2019年2月19日8:00
2018年4月に経済産業省から「キャッシュレス・ビジョン」が発表された。「キャッシュレス・ビジョン」では、“支払い方改革宣言”として2025年に開催を目指している大阪・関西万博に向けて、“未来投資戦略2017”で設定されたキャッシュレス決済比率40%の目標を2025年に2年前倒しし、さらに将来的にはキャッシュレスが実現されたと実感できるキャッシュレス決済比率80%の水準を目指すとされている。「キャッシュレス・ビジョン」では、日本におけるキャッシュレスの実現に向けた取り組みの推進母体として産学官からなる「キャッシュレス推進協議会」を2018年7月に立ち上げている。今回は、レポート「キャッシュレス2020」の“はじめに”から、キャッシュレス化の効用について一部を紹介する。
現金決済を擁護する意見も
すでに、スウェーデンやデンマーク、ノルウェーなどの北欧諸国は、現金決済ゼロのキャッシュレス社会を実現させようとしている。イギリスやカナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどの英連邦の国では、デビットカード決済を核にキャッシュレス化を推し進めている。お隣の韓国では、クレジットカード決済を中心に、世界トップクラスのキャッシュレス化が進み、中央銀行の韓国銀行が不便なコインレスに挑んでいる。合わせて27億人と、世界人口のおよそ3分の1を占めるアジアの大国である中国やインドでもスマートフォンの急速な普及に伴い、デビットカードやモバイル財布によるキャッシュレスの取り組みが果敢に進められている。さらに、インドでは、キャッシュレス化を推進するため、インドにとって高額紙幣である1,000ルピー(約1,700円)札と500ルピー札の改廃が2016年11月に行われている。
銀行口座を有していない人が多く存在する南アジアやアフリカなどの多くの発展途上国やほとんどの人が銀行口座を有している日本やドイツ、オーストリア、スイスなどのドイツ語圏の国、イタリアなどのいくつかの先進国においても、キャッシュレス化があまり進んでいない。こうしたキャッシュレス化があまり進んでいない先進国では、「贋札の問題もほとんどなく、ATMもすでに隈なく設置され、現状のレベルの現金決済に不自由していないから、キャッシュレス化は現状のレベルで十分である」とし、次のように現状の現金決済を擁護する意見も聞かれる。
・現金決済は、買い手と売り手以外に関与する第三者を介在させることはない
・現金決済は、電子的なインフラストラクチャに依存していないため、停電や災害などにおいても利用できなくなるようなことはない
・現金決済は、匿名で、個人情報を相手に渡す必要はない
キャッシュレス社会到来によるメリットとは?
一方、キャッシュレス化の効用には、現金の保管、輸送、札監など現金決済に伴うハンドリングコストの削減のほか、贋札など偽造通貨対策、脱税や賄賂、マネーロンダリングなどの匿名による現金に伴う犯罪対策、硬貨や紙幣などの現金の受け渡しに伴う衛生上の問題の解決、デジタルエコノミー活性化などの効用がある。アメリカのマサチューセッツ州のTufts(タフツ)大学が試算したアメリカの家計、企業、行政府の現金コストは2013年度において名目GDPの1.2%にも及ぶとしている。
現金コストには、ATMへ行って現金を引き出す時間や現金犯罪の被害、警備などの対策費用、現金決済による脱税による税収減などが含まれる。GDP1.2%は、日本の2017年度の名目GDP535兆円で換算すると6兆4,200億円となり、アメリカの倍以上といわれる日本の現金決済比率を勘案すると、10兆円を超える現金コストを日本の家計、企業、行政府で負担していることになる。
完全なキャッシュレス社会が到来すれば、現在社会で負担している紙幣や硬貨の現金のハンドリングコストや各種自動販売機、ATMとATMネットワークを含む現金決済がもたらす膨大な現金コストが消滅する。100%のキャッシュレス化が実現しなくても、現金決済の大半がキャッシュレス化されることによって、現金決済がもたらすハンドリングコストなど多くの現金コストの削減が可能となろう。