2021年2月1日9:30
ナウキャストは、2021年1月27日にジェーシービー(JCB)と共同で実施しているキャッシュレス、現金決済を含むすべての消費動向を捉えた国内消費指数「JCB消費NOW」の2020年の総括について記者説明会を実施した。当日は、ナウキャストCEO 辻中 仁士氏がコロナ禍の消費動向について解説した。
外食、宿泊、観光は大きなダメージ
ECやコンテンツ配信は成長
ナウキャストでは、これまで国内で利活用が進んでこなかった「オルタナティブデータ(Alternative Data)」を利用した取り組みを行っている。昨今、クレジットデータ、POSデータ、位置情報などの携帯データなどの活用が注目を集めている。コロナ以前からグローバルでの市場規模は伸びており、金融領域でデータ分析を主眼とするような組織も登場している。日本ではナウキャストをはじめ数社がビジネスを展開。JCB以外にも、CCCマーケティングとTポイントの活用等で連携している。また、日本銀行や野村證券などに金融サービスを提供しているそうだ。
JCBと連携した「JCB消費NOW」は、 2017年5月より提供を開始し、2019年12月25日から、サービスをリニューアルしサービスを拡充しさせている。
2020年の消費動向として、①3月~5月:新型コロナウイルス感染症拡大(「第1波」)と、 それに伴う外出自粛の動きによるサービス消費の大幅な下落、②5月~6月:「第1波」で大きく落ち込んだサービス消費の大幅な回復、③8月~10月:「第2波」と天候不順による回復のもたつきを経た、 サービス消費の再回復、④11月以降:「第3波」によるサービス消費の再下落、の4つに分類した。この「4段階に分かれて黄色の線のサービス消費の動向が大きく変動しました」と辻中氏は話す。
例えば、野村證券 金融経済研究所 経済調査部 シニアエコノミスト 水門善之 氏は、「2020年は、コロナの感染拡大に翻弄された1年だった」と評価したという。苦しかったカテゴリーは、コロナ禍で影響を受けたサービス系の業態だ。辻中氏は「外食、宿泊、観光が影響を受けて、追い風を受けた業種でいうとECの消費の動向が堅調に推移しました」と説明する。ECはネットショッピングに加え、コンテンツ配信なども堅調に推移している。今後のポイントとして、現在堅調なECの普及が2021年以降もどの程度定着していくかだ。
有識者の1人である、東京大学経済学部長、ナウキャスト 創業者・技術顧問 渡辺努氏は、コロナによる消費の変化の特徴として「代替費用」を挙げた。サービス消費が落ち込む一方でコンテンツ配信が伸びるなど、別のサービスに移動している。また、消費の総量も落ちており、所得が減っていない人でも消費総額は減っている。これは、代替先の商品の値段が安いからだという。辻中氏は「所得が戻ったからと言って消費者が満足してしまうと消費の総量が減ってしまうという懸念が危惧されます。この点については今後明らかになってきます」とした。
旅行、宿泊は大きなダメージ
外食は居酒屋が大きな影響、スーパーは堅調
サービス分野で大きな変化があったのは旅行で、政府のGotoトラベルキャンペーンとコロナウィルスの感染拡大に振り回された1年だった。旅行は、4・5月は前年比90%以上の減少を示しており、キャンセルも多発した。「一時は赤伝の方が高く売り上げの減少が多かった」(辻中氏)。その後、緊急事態宣言が解除され、6月以降に回復経路を辿り、9月以降急速に回復した。10月、11月と高い水準を示してきたが、第3波の12月以降再び下落。2月1日に発表したナウキャストのデータでは、1月は12月後半よりもさらに下落している。宿泊も旅行に近い状況を示している。
外食では居酒屋が大きな影響を受けたが、カフェやファミリーレストランなど、比較的影響が軽微なものも含まれている。5月以来、12月に大きく落ち込んでおり、2021年1月もその流れは続いている。
小売系の業態は勝ち負けがはっきりした分野となった。スーパーマーケットはコロナによって追い風を受けた。第1波、第2波時は特に恩恵を受けたが、12月の第3波以降を見ると、プラス幅が若干縮小している。
EC市場は、4月、5月に伸びがピークを迎え、前年比20%以上の伸びを継続している。コンテンツ配信は、2020年後半もEC以上に高い伸び率を示しているのが特徴だ。データを分析すると、モール型よりは、専業型のアパレル、ドラックストア、ネットスーパーが伸びており、オンライン化にシフトしている。
価格は全体的にデフレ傾向
2021年1月前半は2020年12月よりもマイナス幅拡大
なお、第1波から7月までは居酒屋が減速すると酒屋が伸びるなど、両者の間に負の相関が見られた。11月以降の第3波では両者の相関関係が消え、「居酒屋」が減速しているにもかかわらず、酒屋に足踏みが見られる。第3波では、第1波の時ほど宅飲みへ切り替わっていない。また、JCBのデータでは、年齢層、性別、エリアを区分することができるというが、ECの伸びは若年層が牽引していたという。また、宅のみは外出自粛で女性が多く利用している。
また、価格の動向として、4、5月はスーパー、日用品が前年比プラス2%近い動きとなったが、優待や値引き率を減らす動きがあるため、足元は縮小傾向で、第3波以降はマイナスとなっている。食品、日用品、レストランなどはその傾向があり、伸びの要素はないため、全体的にデフレ傾向だ。また、第1波の際は多くの物がよく売れたが、第3波では売れる売れ筋に差がみられるようになった。例えば、ヨーグルトはマイナスになっており、冷凍食品やスナック菓子は強い伸びを示した。日用品のカテゴリでは、女性用の化粧品が減少。また、シャンプーやボディソープは第1波に比べて弱い動きが続いている。
ナウキャストでは、2021年2月1日に1月前半の消費総合指数を公表したが、12月よりもマイナス幅が拡大している。サービス総合は、外食、旅行、交通、娯楽、宿泊が総じて12月後半よりも減少した。中でも緊急事態宣言下での時短要請が厳しい外食は、同様に緊急事態宣言が開始された昨年4月前半並までマイナス幅が拡大している。小売総合も12月後半よりもセクターにかかわらず、軒並み減少した。
ナウキャストは「オルタナティブデータ」を活用
金融に加え、非金融分野でのデータ活用も進む
過去にもクレジットカード会社や国際ブランドでは、決済データを活用した取り組みを行っているが、JCB消費NOWの強みはどこにあるのだろうか?
ナウキャストによると、JCB消費NOWのサービスは今後も活用が広がるサービスであるとした。実際、同サービスに対する問い合わせや利用者は増加しているそうだ。また、金融分野でのデータ利活用に加え、非金融分野での活用のニーズも広がっている。実際、チケット販売のチケットぴあをはじめ、メーカーやEC、不動産などマーケティング用途で活用が進んでいるそうだ。
辻中氏は「JCBカードのデータはクレジットカードデータとして代表性が高いと認識しています」としたうえで、クレジットカードデータであるため、他のキャッシュレスデータや現金を含めた消費動向を示すためにはバイアスが存在するとした。それは、マーケティング、経済分析ともに必要となる。バイアスをどのようなプロセスで解決するかは、データ会社の腕の見せ所であるが、そのノウハウを持っている数少ない会社がナウキャストであるとした。同社では、データ集計を洗練化し、情報の精度を高めるなど、消費動向を表すデータとしてJCB消費NOWを展開していきたいとした。