横浜DeNAベイスターズが地域通貨の未来を考えるイベント開催、「BAYSTARS coin」の購買体験も実施

2018年11月12日7:10

横浜DeNAベイスターズは、2018年11月7日にCREATIVE SPORTS LAB(横浜市中区)において、トークイベント「地域通貨の可能性を探る」を開催した。同イベントでは、横浜の地域経済活性化を目指した地域通貨として構想を掲げる「BAYSTARS coin(仮)」による購買体験の実験も行われた。

「BAYSTARS coin」は、電子スタンプを活用した地域通貨を検討している

イベント参加者は電子スタンプ方式の地域通貨を体験

横浜DeNAベイスターズでは、2017年12月より、スポーツ産業の共創を目指す新事業「BAYSTARS Sports Accelerator」(ベイスターズ スポーツ アクセラレータ)を開始したが、その第1期プログラム参加企業としてデジタルギフト、スタンプ事業を展開するギフティを採択した。同プログラムでは、横浜 DeNA ベイスターズが保有するデータやネットワークを活用し、ギフティの地域通貨ソリューション「Welcome!STAMP」をベースとした電子地域通貨 「BAYSTARS coin」の開発を行い、横浜スタジアムや対象エリアの加盟店で同サービスを用いた決済が可能となるサービスを検討している。

「地域通貨の可能性を探る」では、参加者に対し、当日限定で利用可能な2,000円分の「BAYSTARS coin」を提供(イベント参加費は1,000円)。参加者は、CREATIVE SPORTS LABの1Fにあるブールバードカフェ「&9」において、「BAYSTARS coin」により食事やドリンクを購入した。

今回提供した「BAYSTARS coin」では、ギフティの「Welcome ! STAMP」を使用している。同ソリューションは、すでに長崎県内関係離島市町の「しまとく通貨」、東京都島しょ地域の「しまぽ通貨」といった電子地域通貨で採用された実績がある。「Welcome ! STAMP」では、スマートフォン等の画面に表示された電子地域通貨に電子スタンプを押すことで精算が完了。店員は、参加者のスマートフォン画面にスタンプ押すと、その会計データが自動で表示され、地域通貨の金額が差し引かれる。

具体的な利用の流れとして、参加者は食事やドリンクの金額をスマートフォンに入力し、その金額を店員が確認して問題なければ電子スタンプを押印する。決済が完了すると、スマホ画面にはベイスターズのロゴが表示される流れだ。

実際に使用した参加者からは、現在話題となっているQRコード/バーコードを活用したサービスと違う、電子スタンプを押す方が面白いという意見も挙がった。

参加者は自信が注文した商品の代金を入力し、店員が確認してからスタンプが押される
決済完了後にはベイスターズマークをスマホ画面に大きく表示

「地域通貨」について基調講演やトークセッションも実施

イベントでは、基調トークとして、日本政策投資銀行 地域企画部 課長 坂本 広顕氏が登壇。現在の地域経済構造は「穴のあいたバケツ」であり、如何に地域の中でお金の循環を促進させるかが重要であるとした。

地域通貨は、地域の共通ポイント事業者や電子地域通貨といった、発行事業者のサービス提供エリアでの決済にほぼ限定される。また、地域共通ポイント事業は、ポイントの有効期限が設定されており、価値貯蔵機能は限定的だ。これは、ポイントの有効期限が6カ月未満となると事業が資金決済法の対象外となるためだ。また、電子地域通貨は、購入時や最終利用から起算され、一定期間で減価する設定となっている。

坂本氏は、電子地域通貨は日本・円の価値と連動することで、安定性は高く、エリア内での決済のため、資金が域外に流出しにくいとした。さらに価値尺度として、ポイントの有効期限の設定や時間による価値の原価があるため、原価が消滅する前に使うといった意識が働きやすい。これは、域内消費にインセンティブをもたらすメリットがあり、「お金の地産地消」を推進させる効果が見込めるとした。

さらに、これまでの地域経済は成り行きで形成されてきたきらいがあるが、これからは根本構造から変革・改善するためのプラットフォーム(土台・礎)をセットする必要があるとしている。

加えて、電子地域通貨は域内での資金の滞留に加え、外部からの資金を域内に呼び込むうえでも重要であるとした。これにより、域内からの資金流出を抑制しつつ、資金循環のスピードの加速につなげることが可能だ。

さらに、旧来から地域通貨は紙などで展開されてきたが、電子化・FinTech化することで、システムとして全体を維持するのが容易になり、かつスマホの普及により事業を促進させやすい環境になりつつあるとした。さらに、現代版の藩札のように、特定エリアで利用でき、後から分析に役立てることが可能だ。また、これまでの地域通貨事業をみると、買いたい物が買えない、受けたいサービスが受けられないケースもあったが、成功のためには、日常的に消費される店舗を含めた地域商店街などの加盟店数の確保、資金の外部流出が抑制される要件を満たす必要があるとした。さらに、「ポイント●倍セール」、「換価時プレミアム」などユーザーにとって嬉しい仕組みの重要性も述べた。

同イベントでは、日本政策投資銀行の坂本氏に加え、しま共通地域通貨発行委員会の久保雄策氏、処デザイン学舎代表/慶應義塾大学SFC研究所上席所員の齋藤美和子氏が登壇して、トークイベントも行われた。

長崎県内関係離島市町(壱岐市、五島市、小値賀町、新上五島町、佐世保市宇久町)で組織するしま共通地域通貨発行委員会では、2016年10月より、電子スタンプを用いた電子地域通貨「しまとく通貨」の運用を行っている。しまとく通貨は、もともと県が主導する長崎県内の離島の共通事業として、2013年度からの3か年計画の下で発行されてきたが、しま共通地域通貨発行委員会による電子化にリニューアルした結果、2年間で売上7億円、44億円の経済効果を生んだとしている。しまとく通貨では、旅行会社111社、434商品とタイアップすることで、長崎の離島を知らない人に、島旅の動機付けを生む機会となっている。

齋藤氏は、多目的スペース「よりみちベース」を運営。横浜・関内で、大学および研究者をコアユーザーとした大学と地域をつなぐプロジェクトを組成するとともに、公共空間活性化の企画等を手掛けている。

久保氏は、地域通貨を成功させるためには、行政ではなく、地域の加盟店や人々が皆で作り上げることが重要であるとした。また、地域通貨はあくまでもツールであり、利用者に対してどういったバリューを提供できるかが大切であるとコメントした。齋藤氏は、地域通貨は面白さや楽しさを載せないと、便利さで法定通貨やSuicaや交通系電子マネーに負けてしまうとしたうえで、横浜の価値の1つとして“市民力”が高いため、それを通貨に還元することも一つの手であるとした。

トークセッションの様子。左から日本政策投資銀行 地域企画部 課長 坂本 広顕氏、日本政策投資銀行 地域企画部 課長 坂本 広顕氏、しま共通地域通貨発行委員会の久保雄策氏、処デザイン学舎代表/慶應義塾大学SFC研究所上席所員 齋藤美和子氏

年間動員数200万人以上の資産を生かし、人々や加盟店に有益なサービスを提供へ

なお、イベントでの「BAYSTARS coin」は試験的な仕様となっており、正式な名称やサービス開始時期は未定だ。横浜DeNAベイスターズでは、横浜スタジアムや対象エリアの加盟店で「BAYSTARS coin」を用いた決済が可能となるサービスの実現に向けて、検討を進めている。今回のイベントの司会を務めたディーエヌエー スポーツ事業本部 シニアマネジャー 経営管理部 部長 上林靖史氏によると、今年横浜DeNAベイスターズは球団史上初めて、年間観客動員数が200万人を突破したが、その資産を生かしながら、地域の人々や加盟店にとって有益なサービスを検討していきたいとした。その一方で、地域通貨事業は数多くの地域で取り組まれているが、成功例は少ないため、地域加盟店、利用者、地域関係者、球団のすべてがWin-Winとなるエコシステムの構築が重要になるとした。

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