2016年6月8日11:31
複数要素を用いた認証技術の確立を目指す
東京大学大学院情報理工学系研究科 ソーシャルICT研究センターでは、産学で連携したライフスタイル個人認証に関する5万人規模の実証実験「MITHRA Project(ミスラ プロジェクト)」を2017年1月に実施すると発表した。これまでWebサイトでの個人認証はIDとパスワードが用いられてきたが、複数認証を用いた認証技術を用いることによりユーザビリティの向上につなげる狙い。実証実験には、オムロンヘルス、小学館、凸版印刷、ヤフー、TIS、日立製作所等が協力する。
三菱UFJニコスと次世代個人認証に関する寄附講座を開設
実験では多要素での認証を1つのシステム上で接続が可能かをチェック
東京大学大学院情報理工学系研究科 ソーシャル ICT 研究センターと三菱UFJニコスでは、2013年4月より、東京大学大学院情報理工学系研究科に次世代個人認証に関する寄附講座を開設し研究を続けてきた。
講座4年目を迎えるこのほど、同個人認証技術の大規模な実証実験を実施する運びとなった。実験は2017年1月~3月を予定している。同実験の目的は、多要素認証にかかわる大規模なデータ収集、多要素での認証を1つのシステム上で接続が可能かをチェックすることとなる。
2016年6月7日には、同実験に関するシンポジウム『ビッグデータの社会基盤に関するシンポジウムおよび次世代個人認証実証実験の発表』も開催されたが、それに先立ち報道関係者向けに、東京大学ソーシャル ICT研究センター 特任准教授 山口利恵氏より実験についての説明が行われた。
ユーザーの動作がなくても認証が可能に
IDとパスワードの入力、指紋などの生体認証を簡略
山口氏によると、ライフスタイル認証は、“何か明確な動作をすることなく、本人を認証できる技術”であるという。具体的には、スマートフォンやウェアラブル端末といったユーザーが所持する端末等によって本人性や行動を確認可能だ。例えば、インターネット取引の場合、従来はIDとパスワードの入力、指紋などの生体認証により本人確認が行われるが、それらの動作を簡略化できるのが特徴となる。
また、ユーザーが何か明確な動作をすることなく本人認証が可能としている。ユーザーの普段の動作から認証を抜き出すことで、ユーザーリテラシーに頼らない認証を実現させる。
さらに、安全性への柔軟な対応も可能とする頑健な認証基盤を実現させるという。ビッグデータを活用することで、多角的な本人確認を目指す。
人気のあるサービスと連携し、実用の可能性を探る
段階的なシステムの変化にも対応
今回、実証実験としては最大の5万人の被験者を予定。このような取り組みは海外では、300人規模の実験が行われているが、5万人規模で複数要素を用いた認証にかかわるデータが収集されるケースは世界初になる。
実験では、小学館およびLink-Uの漫画アプリ「マンガワン」、凸版印刷のチラシアプリ「Shufoo!」といった多数の利用者がいる商用サービスと協力。実際に認証基盤として実現するために、「人気のあるサービスと連携した実証実験」(山口氏)となっている。また、オムロンヘルスの活動量計を利用することが決定している。
今回のライフスタイル認証では、段階的なシステムの変化にも対応。従来、インターネット系のサービスは徐々に移り変わるが、端末IDやIP等の検討を含めることにより、大幅なシステム改変なく、認証方式を利用することができるそうだ。
現状の多要素認証の想定要素は、端末、電波(Wi-Fi)、位置、IP、利用時間、運動履歴、マンガ履歴、血圧計、電子チラシとなる。
将来的には店舗のレジでの支払いも簡略?
三菱UFJニコスは有用な個人認証確立に期待
まずは、多要素認証を1つのシステム上で接続可能かを確認することからスタートするが、次の段階では店舗での買い物時に、「購入の確認」「現金やカードで商品を支払う」行為を省略し、手ぶら決済を実現することも可能としている。その際は、商品情報を防犯カメラで確認したり、商品にチップをなどして確認。また、スマホアプリに支払い情報を登録し、スマホのセンサーで確認するなどを想定している。
なお、三菱UFJニコスでは、国内外の社会基盤となったインターネット上での電子決済を支える有用な個人認証技術を確立し、安心・安全な電子商取引の実現に向けて協力する目的として、同プロジェクトを支援している。6月7日のシンポジウムでは、同社執行役員の鳴川竜介氏が登壇し、「金融機関のビッグデータ活用と展望」について講演した。