2019年5月10日7:00
Hyperledger Iroha(ハイパーレジャーいろは)V1.0が商用バージョン正式認定完了
ブロックチェーン(分散型台帳技術)の開発を手掛けるソラミツ(東京都渋谷区)は、ブロックチェーン・フレームワークのHyperledger Iroha(ハイパーレジャーいろは)V1.0について、商用バージョンとしての正式認定が完了したと発表した。高度なアクセスコントロール、プライバシー保護、利用者保護の機能が特徴で、他の技術に比べて導入が格段に容易になるといい、世界市場で展開する。(ライター:小島清利)
オープンソースによるブロックチェーンの活用目指す
ソラミツ SORAディレクター 宮沢和正氏は記者会見で、「カンボジア国立銀行の決済インフラの開発やモスクワ証券取引所グループの保管振替機構に採用されるなど、日本発のブロックチェーン『いろは』は、世界で高い評価をいただいている」と話した。
Hyperledgerコンソーシアムは、オープンソースによるブロックチェーンの活用を目指し、世界から様々な業界の270社以上が参加している。「ハイパーレジャーいろは」は、コンソーシアムが要求するセキュリティー、安全性、耐久性などの様々なテストや、オープンソースとしての開発体制、管理体制などの基準に合格し、商用バージョンとしての認定が完了したという。商用バージョンは、Hyperledger Fabric、Hyperledger Sawtooth、Hyperledger Indyに続き世界で4番目となる。
「いろは」の特徴は、他のブロックチェーンに比べ導入が格段に容易である点だとした。他のブロックチェーンでは、スマートコントラクト(ブロックチェーン上で契約をプログラム化する仕組み)の開発スキルが必要になるケースが多い。これに対し、「いろは」は「あらかじめ定義されたコマンドがあり、それらを組み合わせるだけで、簡単に目的のアプリケーションが作成できる」(宮沢氏)という。
また、高い信頼性と安全性も強みだ。宮沢氏は「必要な人が必要な情報にアクセス可能なプライバシー保護機能を搭載しているほか、スマートフォンに入っている個人の秘密鍵を紛失した時にも、適切な本人確認を実施すれば、資産を取り戻すことができるなど、利用者保護にも配慮している」と話す。
いろはは、シンプルで高速な設計思想のもとに開発されており、CPUパワーやメモリーなど必要とされるリソースも少ない。安価な超小型コンピューターでもサーバーとして活用できるうえ、IoT機器のような組み込み型コンピューターへの実装も期待されている。
社会実装へ向けた動きが加速へ
記者会見では、海外を拠点にビジネス活動しているソラミツの岡田隆氏、武宮誠氏の両共同最高経営責任者もそれぞれ現地からビデオメッセージを寄せ、いろはの社会実装へ向けた取り組みを強化する方針を示した。
「いろは」は、B2C(企業と消費者との取引)市場での実用化に適したブロックチェーンで、モバイル向けの開発ツールも豊富にそろっている。「デジタル通貨・キャッシュレス決済」「本人認証・KYC(口座開設の際に銀行側から要求される顧客の身元確認に関する手続き)」「契約管理・デジタル資産管理」の分野が主な導入事例だ。
海外ではカンボジア国立銀行の国家決済システム、インドネシア銀行グループの本人認証プラットフォーム、モスクワ証券取引所グループの分散型デジタル証券保管管理で実用化への動きが進んでいる。
国内でも、東京大学・会津大学・国際大学GLOCOMの地域通貨や大学内通貨のほか、証券会社や損害保険会社の本人認証や契約管理・デジタル資産管理などでプロジェクトが立ち上がっている。
日本、アジア発のビジネスモデル構築に期待
Hyperledgerを主催するThe Linux Foundation 日本担当バイスプレジデントの福安徳晃氏は、「Hyperledgerは、日立製作所、富士通、NECの3社が意思決定にかかわるプレミアムメンバーに入っているなど日本企業の役割は重要だ。さらに、今回、日本のベンチャーであるソラミツの『いろは』が商用バージョンを迎えた意義は非常に大きい」と話した。
また、Hyperledgerの長稔也理事(日立製作所金融システム営業統括本部)は「未成熟なブロックチェーンの技術をさらに発展させるのがこれからの課題」と指摘し、日本発のブロックチェーンである「いろは」への期待感を表明した。
クオンタムリープ ファウンダーCEO 出井伸之氏も駆け付け、「1990年代のインターネットの登場の時は、日本は完全に出遅れた。ブロックチェーンの登場は日本に与えられた挽回のチャンスだ。ソラミツの『いろは』の商用バージョンのリリースでブロックチェーンビジネスの号砲は鳴った。新しいビジネスモデルの構築に挑戦するスタートアップや大手企業がどんどん出てきてもらいたい」と祝辞を述べた。
日本発ブロックチェーンが世界へ向けて大きな一歩を踏み出した形で、長沢氏は「今後も、『いろは』をはじめとする様々なブロックチェーンが相互接続し、改ざんできない『Trusted Internet(信頼できるインターネット)』が世界を覆う環境の実現に貢献したい」と意欲を語っている。