い方がよく分かりませんし、それほど楽しいとも思えません」