2021年6月28日13:00
アメリカを中心に世界に広く普及している決済サービス事業会社、PayPal(ペイパル)は、日本市場でのビジネス成長にアクセルを踏む。2021年4月1日に日本事業統括責任者に就任したピーター・ケネバン(Peter Kenevan)氏は、「オーガニックの成長とM&Aや連携などのパートナーシップ戦略を両輪にして、年間倍増以上の成長を続けたい」と話し、5~10年後には日本の主要プレーヤーの地位を目指す方針を明らかにした。
コロナ禍で日本が急激に成長
Paidy、heyなどパートナー戦略を強化
PayPalの日本市場の業績はここ数年伸びている。2020年のアクティブアカウント数は430万となり、前年対比100万アカウントの増加となった。ケネバン氏は「日本のキャッシュレス化のスタートはゆるやかでしたが、最近は伸びが加速しています。自分の個人情報を伝えずに安全・安心・快適な決済体験を提供できるウォレット機能のパイオニアとしての評価をいただいており、100万増加は成長の出発点に過ぎません」と話す。
PayPalは、さらなる事業の拡大を目指して、マッキンゼー・アンド・カンパニーで25年以上の経験をもち、東京オフィスのシニアパートナーを務めてきたケネバン氏を起用。マッキンゼーで培ったコーポレートファイナンスやストラテジー、M&A(企業の買収・合併)などの知恵とスキルを活かしたパートナーシップ戦略を加速させるのが狙いだ。
ケネバン氏は「日本のユーザーにとってのメリットを生み出すウォレットの連合体をつくりたい」と話す。パートナーシップ戦略として成果を上げている事例のひとつとして、米国のPayPal Ventures(ペイパル ベンチャーズ)が2019年に出資したオンラインショップ向けの後払い決済サービスなどを提供するPaidy(ペイディ)との連携をあげる。Paidyは、デジタルウォレットの支払い方法として「ペイディ」を選択できるペイディプラスの新機能「どこでもペイディ」を提供開始、PayPalでの買い物、またはサービスの支払いにPaidyを利用できる仕組みだ。
また、PayPal Venturesでは、「STORE決済(旧Coiney)」「STORE予約」など、店舗のデジタル化を支援するhey(ヘイ)にも2020年に出資し、成長を支援している。
PayPalのグローバルデータが日本企業の成長を後押し
4億ユーザー、3,100万加盟店のネットワークが強みに
成長の牽引役は、PayPalが持つ3,100万の加盟店を含む世界約4億人のユーザーというグローバルネットワークを活用した事業戦略だ。越境ECに取り組む日本のマーチャントにとって、グローバルに繋がることができるというメリットを享受できるのは魅力的だ。ケネバン氏は「日本のフィンテック業界を見ていて、うまくいっているケースはとても参考になります。これからは、高付加価値を積み上げていくプラットフォームが重要です。越境ECを志向する加盟店が、PayPalがグローバルに保有する世界の各地域別の売れ筋データなどを活用することで、加盟店の海外ビジネスの成功を後押しすることに貢献できるはずです」とさらなる連携拡大に意欲を示す。
米カリフォルニア大学バークレー校でアジア研究学・政治科学の修士号、スタンフォード大学で経済学・日本語の学士号を取得するなど日本文化に精通しているケネバン氏から見ると、日本の商品・サービスの品質やブランド力は世界から高く評価されているにもかかわらず、その潜在力を十分に発揮できていないという。ケネバン氏は「日本の商品・サービスは品質が高く、日本で生み出されるソフト・ハード、コンテンツの評価が高い。それにもかかわらず、私どもが2019年に実施した調査によれば、オンライン販売を行っている国内事業者の海外顧客の売上構成比は26%で、調査対象の11か国で最も低い割合でした。PayPalのネットワークを活用して、出口を世界に広げることで、日本の素晴らしさを世の中に広げることに貢献しようと燃えている」と力を込める。
日本はPayPalのグローバルの優先市場
3~5年後は魅力的なPayPalファミリーを広げる
8,000万人のオンラインコンシューマーを擁し、ECでのショッピングやキャッシュレス決済の数が目を見張る速さで増えている日本市場は、PayPalのグローバル戦略上の上位を占める優先市場だ。さらに、斬新なアイデアで新商品や新サービスを開拓するスタートアップ企業も増えているほか、競争相手である決済事業者も、ユニークなサービスを核にしたエコシステムを生み出している。キャッシュレス決済やフィンテックの市場は、今まさに戦国時代の様相を示している。ケネバン氏は「海外でうまくいったモノやサービスをそのまま日本に持ってきて、うまくいったケースはそれほどありません。重要プレーヤーとパートナーシップを組み、日本の市場にマッチしたものを提供することが重要です」と話す。
一方、マッキンゼー時代を通して、PayPalグローバル本社役員との人脈を持つケネバン氏は、PayPalのグローバルのプレゼンス、財務力、開発力を活かした独自のサービスも視野に入れており、自社開発、買収・連係などで生み出すサービスのポートフォリオを上手く組み合わせるつもりだ。ケネバン氏は「自前で打ち出し、シナジーを追求し、譲るところは譲るといった日本的な調整もうまくやって、3~5年先には魅力的なPayPalファミリーをつくり、日本の消費者や加盟店の期待に応えたい。楽しみにしてください」と話している。
「2021 年ペイパル海外通販レポート」を発表、日本の消費者も海外通販の利用が増加
ペイパルは、世界の13の市場(日本、中国、香港、シンガポール、インド、オー ストラリア、米国、英国、フランス、ドイツ、ロシア、メキシコ、ブラジル)で実施したグローバル調査「2021年ペイパル海外通販レポート」(PayPal Borderless Commerce Report)の最新版を発表した。
2020年のEコマースによる売上高は、新型コロナウィルス感染症の世界的な拡大によって、前年の3兆3,500億米ドルから4兆2,800億米ドルに急増した。2021年には、世界のEコマースはさらに 14.3%増加すると予想されており、7億1,000万人以上のオンラインショッピング利用者を抱える中国が増加を牽引するとみられる。
消費者は、BNPL(Buy Now, Pay Later = 後払い) や暗号資産など、新たな決済を使いたいと考えていることが分かった。その一方で、特に日本やメキシコなどの現金に偏重し ている市場では、データのプライバシーやオンライン詐欺に対する警戒心が高まっているそうだ。
日本は世界有数のEコマース市場だが、小売業全体に占めるオンラインショッピングの割合は比較的小規模にとどまっている。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大により、日本の消費者のオンラインショッピング利用意向は20%も上昇しており、状況は変わりつつある。具体的には、日本では、ほとんどのカテゴリーでオンラインでの小売が10〜20%成長した。また、デジタルウォレットの普及は、5Gの普及によって決済時のスピードや、ライブ配信によるソーシャルショッピングが促進される。さらに、海外通販を利用している日本人の44%が、安い価格を求めて利用していると回答。日本のギフト市場も成長しており、10%の伸びが見込まれている。