2015年6月25日7:14
シンガポールで最も支持される決済サービス「NETS」の強みとは?
政府主導で成功したキャッシュカードと紐づいた決済システム
Network for Electronic Transfers(Singapore)Pte Ltd(NETS)は、3つの銀行が株主となって運営されており、銀行のキャッシュカードに紐づいたデビットカードとして利用可能だ。シンガポールではクレジットカード以上に生活に密着した決済手段として定着している。また、中国、マカオ、シンガポールなどへの国際展開も進めており、日本への展開も視野に入れる。今回は、シンガポールでNETSが普及した理由や日本のTFペイメントサービスとの連携について、NETS Chief Executive OfficerのJeffrey Goh氏に話を聞いた。
ATMカードとして900万枚が利用される
2万3,000の加盟店を誇る
――シンガポールの多くの方がNETSを利用されているそうですね。
Jeffrey Goh:シンガポールは人口500万人ですが、ATMカードとして900万枚が利用されています。また、1日に250万のトランザクションがあります。マーチャント(加盟店)は2万3,000、ターミナルは8万5,000ポイントで利用できます。現在、シンガポールのショッピングセンターの70%で利用可能です。
――HDB(公団住宅)での浸透状況はいかがでしょうか?
Jeffrey Goh:シンガポールでは、クレジットカードを持つための最低の収入が月2500ドルとなっています。国民の86%が公団に暮らしており、HDBの中にあるお店の60%がターミナルを設置しています。HDBの中にある加盟店の多くは、主にキャッシュ(現金)かNETSかを選ばれています。
――NETSの成功の要因についてお聞かせください。
Jeffrey Goh:一番の成功の要因は、政府が中心となり1985年からサービスを始めたからであると思います。クレジットカードが世の中に出回る以前にスタートしたことが挙げられ、当時、シンガポールの消費者が銀行口座を開設した時に、クレジットカードがそれほど出回っていなかったことが大きいです。
――加盟店からみると、手数料率は0.8%と、クレジットカードに比べても優位性があると伺いました。
Jeffrey Goh:スタンダードで0.8%ですが、目的の用途によってパーセンテージは変わります。たとえば、寄付やチャリティの場合、手数料は0.3%とさらに安価となっています。
第二世代の非接触ICカード「NETS FlashPay」カードを発行
政府等においてインターネット支払いのeNETSも提供
――NETSは第一世代の接触ICカードに加え、2009年10月からIC乗車券の「EZリンク」と相互利用が可能な「CEPAS」(Contactless E-Purse Applications-in-Singapore)に基づいた、第二世代の非接触ICカードである「NETS FlashPay」カードが発行されています。「NETS FlashPay」カードは、どの程度発行は伸びているのでしょうか?
Jeffrey Goh:接触型のICカードは世界で初めて発行しましたが、当時は交通のERP(Electronic Road Pricing)としてスタートしました。交通機関や小額決済で利用できる第二世代の非接触カードは、現在約450万枚が発行されています。
――リング型のNETSは、「リゾート・ワールド・セントーサ(Resorts World Sentoa)」でスタートしたと伺いしました。
Jeffrey Goh:リング型のカードはローンチしましたが、まだ初期段階でパイロットフェーズです。すでにカウンターで販売を行っていますが、消費者のために、さらにデザイン性のあるものを検討しています。
――インターネット支払いのeNETSも提供されていますね。
Jeffrey Goh:eNETSに関しては銀行や政府と直接プロバイダ契約を行っており、ペイメントゲートウェイとしてNETSが利用されています。政府との取引は非常に多く、金額の規模は年間60億ドルとなっています。たとえば、バトミントンやテニスコートを予約するといったことも行われています。
――シンガポールで展開される他の決済手段との端末の共用化についてはいかがでしょうか?
Jeffrey Goh:NETSは、ターミナルを1つにして各銀行にスイッチングすれば端末が少なくなると考えています。複数の銀行と話し合いを進めており、銀行のUOB(United Overseas Bank)とは共用化はできています。端末が一台の場合、仮に問題があった際に、電話連絡は一社だけで済みます。端末の共用化は、法律で定められているわけではありませんが、推奨されています。
――iPhoneを決済端末に使用したテストも行われたそうですね。
Jeffrey Goh:iPhoneは、4から5、6といったように、端末が変わるたびに大きさが違うため、ケースを変えなければならない課題がありました。2015年末までには展開できるように考えています。
TFPSと連携し日本の電子マネー利用者を現地で利用可能に
2017年に1億8,000万ドルの売り上げを目指す
――日本のTFペイメントサービス(TFPS)とも連携されましたね。
Jeffrey Goh:たとえば、日本の非接触ICカードをお持ちの方が、シンガポールでそのままお支払いができることを目標に考えています。すでに中国、マカオ、シンガポールなどで国際展開をスタートしています。アジア全体を1つのプラットフォームとしてつなげていくのは大きな目標です。
――最後に今後の目標についてお聞かせください。
Jeffrey Goh:NETSの2011年の売上は1億500万シンガポールドルでしたが、2014年が1億4,700万シンガポールドルになりました。2017年には1億8,000万シンガポールドルの売り上げを目指したいですね。
■シンカクラウドをシンガポールで広めたい
~TFペイメントサービス
TFペイメントサービスは、NFC(Near Field Communication)技術を活用したクラウド型の決済プラットフォームサービス「Thincacloud(シンカクラウド)」を運営している。同社では、NETSと連携し、シンガポールでシンクライアントの電子マネーを展開する。4月22日、23日に開催された「Cards&Payments Asia 2015」では、カプセル自動販売機向け電子マネーを展示。
TFペイメントサービス アライアンス部 部長 渡部泰匡氏によると、「シンガポールにおいて、シンクライアント型の決済サービスや自動販売機向けの電子マネーシステムは現状ほとんどなく、参入の余地はあると考えています」と話す。シンガポールではNXPのチップを搭載したSTYL製のタッチ型コンタクトレスリーダーを自動販売機に設置して展開する予定となっている。