2015年10月21日8:30
オープンプラットフォームへのチャレンジを目指す
日本のICカード市場でデファクトスタンダードとなったソニーのFeliCaだが、2015年10月1日、2日に開催された「FeliCa Connect 2015」では、新たな形状のデバイス、グローバルでオープンな仕様への対応の発表など、さらに進化した“かざす”ライフスタイルの提案が行われた。今回は、ソニー IP&S PSG FeliCa事業部 事業部長 坂本和之氏に、FeliCaおよびNFCでソニーが目指す今後の方向性について説明してもらった。
2020年を睨んだ時に新たな展開が必要
業界に一石を投じる
――「FeliCa Connect 2015」では、ウェアラブル型のリング、ブレスレット、チャーム、キーホルダー型のFeliCaや、パーツを組み込めるデタッチャブル型FeliCaについて展示されましたが、このようなソリューションを発表された理由についてお聞かせください。
坂本:FeliCaの事業はもともとBtoB主体でビジネスを展開してきました。ここ数年は、コンシューマエレクトロニクス向けにもFeliCa/NFCを搭載し、タッチするだけでBluetooth等のペアリング(機器登録)や接続・切断ができる「ワンタッチ機能」を提供してきましたが、もう一段ブレイクできない部分もありました。その閉塞感を拭い去り、東京五輪が開催される2020年を睨んだ時に、さらなる成長曲線を描くためには、何か違うものを提供していくことが必要です。そして、それを実現するためには、当然トップダウンもありますし、ボトムアップで活動することも必要であると個人的に感じています。
ソニーではここ数年、アイデアコンテストの開催などの場を設けており、市場に投入できそうなソリューションも徐々に生まれています。また、内向きな話だけではなく、業界的にも今後われわれがFeliCaやNFCをどう展開していくかを発表することにより、市場を活性化し、新しいユースケースを作るきっかけになればと感じています。もちろん、これですべてが変わるとは思っていませんが、業界に一石を投じたいという思いもありました。
――実際の商用化の目処についてはいかがでしょうか?
坂本:ソニーにはFeliCaの検定スキームがあり、通信性能などの厳しい基準が設けられています。そこを含めて完成させるとなると、まだ完璧に実現できているわけではありません。
あくまでも今回の展示は技術主導で動かしましたので、実際のビジネスはこれからですが、自社での展開はもちろん、協業モデルを組めればと考えています。当然、ネガティブな意見があるのも覚悟のうえで発表しましたが、市場の声を聞いて商品、ビジネスをブラッシュアップすることも今回の発表の目的の一つです。こういう声に、どのように機動的に対応していけるのか、これも我々の組織的な課題だと認識しています。
――昨年の「FeliCa Connect 2014」でお披露目となったインタラクティブFeliCaカードについての進展をお聞かせください。
坂本:昨年、インタラクティブFeliCaカードを発表して、数多くの意見を頂戴しました。中でも、カードの厚みをクレジットカードと同じくらいまで薄くできないかというご意見を多くいただきましたので、1年間技術開発を進め、「FeliCa Connect 2015」では、カード厚まで薄くすることができました。ただ、耐久性など、実際にクレジットカードとして使用する際の課題はありますので、引き続き開発を進めています。
ICカードのオープン仕様「Global Platform」へ対応
グローバルにおいてソフトウェアベースの対応を準備
――ICカードについてのグローバルのオープンな標準仕様である「Global Platform」(グローバルプラットフォーム)への対応を発表されましたが、その理由についてお聞かせください。
坂本:モバイルへの対応についても変化をつけていかないと、次の10年、20年先を見据えた時に、出口を見つけるのは難しくなると予想されていますので、オープンな技術への対応のトリガーを引いています。
モバイルハンドセットは一般的に一括で部品を調達するので、ローカルへの仕向けをするのは、今後難しい状態になります。そのため、なるべくハードウェアはグローバルに調達できるものを選定して、そのうえでFeliCaが載る環境を整備していく必要があります。ソフトウェアで提供できると、市場環境にフレキシブルに対応できるようになります。よって、それにあった仕様としてGlobal Platformに対応することにしました。
――昨年の「FeliCa Connect 2014」では、FeliCa対応サービスとの互換性とNFC標準規格への準拠を両立した第三世代のモバイルFeliCa ICチップを発表されました。
坂本:昨年、第三世代のチップを発表しましたが、従来のチップが日本市場でなくなるわけではありません。今後数年間は既存のプラットフォーム上でビジネスが展開されますし、交通アプリケーションのように、ゲートを通過する処理速度を考えた際はソフトウェアのモデルだけではパフォーマンスを出し切れません。その課題をクリアできるまで数年はかかりますが、その時にボタンを押しても間に合いませんので、事前に開発を開始します。
ISO-7816は国際提案中
アジアで各国に根付いたサービスの展開を目指す
――クラウドベースのHCE(Host Card Emulation)によりFeliCa通信を行える「HCE-F」を発表されましたが、現在の状況についてお聞かせください。また、ISO-7816も国際提案中と伺いました。
坂本:HCEに対応した「HCE-F」は現在、われわれのコントリビューションは終了し、Androidの「Android Open Source Project(AOSP)」のレビュー中となっています。
また、提案を進めているISO7816は、ICカード規格の中に、とくにファイルシステムやデータをどのように書き込むかというレイヤーが載っていますが、そこにFeliCaの特徴的なファイルシステムの中身を提案しています。FeliCaの長所である1つの鍵で複数のファイルシステムにアクセスできる仕組みが対象です。すでに日本でのレビューが終了し、国際提案に入っています。7816にFeliCaのファイルシステムが入ることで、7816でも高速にファイルアクセスができるようになり、利便性が増すものと期待しています。もちろん、標準化への道のりは長いため、たどり着くのは時間が必要であると認識しています。
――香港やインドネシアなどではFeliCaのシステムが採用されていますが、今後のFeliCaの国際展開についてお聞かせください。
坂本:われわれはもう一回チャレンジしたいと考えています。たとえば、成長率の高い国で、ローカルのSIerとアライアンスを組んで各地域に根差したサービスを展開していきたいです。インドネシア、ベトナム、香港など、キーとなる国において、地域に根差して展開し、そこからさらにビジネスを広げていきたいですね。