2019年7月31日8:00
TISは、2019年7月26日、ベルサール秋葉原にて「ペイメントマーケティングカンファレンス~顧客理解を深めるための決済データ・パーソナルデータの利活用~」を開催した。決済データ、パーソナルデータを含む多様かつ大量のデータを有効に活用することによって消費者と企業の双方にメリットをもたらすDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現するため、今、企業が着手すべきこととは何か――? キャッシュレス、情報銀行、データの利活用といったキーワードを掲げ、総務省、Origami、TISの各担当者などが取り組みの現状や展望について語った。
決済とデジタルマーケティングの対応部署を統合し
「DX(デジタルトランスフォーメーション)」として一本化
TISは、クレジット、デビット、プリペイドカードの基幹システムの開発・運用で数多くの実績を持つシステムインテグレーター。2000年代当初からデジタルマーケティング分野にも本格参入し、EC、情報産業大手のWEBシステム開発やログデータ分析などを手がけてきた。
同社では今年度、決済とデジタルマーケティングのそれぞれに対応していた部署を統合し、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)推進を総合的にサポートする部隊として一本化した。「ペイメントマーケティングカンファレンス」の幕開けに、主催者あいさつとして登場したTIS 取締役専務執行役員 サービス事業統括本部長 岡本安史氏は、その理由を以下のように説明する。
「決済データは貴重なマーケティングデータ。企業の業績アップを図るためには、決済データとパーソナルデータを掛け合わせて分析する必要性があると、強く感じています。決済、デジタルマーケティング、データ分析がばらばらに行われていては、事業性、収益性は立ち行かなくなります。これらを統合して、企業にとってもユーザーにとってもメリットのあるデータの利活用を推進していくことが必要なのです」(岡本氏)
キャッシュレス化とデータ利活用はDXの両輪
日本発の“情報信託”実現に向けて動きが加速
キャッシュレス化を推し進め、日本の決済環境を大きく変えるフックとなるのではと期待されているのが、いよいよ8月1日から4県で利用が開始される「JPQR」だ。現在は事業者ごとに独自規格のコードが使用されているQRコードの規格を統一し、同一コードで複数サービスのQRコード決済に対応することを可能にする。
8月1日から実施をスタートする4県は、福岡、和歌山、長野、岩手。対応する決済サービスは、d払い、Origami、au Pay、YOKA!Pay(福岡銀行)、J-Coin Pay(みずほ銀行)、メルペイ、ゆうちょPay、LINE Payの8つ。ほかに、PayPayは、ユーザー側がスマホに表示したQRコードを店舗側が読み取るCPM方式のみでの参加が決まっている。ほかの決済手段と比較して手数料率が低く、加盟店が導入しやすいと言われるQRコード決済であるが、さらに「JPQR」では2020年1月までの半年間、手数料を最大1.8%までに抑える優遇措置をとることで、加盟店の拡大を図る。総務省で「JPQR」の普及活動を担う情報流通行政局 情報通信政策課 調査官 飯倉主税氏は、「令和元年である今年を、JPQR元年としても盛り上げていきたい」と抱負を語った。
飯倉氏は同時に、総務省の情報銀行担当でもある。「JPQRがデータをつくる機能だとすると、情報銀行はデータを使う機能。DXの両輪であるこれら2つを、1つの絵をしてとらえる必要があります」と飯倉氏は提言する。
国は、多種多様かつ大量のデータの円滑な流通のために、PDSもしくは情報銀行が有効な方法だとしている。PDSが個人情報をどこに提供するかを100%個人が決める方法であるのに対し、信託によって個人に代わり情報の提供先を絞り込むのが情報銀行。この“情報信託”は、日本発のシステムである。
すでに2018年12月から(一社)日本IT団体連盟が情報銀行認定の受付を開始しており、2019年6月には第一弾として三井住友信託銀行とフェリカポケットマーケティングが認定を取得。具体的な動きが見え始めている。
飯倉氏は、「決済データ、購買データは情報銀行が扱う中核的なデータのひとつ。ECの購買データはほぼ100%取得できるものの、EC市場規模は2018年度で約18兆円と全体の1割にも満たず、ユーザーの購買行動を把握するには不十分。リアル店舗でのデータ収集が今後の課題です」と指摘する。そのためにも「JPQR」をはじめ、キャッシュレス化の推進が不可欠だというわけだ。
企業の存続すら左右するデジタル化対応は待ったなし!
今すぐ着手すべき「攻め」と「守り」の施策とは
主にインターネットを介して、日々膨大な個人情報が収集されるパーソナルデータ時代が到来。これを最大限に活用すれば顧客満足を高められる一方で、流出させてしまったり誤って使ったりすれば信用を失う事態にもなりかねない。TIS デジタルトランスフォーメーション企画部 岡部耕一郎氏は、「攻めと守りの両方を実行しなければいけません」と言及。加えて、今すぐ着手すべきことと、中期的な視点で取り組むべきことがあると提言した。
ユーザーがスマホを携帯することで常にオンラインの状態にあり、決済機能を有するアプリを介して行動・購買データを逐一把握できる環境にある現在、DXサービスの基盤は整ったと言える。今すぐ着手すべき攻めの施策とは、まさにこのDXの実践だ。これが成功するかしないかのカギとなるのは、「パーソナルデータの提供に見合うベネフィットのデザイン」であると岡部氏は指摘。ユーザーに便益を提供する活用例として、決済データと連動した個別のメールマーケティングや広告の出し分け、LINEの画面で利用明細を確認でき不安があれば同じ画面からチャットボットやコンタクトセンターにアクセスできる仕組みなどを紹介した。
一方、守りの姿勢として、岡部氏は「顧客理解を深めるという視点に立って、情報の利活用を進めることがポイントです」と述べた。VRM(Vendor Relationship Management)の考え方についても強調。個人主導でパーソナルデータを利活用できる社会は、CRMの発想では実現することが難しい。個人が自分の意志でベンダー(企業)に情報を提供するVRMの思想に立つことが求められている。
足元を見つめ、できることからひとつひとつ――
データ利活用による社会貢献を目指して
岡部氏は、「まずワンイシュー(1つの目的)に絞ってデータの利活用を始めてみては」と提案する。TISではパーソナルデータの利活用による社会貢献を標榜しており、同社 デジタルトランスフォーメーション企画部 鈴木翔一朗氏は、人々の健康増進に寄与するパーソナルデータの活用法を紹介した。1つのアプリでスポーツ用品や健康食品の購買、バイタルや睡眠や食事、ランニングやフィットネスなどの健康にまつわる情報を一元的に収集・管理。これをスポーツ店やドラッグストア、フィットネスクラブなどが共有することによって、最適な商品・サービスを最適なタイミングで提案し、ユーザーの健康管理を総合的にサポートしようというものだ。
さらに鈴木氏は、アプリで収集されるデジタルデータを、リアルな接客の場でも生かしたいと意欲を見せる。例えばECでは掲載されたレビューを参考にして商品を購入する人が多い。鈴木氏は、「店舗でも同様のアドバイスが受けられればCX(顧客体験価値)の質を高めることができます」と話す。
「ユーザーに喜ばれ、使われ続けるサービスにするためには、良質な顧客体験の提供→データの収集→分析→改善のサイクルを高速で回す必要があります。それによって、商品・サービスが、ユーザーにとってなくてはならないものになっていくのです」(鈴木氏)
TISは今年5月、オンライン上のデータを独自のノウハウで収集・解析し、人の行動パターンを特定するAIを提供しているシンガポールのスタートアップ企業、SQREEM社との資本・業務提携を発表した。TISのノウハウとSQREEM社のノウハウを掛け合わせることでデータ分析の精度がますます向上すると期待されている。
本セミナーではこのほか、金融のスタートアップ企業として2015年からスマホ決済サービス「Origami Pay」を展開しているOrigami PRコミュニケーションディレクター 古見幸生氏がサービスの現状と今後の展開について紹介。また、ファミリーマート デジタル戦略部長 植野大輔氏、日本ケンタッキー・フライド・チキン 執行役員 営業戦略本部長 小山典孝氏、パルコ 執行役 グループデジタル推進室担当 林直孝氏をパネラーに迎えた顧客データ利活用についてのパネルディスカッションが行われた。
なお、当日は定員の500名を大きく上回る応募があったという。来場者は講師の話に熱心に耳を傾け、ペンを走らせていた。
※「ペイメントマーケティングカンファレンス」は、メディアタイアップとしてpayment naviと宣伝会議が告知協力