2020年5月22日8:00
NTTドコモは、店舗などに設置されている読み取り機にかざすだけで、電子マネー、ポイントカード、乗車券など、お財布の役割を果たすことができるサービス「おサイフケータイ」を2004年から推進してきた。同社では、ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズと協力し、高精度な測距技術であるUWB(Ultra Wide Band)、ソニーのFeliCa技術方式、Bluetoothを組み合わせることにより、スマートフォンをかざさなくても決済などを行える「おサイフケータイのタッチレス対応」の実用化に向けた実証実験をプライベートイベント「DOCOMO Open House 2020」等で実施した。同取り組みの成果と課題、今後の可能性について説明してもらった。
タッチレスで新しいUX(ユーザ体験)の創出を目指す
――NTTドコモ様は、世界でも早い段階でモバイルNFCサービスとして「おサイフケータイ」を展開されてきましたが、まずは国内での普及の成果からお聞かせください。
NTTドコモ:おかげさまで「おサイフケータイ」はサービス開始して昨年で15周年を迎えることができまして、サービス開始当初は使える場所も限られておりましたが、今では全国隅々まで広がっております。さらに、ここ数年は特にキャッシュレス時代ということでさらに脚光を浴びましてごく一部のお客様に支持されるものから、より一般的なものへとしっかり国内市場に根付いた感じがしております。これほどまでの市場への浸透は、当然ながら弊社だけではなくサービス事業者様や加盟店様、機器メーカ様など非常に多くの事業者様が推進された成果だと思っております。
とはいえ、過半数以上のお客様はまだモバイルによるNFCサービスの利用経験がないという実態を課題として認識しております。使える携帯電話端末も、使える場所も普及しているわけですので、その国内インフラを活かし、過半数以上の未利用者の方にも使いやすいと思っていただけるような質の向上であったり、使いたくなる新しい付加価値を提供することが必要だと思っております。今回のタッチレスは主に後者を意識しての、新しいUX(ユーザ体験)の創出を目的としたものとなっております。
――決済以外のアプリケーションが2010年前後の期待値ほど進展していないという声もありますが、活用が進むと考えられますでしょうか?
NTTドコモ:決済以外ということですと、交通乗車券のユースケースは期待以上の進展があると思っております。申し上げるまでもなく「モバイルSuica」は広く支持されておりますし、先日も「モバイルPASMO」がサービス開始されましたので、日常的に利用されるサービスとして今後もより進展していくと思っております。
また共通ポイント市場の拡大もあり、ポイントカードとしての利用者も増えてきております。実際に弊社の「dポイント」もおサイフケータイに対応した2016年以降、堅調に設定数が増えています。ローソン様などの店舗では電子マネー決済とdポイントカードの利用が1回かざすだけで済みますのでとても便利と利用者の方に評価をいただいております。キャッシュレス決済の浸透により、こういったポイントカードとしてのユースケースもさらに拡大されていくと期待しております。
決済と交通での対応も将来的な視野に
――高精度な測距技術と言われるUWBに着目された理由についてお聞かせください。
NTTドコモ:今一度タッチして決済というUXを見つめ直し、スマホを鞄から出さずとも決済できたらお客様に新しい価値を提供できるのではないかと考えたところが検討の発端だったのですが、タッチレスとなると今利用しているNFCより、通信距離が長い無線の選択が必要になります。また、距離のある中でもお客様のスマートフォンを特定する必要があるので、位置検出に優れた無線であることも必要です。今回この2つの条件で考えたときに、特徴を活かすことのできるUWBを採用しました。
――UWBをFeliCa技術方式と組み合わせることとなった背景についてご説明ください。
NTTドコモ:FeliCa技術のうち①無線部分など一定の範囲がNFC Forum規格とされており(NFC-F)、それよりも上位の②アプリケーションレベルのコマンドなどはNFC Forum規格のスコープ外です。今回は無線部(①相当)をUWB+Bluetoothに置き換え、②はそのまま使用しております。この構図はFeliCaだけでなく、例えばNFC-Type AベースのMifare(マイフェア)をUWBで実現しようとした場合も同じことになるため、今後UWBが普及するのであれば標準規格などで統制されていくと期待できます。今回は既存のサービス・インフラとの互換性観点でFeliCaを選択しました。
――具体的に、想定されるアプリケーションについてはいかがでしょうか?
NTTドコモ:やはりこれまでのおサイフケータイのユースケースである決済と交通での対応は目指していきたいです。国内には決済と交通でタッチによる非接触のインフラが広く普及していますので、そのインフラにタッチレスをアドオンする形での展開が期待できるからです。もちろん既存インフラの全てがタッチレス対応になるとは考えておらず、タッチレスの親和性の高い環境から一部導入されていくことを想定しております。従来のタッチによる利用と新たなタッチレスの使い方によって、利用機会増加の相乗効果を期待しています。
実験でユースケースの需要や期待を確認、2つの大きな課題も
――実証実験で見えてきた成果はございますか。
NTTドコモ:今回の実証実験中に「DOCOMO Open House2020」に出展し、『決済』『広告』『デジタルキー』の3つのユースケースのデモ展示をいたしましたが、デモをご体験いただいたお客様から、有り難いことに「便利」「使いたい」といったような声を多くいただけました。このようにそれぞれのユースケースに対する需要や期待を確認できたことは成果だと考えております。また、さまざまな業種の企業様にも興味を持っていただいたため、今後は実験パートナーを拡大し、新たなユースケース創出にも取り組んでいきたいと考えております。
――逆に実証実験での課題があればお伺いできれば幸いです。
NTTドコモ:技術面に関して、大きく2つ課題が見えました。1つ目は、端末に使われている金属による無線(UWB)への影響です。今回は実験段階のため、端末に外付けでアンテナ等を接着したのですが端末には多くの金属が使われていることから想定以上に影響を受け、実用化に向けては改善の余地がある結果となりました。今後は端末設計時の工夫等で影響を最小限にするよう検討中です。
2つ目は、消費電力への考慮です。実際に端末搭載するとなると、できるだけ消費を抑えなければ使っていただけないと考えております。現状端末にUWBを搭載し、対向機器と通信をした状況で消費電力を測定できてはいないですが、必要時のみ自動でUWBを起動するといったような方式を取り入れ消費電力を最小限にできるよう検討中です。
タッチとタッチレスで『街中ではモバイルによる利用が一番多い』世界を目指す
――今後、主要な携帯電話機種への搭載が進めば、実用化は加速するとお考えでしょうか?
NTTドコモ:携帯電話機種への搭載だけでなく、タッチレスのユースケースの創出がMust(絶対に必要)です。つまり、利用できる“端末”と“場”がセットとなって初めて実用化が加速すると考えております。
――UWBは、距離が飛びすぎることにより、他の人を認識するといった点など、セキュリティ面の不安はありますでしょうか?
NTTドコモ:実証実験時の段階では実用化に向けて十分な測距性能はだせていないと考えており、他人の誤検知の可能性も残ります。しかし私たちは数cm単位でスマートフォンの位置を特定できれば、個人特定は可能だと考えておりますので、次フェーズでは端末側も回路から検討/設計/実装し、実ユースケースでの利用時にセキュリティ担保に必要な測距性能を満たすにはどうしたらよいかに主眼をおき、検証を進めていきたいと考えております。
――最後に、今後のNFCビジネスの目標についてはいかがでしょうか?
NTTドコモ:これまでのスマートフォンをかざす“タッチ”の利用方法は引き続き推進していきますが、かざさない“タッチレス”という新しいユーザ体験を将来的に実用化すれば利用シーンのさらなる拡大が期待できると考えています。タッチとタッチレスで、『街中ではモバイルによる利用が一番多い』という世界を目指していきたいと思っております。