2015年11月2日8:00
高機能なアプリケーションに加え、新市場の開拓にも注力
電子マネー、交通乗車券、セキュリティ分野など、幅広い用途で利用されているソニーのICカード技術「FeliCa(フェリカ)」。国内の非接触ICカードでデファクトスタンダードとなっている。また、FeliCaは国際標準規格18092、21481に準拠しており、グローバルに広がる可能性を秘めている。本項では、FeliCaの歴史と現状、製品・アプリケーション開発動向などを紹介する。
当初は物流分野におけるRFIDからスタート
1997年にオクトパスカードが稼働
「FeliCa」は、「felicity(至福)」を語源とし、“日常生活を、より便利に、より楽しくする”というコンセプトのもと命名された。
同社がFeliCaの研究をスタートしたのは1987年になる。当初は、物流分野におけるRFID(Radio Frequency IDentification)の市場をターゲットに開発をスタートした。しかし、安価なタグの製造は技術的な困難が伴ったそうだ。そのため、物流管理での商用化は、無線ICのコスト面などから断念したという。現在のFeliCaは電池レスで稼働するが、当時はカード内部に電池を搭載していた。
1990年代に入ってからは、交通カードの開発に力を入れ、1995年に香港の交通カードへの採用が決定し、3年後の1997年に「オクトパスカード」が本格稼働した。これをベースに、交通や決済の分野を中心に普及がはじまった。オクトパスカードを開発、実用化する過程において、いまのFeliCaの土台になった要素である、非接触ICの無線通信、マルチアプリケーション、高速処理、セキュリティ、そして量産化の技術も蓄積したという。
その後、2000年代に入ってからは、国内および海外で大型のプロジェクトが稼働して急速に成長した。
2001年には、JR東日本の「Suica」、楽天Edy(旧ビットワレット)の「楽天Edy(旧Edy)」の本格運用がスタート。その後、楽天Edyは、ICキャッシュカードやICクレジットカードなどの金融系カードをはじめ、各種会員カード、企業のIDカードなどの領域にも搭載が進んだ。
2007年にはセブン&アイグループの電子マネー「nanaco(ナナコ)」、イオンの電子マネー「WAON(ワオン)」など、流通系の電子マネーも、大型のチェーンへの採用はほぼ出揃い、「電子マネー元年」として話題となった。
交通系では、国内のJR東日本、西日本、東海、北海道、九州などJRグループ、首都圏の私鉄・バス各社が運営する「PASMO(パスモ)」、関西の「PiTaPa(ピタパ)」など、次々と採用。また、2004年7月には、携帯電話にFeliCaチップ(モバイルFeliCa ICチップ)を搭載した「モバイルFeliCa」(おサイフケータイ)がNTTドコモから投入された。
利用者は、おサイフケータイに専用のアプリケーションをインストールすれば、既存のカードサービスをそのまま使用可能となった。
たとえば、JR東日本の「モバイルSuica」では、交通カードとして、改札機にかざすだけで電車の乗り降りが可能だ。また、小売店舗では電子マネーとしてスマートフォンや携帯電話機を利用できる。
現在、ソニーでは、交通、決済、社員証などのIDカード、会員証、ポイントカードを、より安価に提供することで、これまでFeliCaが適用できなかった分野への浸透を図っている。
なお、現在、国内ではFeliCaがデファクトスタンダードとなっているが、非接触ICのワールドワイド市場では、FeliCaが普及しているのは、国内とアジアの一部地域となっている。
近接型 非接触ICカードのISO(国際標準化機構)規格は、「ISO/IEC 14443 TypeA/B」となっており、FeliCaは、TypeA/Bとは異なる独自仕様である。
ソニーでは以前、TypeA/Bを強化した新しい国際規格として、「TypeC」の標準化を目指したが、ISO化は見送られた。国際規格への対応に向け、ソニーがとった戦略は、MIFAREを開発したフィリップス・セミコンダクターズ(現NXPセミコンダクターズ)と共同開発した近距離無線通信「NFC(Near Field Communication)」のISO規格の取得である。NFCの無線通信の仕様は、FeliCa、MIFARE(TypeA)を包含しており、これが「ISO/IEC 18092(NFC IP-1)」として、2003年12月に、正式に国際標準として策定された。
FeliCaの上位互換であるNFCがISO/IECの国際規格として認定されたため、国際標準との互換性が確保できたことになる。ソニーでは、NFCフォーラムをNokia、NXPセミコンダクターズと共同で設立。現在は、最上位会員である「SPONSOR MEMBERS」として、規格の策定や普及活動の実施など、重要な役割を担っている。
FeliCaチップの出荷累計は8 億9000万個
インドネシアなどアジアでの展開を強化
2015年8月末時点でのFeliCaチップの出荷累計は8億9,000万個。このうちカード用ICは約6億2,200万個、携帯電話に内蔵するFeliCaチップも順調に伸び、この時点で約2億6,800万個に達した。
FeliCaのアプリケーションを見ると、主な市場は、交通、電子決済、セキュリティである。交通系では、JR東日本の「Suica」を筆頭に北から南まで、数多くの交通事業者でFeliCa技術が利用されている。海外では、1997年から香港の「オクトパスカード」で採用。また、インドネシアのジャカルタ首都圏鉄道など、アジアでの展開も進めており、FeliCaベースの交通カードは各国で実績を重ねている。
電子決済では、「楽天Edy」「nanaco」「WAON」といった電子マネーで採用。また、ポストペイ(後払い)電子マネーの「iD」「QUICPay」でもFeliCa技術が採用されている。
さらに、金融機関が発行するカードに、FeliCaを搭載する事例がある。ICキャッシュカードやICクレジットカードが普及する中、カードユーザーの間では、複数の金融カードの一体化、さらにFeliCa仕様のメンバーズカードなど、非接触ICサービスの搭載を望む声が挙がっていた。こうしたニーズに応えるため、接触型・非接触型の両機能が1枚のカードに搭載されたカードが、大日本印刷、凸版印刷などのカードベンダーから提供されている。
そのほか、社員証/職員証、学生証など、所有者の身分証明に使うID カードの採用事例が挙げられる。FeliCa社員証の導入は2003年頃から徐々に増加。現在は大手企業の需要はほぼ一巡して、中小規模の事業者へ広がりつつあり、カードベンダーも、大都市から地方、そして中小の事業者へ軸足を移している。また、FeliCaカードの既存アプリの上に、社員証を搭載するソリューションも広がってきた。
会員証/ポイント分野へのFeliCa適用を狙う
カードの暗号方式はDESからAESへ移行
大手の需要が一巡したいま、ソニーが力を入れている領域は、まず、FeliCaアプリケーションの採用拡大がある。交通、決済、社員証などのIDカード、そして会員証/ポイントカードを、より安価に提供することで、これまでFeliCaが適用できなかった分野への浸透を狙う。
たとえば、地域カードとしては、FeliCaカードを活用したASPサービスである「FeliCaポケット」を展開している。ポイントやクーポン、スタンプラリーなど、地域内の産学官民の機能を1枚にまとめたマルチカードで、全国各地で導入事例が増えている。また、最近では地域共通の商品券の代替としても利用されている。
カードのラインアップとしては、「交通・電子マネー・IDカード・入退・ゲートセキュリティ」などに対応したFeliCa Standardと、NFCフォーラム Type3 Tagに対応したFeliCa Lite-Sがある。
FeliCa Standardについては、従来のDES(Data Encryption Standard)暗号方式に加え、AES (Advanced Encryption Standard)の採用を発表した。リーダライタもそれに応じてAESの採用を進めており、各事業者で採用が進んでいるそうだ。FeliCa Lite-Sなどの廉価版については、NFCのタグ用途も適用する。
最新のFeliCaチップは、仕様策定においてJR東日本の協力を得て開発を進めた。同チップは、業界最高レベルのセキュリティとなっており、国際標準規格であるISO/IEC15408の評価保証レベルEAL6+を取得。また、高性能かつ高信頼性の実現により多数のアプリケーションに対応するとともに、従来のFeliCaチップよりも低価格で提供されている。さらに、従来のDES暗号方式との互換性を確保しており、現行のインフラも従来通り使用することが可能だ。基本的には従来のカードからDES/AESに対応しているカードに置き換えながら、リーダライタ端末を置き換えていく予定である。
多様な形状のFeliCa採用事例も増加
「RC-S390」はBluetooth接続を実現
多様な形状のFeliCa採用事例も増えている。リストバンドタイプ、キーホルダータイプ、シールタイプ、iPhoneのケースといった形状のFeliCaが提供されており、近年は採用が加速している。
FeliCaリーダライタ系のラインナップとしては、入退出やリテイル決済用途の高機能なものから暗号機能のないタイプまで用意している。後者には、スタンドアロン型NFC/FeliCaリーダーPaSoRi(パソリ)のほか、Windows PCに内蔵するタイプのリーダモジュール NFC(FeliCa)ポートが販売されている。
2010年12月には、現行のパソリよりも廉価で、PCにUSBで接続するスティックタイプのNFCリーダライタ「RC-S360」の発売を開始。RC-S360はFeliCa、ISO/IEC14443 Type A/BとNFC機能を搭載している。また、「RC-S380/S」は、世界で初めてNFCフォーラムの認定プログラムを取得したリーダで、PC/SCインターフェースを使用したアプリケーションを用いて、FeliCa、ISO/IEC14443 TypeA/Bのカード・デバイスにアクセスが可能だ。開発環境としても「SDK for NFC」など、さまざまな動作環境に対応したSDKのラインアップを用意している。
さらに、2013年10月に発売された「RC-S390」は、iPhone、iPad、iPod touch(iOSデバイス)と Bluetooth通信でワイヤレス接続が可能となっている。
キャラクターやフィギュアに搭載可能な「FeliCa Lite」
Lite とPlug の機能を引き継ぐ「FeliCa Link」
将来的には、現在普及している電子マネーや交通乗車券以外にもエンターテインメント、コンテンツ、認証、ID、健康医療分野などの領域にFeliCaが広がると考えている。そのカギとなるのは「FeliCa Lite-S」と、「FeliCa Plug(フェリカプラグ)」「FeliCa Link(フェリカリンク)」を軸とした新分野の開拓だ。スタンダードのFeliCaカードとはアーキテクチャーが異なる製品で、「軽量、安価なFeliCa」によって、新しいアプリケーション開発を狙っている。
FeliCa Lite-Sはカードやスマートフォンに貼付したり、キャラクターやフィギュアに搭載が可能だ。また、チップサイズの小型化と薄さを生かし、紙カード化も容易になる。さらに、ライトアクセス制御機能の追加により、発行者のみ書き換えることができ、書き込みデータを後で変更することはできないという。
FeliCa Plugは、小型の電子機器に、FeliCaポートやパソリと無線通信を行う機能を提供する無線インターフェースモジュールだ。つまり、「何でもFeliCa・NFCになる」電子機器版である。FeliCa Plugのモジュールを組み込んだ電子機器は、FeliCaポートやパソリとFeliCa方式で無線通信ができるようになる。
さらに、FeliCa LiteとFeliCa Plugの機能を受け継ぎ、リーダライタ機能やNFC-DEP機能など、多彩な動作モードにも対応した「FeliCa Link」もリリースされた。同製品は、「Lite-S」、メモリを持ちつつPlugのような動作を行う「Lite-S HT」、「Plug」、PtoP(Peer to Peer)通信で、NFCフォーラムで規定されている仕様に対応する「NFC-DEP」、リーダーライタと5つのモードに対応している。また、メッセージ認証コードを利用した相互認証機能も搭載しているそうだ。さらに、動作時で0.5mA以下、省電力モード時で0.1μA以下と、低消費電力を実現しているという。
加えて、NFC Forum Type 3 Tag、NFC Forum Certification 2nd Waveといった国際標準規格にも準拠しているそうだ。
NFC Forum Type 3 Tagに準拠し、モジュールはNFC Forum Certification 2nd Wave のリファレンスアンテナ搭載機器と十分な通信性能を持つようだ。
EMV 準拠の接触および非接触との一体型チップを開発
複数のカードを1 枚に集約できるカードも発表
そのほかにも、2014年7月に開催された「FeliCa Connect 2014」では、FeliCaやフェリカネットワークスの目指す新たな世界観も発表された。
まず、FeliCa、EMV準拠の接触および非接触(ISO/IEC 14443 TypeA/B)機能を一体化したチップの開発を進めている。技術的にはTypeA/Bのインターフェースを使ってFeliCaを動かすことが可能となる。つまり、WAONやnanacoといったFeliCaベースの決済、Visa payWave、MasterCard PayPass、J/SpeedyのTypeA/B決済を1チップで提供できる。
デバイスとしては、ウェアラブルの開発を行っている。FeliCa Connect 2014では、コンセプトモデルとして、複数のカードを1枚に集約できる「インタラクティブ・FeliCaカード」を展示。カード2倍ほどの厚さの中に、FeliCaチップ、薄型の2次電池・非接触給電、1.4型のカラー液晶などで構成されており、Bluetoothでスマートフォンに接続できる。また、スマートフォンで、カードのバリューチャージや利用履歴確認などのデモを行った。
モバイルFeliCaは1,000万人が日常的に利用
生活に密着したサービスに力を入れる
さらに、モバイルFeliCa(おサイフケータイ)は、2014年7月10日のサービスインから10年以上が経過した。おサイフケータイ対応のサービス数は累計100以上となり、1,000万人が日常的に利用しているが、フェリカネットワークスでは、ユーザーへのコミュニケーションの確保として、さまざまなデバイスにシームレスに対応していきたいとしている。
おサイフケータイのすそ野を広げるためのサービスも発表されている。第一弾として、スマートフォンを活用した企業向け情報配信プラットフォームを開発し、2015年2月23日より「つなガレ!」という名称でサービスの提供を開始した。
同サービスは、スマートフォンユーザーの利用頻度が高いアプリケーションであるスケジューラーに、同社が持つおサイフケータイを活用した企業向けソリューションサービスのノウハウ、技術を組み合わせて開発した情報配信プラットフォームとなっている。
まず、【“情報”とつながる】として、生活者(利用者)目線の使いやすいユーザーインターフェースを採用したスケジューラーを提供し、企業が生活者に届けたい情報を、生活者のスケジューラーアプリ上にタイムリーに効果的に届けるという。
また、企業からの情報を生活者のアプリ上でわかりやすく表示させ、さらにその情報を受け取った生活者に友人と簡単に楽しくシェアしてもらえる機能を搭載する等、スマホを活用して【“人”とつながる】手伝いをするそうだ。SNSやスマートフォンの電話帳とのスムーズな連動も実現するという。
さらに、【”モノ”とつながる】として、スマートフォン上の写真等のライフログや、おサイフケータイ機能との連動、ウェアラブル機器と連動した情報表示により、生活者との接点をより多彩に豊かなものへと発展させることを目指す。
2つ目は、エンターモーションと連携し、リアルなお店とオンラインショップの両方の多彩なおトク情報をまとめたキュレーションサービス「PREAL(プレアル)」を開始した。同サービスはAndroidおよびiPhoneのスマートフォンのアプリケーション上で提供する。利用者は会員登録不要で、多彩なおトク情報(クーポンや割引)を取得し、利用することが可能だ。
さらに、3つ目のサービスとして、おサイフケータイサービスの1つである電子マネーを利用することで毎日電子マネーに交換可能なポイントの獲得にチャレンジすることのできるサービス「ラッキータッチ」を2015年8月4日より提供開始した。利用者はおサイフケータイで電子マネーを使うとミニゲームに参加することができ、当選すると各種電子マネーに交換可能なポイント(1ポイント~1,000ポイント)を獲得することが可能だ。すでに、「楽天Edy」、「nanacoモバイル」、「モバイルSuica」が利用できる。3種類の電子マネーを一覧表示し、利用者は利用状況に応じてゲームに参加することができ、当選するとポイントを獲得可能だ。従来の抽選サービス・キャンペーンサービスでは、ポイントを獲得する手段としてコード入力などをその都度行う必要があったが、ラッキータッチではゲームの参加条件である電子マネー利用有無をFeliCaチップより自動判定し、ポイントを還元するユーザーの電子マネー番号を自動取得することが可能だ。