2015年4月23日8:00海外の新しい決済サービスにみる国内決済サービス発展の兆し(下)海外の新しい決済サービスにみる国内決済サービス発展の兆し(上)
スマートフォン決済の鍵はNFCと生体認証
このようにカード決済市場が成長しているなか、欧米をはじめとしたキャッシュレス先進国では今、スマートフォン決済サービスが注目を集めています。スマートフォン決済とは、クレジットカードなどの決済用カード情報をスマートフォンアプリに登録し、そのスマートフォンだけを用いて決済するサービスを指します。カード社会である米国では、何枚ものカードを財布にいれてもち歩く必要がなくなる便利なサービスとして、さまざまな企業からスマートフォン決済サービスが続々と登場しています。
では小売店などの実際の店舗でスマートフォン決済を行おうとするとき、どのような仕組みによって決済が行われるのでしょうか。そこにはさまざまな種類がありますが、主なものとして、NFC、QRコード、チェックインの3つの機能を紹介します。
①NFC
NFCはNFCカードと同様、NFCチップを搭載したスマートフォンを、店頭で専用の読み取り機にかざすことで決済するというもの。2014年9月に発表されたApple Payをはじめ、Google Wallet、Softcard(旧ISIS)などに採用されています。
②QRコード
利用者のスマートフォン上にQRコードを表示し、店頭のレジでQRコードを読みとってもらうことで、決済を行うか、もしくは店頭で利用者が決済用QRコードをスマートフォンで読み取り、アプリ内で決済を行うというもの。米国では大手グローサリーチェーンなどが参加しているCurrentCという企業連合で採用されています。
③チェックイン
チェックインは米国を中心に展開する決済業者大手PayPalが推進している決済手段。利用者がスマートフォン決済アプリを操作し、氏名と顔写真を来店前にお店側へ通知(チェックイン)しておくと、決済時に店員へ「ペイパルで支払います」と口頭で伝えるだけで、決済できるサービスです。利用者は財布を出すことなく顔パスのような感覚で買い物することができます。
以上のなかで最も注目されているのはNFCといえるでしょう。米調査会社IHSによるとNFCを搭載したスマートフォンは2014年に4億台、2018年には12億台を突破すると予測されており、市場拡大が期待されています。またNFC決済はチェックインよりもわかりやすく、またQRコードのようにコード撮影をしたり、スマートフォン画面を店員に見せたりする手間もありません。スマートフォンをかざすだけで決済ができる手軽さがウリとなっています。
ただ、手軽に決済ができてしまうがゆえに、スマートフォン決済には「セキュリティを確保しなくてはならない」という課題もあります。何枚ものクレジットカード情報が登録されたスマートフォンを紛失または盗難に遭ってしまった場合、悪用されてしまう恐れがあるからです。
そこでいま注目されているのが生体認証技術です。スマートフォン決済アプリでは利用の際、PIN入力を求められ、本人確認を行うものが主流でしたが、生体認証はそれよりもセキュリティに優れています。
指紋認証技術TouchIDをiPhoneに搭載しているApple社は、4桁のPINが一致する確率は1万分の1であることに対し、他人同士の指紋が一致する確率は5万分の1であるとホームページ上で説明しています。PINを1万通り打ち込むことに比べ、指紋を5万件用意するのはその労力が全く異なり、数字以上にセキュリティを向上させることになるといえるでしょう。
またスマートフォン決済以外でも、決済業界では生体認証技術を採用する事例が増加しています。キャッシュレスの進んでいるスウェーデンでは、指紋認証機能をカードに搭載した「ZWIPE」や、静脈を読取って本人確認を行うPOS等の試験運用が開始されました。指紋認証をはじめとした生体認証は、決済のセキュリティ向上に貢献するものとして注目されています。
さらに、指紋認証はスマートフォン決済アプリに対し、利便性向上にも貢献します。これまでスマートフォン決済が普及してこなかった要因の1つに、「PINやパスワード入力の手間」がありました。決済のたびにPIN入力やパスワード入力が求められていては、カード決済と比較して利便性が高まったとは言えず、スマートフォン決済普及の妨げとなっていました。そこで、ホームボタンに触れるだけで本人確認ができるTouchIDのような指紋認証技術を採用することで、利用者の手間を省き、普及に向け大きく前進したのです。
生体認証は、スマートフォン決済サービスのセキュリティを向上させながら利便性も高める可能性を秘めています。生体認証は今後も、スマートフォン決済への活用が進むでしょう。
使えるお店がなければ誰も使わない
カード決済よりも速く、便利に決済できるNFCスマートフォン決済。その利便性によって利用者を増やすことに成功しつつあります。しかし、こうした決済サービスは利用者とともに、利用できる店舗を同時に増やしていかなくてはなりません。
多くの小売店では、スマートフォン決済が広がっていることを認識しつつも、前述のNFCやQRコード、チェックインなどすべてに対応することは、手間もコストもかかるため、導入するのはためらわれています。また、カード決済を受け付けている店舗の喫緊の課題として、EMV ICカードの決済にも対応しなくてはなりません。
EMV ICカードとは決済用カードに埋め込まれたセキュリティ性の高いチップの埋め込まれたカードのことで、そのチップに決済に関する情報が詰め込まれています。
EMVは磁気ストライプからカード情報を盗み取る不正行為への対応策として考案され、Visaは2015年10月までに加盟店におけるEMVカード読み取り端末の設置を義務付けています。
小さな店舗ではあらゆる決済手段に対応することが難しいとはいえ、その分逃してしまう顧客を無視することはできません。そこで、そういった新しい決済サービスにおしなべて対応できるような決済受付端末「Poynt」が開発されました。
「Poynt」は、ICカード決済、NFC決済など、あらゆる決済に対応するPOS端末です。Poynt社の公式HPによると「Poynt」1台に、磁気ストライプカード、EMV、NFC非接触決済(Google Wallet、ApplePay他)の受付機能に加え、Bluetoothアンテナ、そしてQRコード・バーコードカメラが搭載されており、レジ、スキャナー、Beacon端末として機能するとしています。あらゆるキャッシュレス決済に対応できるようさまざまな機能を搭載しながらも、シンプルでスマートなフォルムを実現。米国内の店舗は契約済みのアクワイアラとの手続きなどの必要はなく、端末を設置するだけで導入が完了するとしています。小規模の店舗に導入しやすいよう、小さく設計されており、価格も事前予約価格299ドルと手の届かないことはありません。小さな小売店や飲食店舗でも導入しやすいよう工夫がなされています。
店舗を救うPOSサービス
このようなPOSサービスはマルチファンクションPOSサービスと呼び、「Poynt」のほかにもSquareが開発に取り組んでいます。
Squareはスマートフォンに接続できるカード読み取り機を開発し、レジをスマートフォンに移行したことで、規模を問わず、さまざまな店舗、場所でカードビジネスをできるようにしました。彼らの読取機は中小規模の小売店、飲食店を中心に、全米で200万件以上に導入されています。これまでは磁気ストライプ決済のみ対応していましたが、2015年の秋にはEMV決済に対応することを決めたほか、今後NFC決済へも対応していくとしています。
このようにマルチファンクションPOSの小型化によって、あらゆる決済手段が、あらゆる店舗で利用できるようになれば、スマートフォン決済の普及もより加速していくでしょう。
そのSquareは決済サービス以外にも、来店予約管理、売上げ分析レポート、在庫管理など、加盟店の業務効率化をはかるサービスを提供しています。なかでも飲食業界で注目されているのが来店予約管理機能です。これは、利用者がテイクアウトカフェやファストフード店に事前に注文予約をしておくことで、長い列や調理を待つ時間を短縮できるというサービス。飲食店の利用をよりスムーズにするとして、Square以外にも多くのPOSアプリによってリリースされています。
中小規模の小売店や飲食店は日々の業務に追われ、なかなか業務改善に取り組むまでに至らないのが現状です。そこでSquareのカード決済を導入すると、カードを利用したい顧客を増やすだけでなく、業務効率化というメリットもついてくるサービスを提供しています。現在のPOSサービスはコンパクトながらもあらゆる決済手段に対応できるほか、店舗の業務をサポートするサービスにまで成長しています。
利用者と店舗、両面での利便性を追求する
海外の先進決済事例をみてみると、利用者と加盟店舗、両者にとってメリットのある決済サービスが求められているようです。このような先進的決済サービスは今後ますます日本へ流入してくるでしょう。現にSquareの決済サービスは日本に上陸して2年近く経過しており、その流れは次第に強まっていくといえます。日本政府のテコ入れにより、追い風の吹く国内カード・決済ビジネス業界。私たちの目指すキャッシュレス社会の実現はそう遠くないと言えるでしょう。