2017年12月1日8:50
スマホ/タブレットから商品を注文、電子マネーで代金支払い
過疎地・高齢者の“買い物難民”を救済する「御用聞きAI」を開発
TISと大阪大学ベンチャーキャピタル(OUVC)は、AI×FinTechのベンチャー企業、エルブズに共同出資した。11月30日に東京・新宿で記者発表会を開き、発表した。エルブズは、京都府南山城村、大阪大学とともに、AIを用いて過疎地の高齢者の生活をサポートする「御用聞きAI」を開発し、現在、実証実験を行っている。今後は、「御用聞きAI」の複数地域での利用を推進するほか、電子地域通貨「エルブズコイン」、および、Bluetoothを利用する独自の決済ソリューションの展開を図る。今回の増資を機に、全国の過疎地に住む300万人以上を結ぶ「過疎地連携経済圏構想」実現に向けて、動きを加速させたい考えだ。
過疎地の経済活性化、高齢者支援のためにAIおよびFinTechを活用
エルブズは、「社会性を持つAIで幸せを提供する」をビジョンとして掲げ、高齢者に寄り添うコミュニケーションサービスの提供を目指すベンチャー企業。2016年2月の創業時より、人口約3,000人、高齢者比率40%超、コンビニは1軒もないという京都府南山城村と協定を結び、“買い物難民”と言われる過疎地に住む高齢者を支援するためのサービス開発を進めてきた。まず、現地の高齢者にインタビューを行い、意見を吸い上げて、「御用聞きAI」のアルファ版を制作。ロボットの研究を行っている大阪大学の石黒浩教授の研究室との共同研究により、改善を重ね、2016年11月からはベータ版の実験を開始し、現在も実証実験を継続中。南山城村のほか、2017年には愛媛県八幡浜市、徳島県三好市でも実験を行った。
チャットアプリ「御用聞きAI」では、役場、店舗、タクシー会社などのCGエージェントがスマホ/タブレットの画面に登場し、ユーザーに対応。ユーザーは、2~4程度示される選択肢をタップして、希望を伝えたりエージェントとの対話を楽しんだりする。音声入力も可能という。この開発には大阪大学大学院 石黒研究室が培ってきた対話技術が存分に生かされた。
高齢者にとって、クレジットカードの利用はハードルが高いと言われる。そこで買い物の代金支払いには、独自開発の電子地域通貨「エルブズコイン」を利用できるようにする。すでに技術開発は完了しており、現在は、資金決済法の手続きに入っている段階だ。
また、エルブズでは、Bluetoothを利用し、スマホ/タブレットのみで手続きを完了できる非接触型の簡易決済システムを開発し、その基礎となる技術について特許を申請した。同決済システムでは複雑な操作は必要ないため、高齢者にも使いやすい。店舗側にとっても、ICカードや決済専用機器を使用しないので、低コストでの運用が可能で、導入しやすいというメリットがある。
TIS、OUVC、個人投資家が共同出資、「過疎地連携経済圏構想」実現を加速
このたび、TIS、大阪大学ベンチャーキャピタル(OUVC)と、個人投資家である大阪大学大学院 教授の石黒浩氏、同大学 特任講師の小川公平氏、エルブズの財務顧問でありグノシー 最高財務責任者 CFOの伊藤光茂氏は、エルブズに対して、合わせて8,450万円の共同出資を行った。TISはエルブズ創業当初にシードマネーを投資しており、今回が追加投資となる。石黒氏、小川氏は、「御用聞きAI」開発に当たっての共同研究を行ってきたメンバーだ。
これで、これまでの資本金3,450万円と合わせ、資本金は1億円超となり、エルブズは、電子通貨「エルブズコイン」の発行企業となる要件を1つ整えたことになる。
記者発表会の席で、OUVC 代表取締役の神保敏明氏は、「各分野で研究されてきた要素技術が一体化された、新領域のサービスに投資できるのは光栄なこと。収益と社会貢献の両面での成果を期待しています」と発言。
TIS 取締役 常務執行役員 企画本部長 柳井城作氏は、「資金面のみならず、人材面なども含め、支援させていただきます」と述べた。また、当日欠席だったグノシーの伊藤氏からは「社会課題に取り組むエルブズの姿勢に共感して投資させていただきました。今回の支援が取り組みの前進につながることを期待しています」という旨のコメントが寄せられた。
エルブズでは2017年9月に「過疎地連携経済圏構想」を公開。今回の増資によって、エルブズは、この構想の実現を加速させていきたい考えである。
目指しているのは、「御用聞きAI」で、全国の過疎地に住む300万人以上を結ぶ経済圏をつくること。さらには都市部の富裕層280万人を「御用聞きAI」でつなぎ、過疎地への旅行や、ふるさと応援寄付などを促進することで、580万人超の大きな経済圏を構築する構想だ。そのためにまず、2019年までに、全国に約1,700ある基礎自治体のうちの10%に当たる170自治体に「御用聞きAI」を導入することを目標としている。
実証実験を実施中の南山城村 村長の手仲圓容氏は、「人に買い物を頼むと、買い物する楽しみが得られない。高齢者の方々に、タブレットを介して買い物する満足感を味わって欲しい」と語った。また、南山城村は京都府の最南端に位置し、三重県や滋賀県に近い。これまで、他県の、至近の店舗に出向いていた住民も、「御用聞きAI」アプリを使って村内の店舗に注文するようになり、地域経済活性化につながるものと期待を寄せる。南山城村には今年4月に道の駅がオープンし、2カ月間で30万人の来客を集める人気となっているが、「御用聞きAI」で注文を受け付けた商品の配達は、この道の駅の職員が、閑散時に行うことが検討されているという。
一方、エルブズ 代表取締役社長の田中秀樹氏は、「エルブズが発行するエルブズコインは、南山城村のみに閉じたものではありません。実態に合った経済圏の中で、コインや人が活発に還流するようになることで、地域経済活性化に貢献できるものと思っています」と語った。
「御用聞きAI」は南本城村において、2017年度末までに本稼働される予定。