JR東日本のNFCタグにかける期待、Suicaとのすみ分け、今後の構想は?

2020年6月12日8:00

JR東日本は、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)において特に連携に力を入れているラスト/ファーストワンマイルの交通シーンでのNFCタグの活用を想定し、技術検証の主導および同運用へ向けた課題の洗い出しを行っている。同社のNFCタグへの取り組み、幅広く利用されている交通系ICカード「Suica」とのすみ分け、今後の構想などについて説明してもらった。

ケイエム観光バスの東雲車庫で行われた実証実験

3月にケイエム観光バスの東雲車庫で実証実験
課題の洗い出しやUXの検証が目的

――NFCタグは従前から様々な分野で実験が行われてきましたが、JR東日本様がこれまで活用した取り組みがあればお聞かせください。
JR東日本:2020年3月2日に「お台場レインボーバス」を運行するケイエム観光バス様の東雲車庫(東京都江東区)で行われた実証実験が初めての取り組みです。

――実施された乗車実験の概要、規模についてお聞かせください。
JR東日本:ケイエム観光バス様での実証実験は、NFCタグを利用した交通チケットを実現するにあたっての課題の洗い出しやUX(ユーザーエクスペリエンス)の検証を目的として実施しました。具体的には、NFCタグチケット処理時間、携帯端末のリーダライタ性能、バスチケットアプリ、乗務員アプリ、NFCタグの設置場所などを複合的な要因を組み合わせ最適なUX評価を実施しました。

十数名の規模で実施しており、国際自動車様、ケイエム観光バス様(バス運転手等)、当社が参加しました。

NFCタグを利用した乗車の流れは以下の通りです。
(1)スマートフォンアプリでバス乗車券を事前に購入する
(2)バス乗車口の運賃箱に設置されたNFCタグにスマートフォンをタッチする
(3)有効な乗車券が使用されたことが、スマートフォンからチケット管理サーバを経て、バス乗務員のタブレットへ瞬時に伝わる
(4) アプリで購入した乗車券は使用済みになる

運賃箱に設置されたNFCタグ

バス乗車を想定しても耐えうる処理速度を確認
アプリのUIは引き続き改善を図る

――JR東日本様の交通系ICカード/電子マネーである「Suica」は定着されていますが、新たにNFCタグを活用するメリットについてはいかがでしょうか?
JR東日本:タッチするだけというSuicaの特徴的なユーザー・エクスペリエンスを踏襲しつつ、これまでSuicaによる運賃収受や決済の仕組みが行き届かなかった領域にサービスを提供できるのではいかと期待しています。

――実証実験で得られた成果と課題についてご説明ください。
JR東日本:成果として、3分で62名が乗車することができ、実際のバスの乗車シーンを想定しても耐えうる処理速度であることを確認できました。また、利用に適したNFCタグのタイプ、かざし方、NFCタグの設置場所を検証することができました。

課題として、バスチケットアプリ、乗務員アプリなどのUIについては引き続き改善を図っていく予定です。

まずは均一運賃の場面における活用を検討
スマホにQRコードを表示させる仕組みの見解は?

――今回実施された均一運賃以外での活用の可能性はいかがでしょうか?
JR東日本:乗車区間によって変動する運賃への対応はさらなる技術検討が必要なため、まずは「お台場レインボーバス」のような均一運賃の場面における活用を検討しています。

――たとえば、タグを経由せずにスマホで事前に乗車券を購入させ、QRをかざして乗車させたほうが乗客、タブレットを操作する乗務員の利便性向上につながる可能性もありますが、その点はいかがでしょうか?
JR東日本:QRコードをかざす事による乗車の仕組みはすでに実際に運用されているものですが、限られた停車時間に複数のお客さまの運賃収受をしようとした場合、スマートフォンをアンロックしてアプリを起動し、QRコードを表示させる仕組みでは、特にSuicaのユーザビリティに慣れているお客さまにはご満足いただけないのではないかと考えております。また、QRコードとは異なり撮影による複製ができないこともセキュリティ上のメリットとして考えられます。

――NFCタグ自体は以前から実験が行われてきましたが、(2012年頃の期待を加味すると)普及に至っていません。無料のQRコードにくらべ、Webへの送客だけですと費用対効果を見込みにくいという声もありますが、面で広がるためにはどういった要素が必要になりますでしょうか?
JR東日本:前出のバスのユースケースのように必然性(お客さま向けの処理速度とバス事業者様へ向けた導入コスト)のある利用シーンからスタートしていくべきだと考えています。また、複数のサービスが併存することによって混乱を招くことがないようにお客さまにとって分かりやすい、また事業者様にとってオープンな環境を用意することが必要だと考えています。

――交通分野以外での活用の可能性についてはいかがでしょうか?
JR東日本:昨年12月のプレスリリースで紹介した、NFCタグにスマートフォンをタッチすることで、サービスサイトが開き、注文や支払いなどがオンラインで行えるという仕組みを実現するために、活用できるのではないかと考えています。今後、プレスリリースに参加いただいているパートナー企業様(アクアビットスパイラルズ/ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ/大日本印刷)のご支援もいただきながら進めてまいります。

スマホの乗車リーダ・ライタ活用の検討は?
NFCはサービスの入り口として期待

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