2019年6月13日8:00
アクセンチュアは、2019年6月11日に記者説明会を開催し、世界のフィンテック(FinTech)動向と日本市場の立ち位置について紹介した。
ブラジル、カナダ、オーストラリア、日本の成長が顕著
アジアはグローバルで最大のポジション
アクセンチュアでは、2010年からフィンテック投資についての情報をリサーチしており、日本で記者説明会を開催するのは今回で3回目となる。
グローバルにおける2018年のフィンテックベンチャー企業への投資額は、前年比2倍以上の553億ドルとなり、実需に基づくフィンテック投資が加速した1年となった。その要因の1つとして、中国における投資額が前年比約9倍の255億ドルに達したことが挙げられる。中でもモバイル決済サービス「Alipay」を展開するAnt Financial(アント・フィナンシャル)が2018年5月に実施したシリーズCにおいて140億ドルの資金を調達したことが大きい。
また、初期の頃はフィンテック投資の金額が倍々で伸びていたが、件数の伸びも顕著となった。案件数の増加は、イノベーションが高い関心を持たれていることを示しており、スタートアップがさまざまな分野でアイデアを供給している。
地域で見ると、アジアでは、前述の中国は大きなポジションを占めるが、シンガポール、香港、日本なども挙げられる。現状、アジアはグローバルで最大のポジションを占める。また、世界で見ると、ブラジル、カナダ、オーストラリアに加え、日本の成長が顕著となっている。
さらに、近年は、数百億円規模を超える資金調達を行う大企業も生まれ始めている。イノベーションのシーズとしての位置づけから、社会へ直接インパクトを与える存在となっている。
分野別にみると、従来から「決済」と「融資」はフィンテック投資で関心が高く、継続して大きなポジションを占めている。それに加えて、「ウェルス&アセットマネジメント」の金額が大きい。ここはアント・フィナンシャルが該当しており、前述の資金調達が大きな影響を与えた。より着目すべきは「保険」で、派手に伸びていないが、件数も金額も順調に成長を続けている。
日本は投資案件で10位、金額は9位に
事業領域もさまざまな分野に広がる
グローバル・主要国でのフィンテック投資の推移をみると、1位が米国、2位が中国、3位が英国となっている。その中で日本は、前年比5倍以上の5億4200万ドル、3倍近くまで投資案件数が伸長している。日本は、投資案件で前回18位だったが、件数は10位、金額は9位となった。アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 テクノロジー戦略グループ日本統括 マネジング・ディレクター 村上 隆文氏は、「日本の存在感が高まりつつある」とした。
日本の事業領域別フィンテック投資の推移をみると、案件数が10件台になっているのが「融資」、「保険」、「ウェルス&アセットマネジメント」、「その他」となる。「ウェルス&アセットマネジメント」では、ロボアドバイザーが伸びている。また、件数は少ないが「決済」は金額的に大きな比率を占める。国内のフィンテック投資では、当初、クラウド会計などが多かったが、スタートアップの範囲が多岐にわたってきた。
グローバルでのイノベーションの状況として、北米は継続して成長しているマーケットだ。コモディティのマーケットでは救われない人がいる。また、イノベーションの成長文化があり、「法人決済」、「CMS/VAS、貿易、請求、調達」などが伸びている。欧州は成熟している国々と成長国が混在しているが、国土が狭いため、国境や業種を超えた相互参入が起きている。また、PSD2など競争を加速する規制緩和が行われている関係で「オープンバンク(API)」、「法人決済」が成長している。アジアは、旺盛な資金需要や金融包摂ニーズが高い。また、規制緩和に積極的な国も多い。分野としては、「リテール貸付」、「決済加盟店連携」などが増えている。
これに対し、日本は同質性社会などの要因があり、金融機関やスタートアップの動きは相対的に低調だった。これまでのイノベーションも海外で生まれたイノベーションを横展開するケースなどが多かったそうだ。ただし、近年は状況が徐々に変化しており、非金融の流通系やIT系企業が金融事業に参入する動きが顕著になっているという。また、社会課題先進国として潜在的な課題を抱えており、その解決に向け、新たなイノベーションが生まれると期待されている。さらに、暗号資産・金融横断法制などが段階的に進みつつある。
グローバルで見た日本のフィンテック投資のステージは
金融イノベーションの発信地になるポイントは?
村上氏は、金融イノベーション創出のステージを「ステージ1:散発的なイノベーション創出」、「ステージ2:ユーザー利便型イノベーション創出」、「ステージ3:金融イノベーションの発信地」の3段階で進化を遂げていると分類。現状、日本のフィンテック投資は勢いを増し、第2ステージに突入したとした。
第3ステージに向けた展望として村上氏は、「社会課題先進国として、新たなイノベーションが創出され、それを輸出することがドライバーになる可能性がある」とした。また、海外の主要国では、スタートアップ誘致、規制を設ける取り組みなどが行われているが、「国内でも東京都が踏み込んだ展開を検討するなど、兆しは出てきている」とアクセンチュア 常務執行役員 金融サービス本部 統括本部長 中野 将志氏は説明する。
同氏は、「日本の投資額は米国の30分の1、中国の50分の1です。これから伸びていく要素は十分にあるので注視したいです」としている。