2020年4月8日8:00
交通の分野では、「Suica」等の交通系ICカードの利用が定着しているエリアも多いが、QRコードや顔認証による乗車実験に取り組む事業者もある。また、イオンでは、路線バスへのWAON決済サービスを一部地域で進めているが、交通系以外のICカードでの乗車実験も行われている。
QRコード決済の実験が活発に
JR東日本は、新宿駅と、2020年3月14日に開業する高輪ゲートウェイ駅でタッチしやすい改札機の実証試験を実施。同実証実験では、IC カードとQRコードの2種類の乗車券への対応を可能としている。QRコードの活用については、タッチしやすい自動改札機の実証実験等を通じて、改札通過への影響等を評価すべく取り組んでいる。ICカードタッチ部は、車椅子の利用者でもスムーズにタッチできるよう、タッチ部を斜めにしたデザインとしている。QRコードタッチ部は、QR券がスマホや紙媒体であってもタッチしやすいデザインとした。2月1日から新宿駅の1通路で実証実験を実施中だ。対象は一般モニターならびに社員モニターとしている。
近畿日本鉄道(近鉄)では、ブロックチェーン技術を活用したQRコードのデジタル乗車券の実証実験を行っている。近鉄日本橋と近鉄八尾では、自動改札の入口、出口付近の切符投入部にQRコードリーダーを設置。企画乗車券をスマートフォンアプリに搭載したQRコード乗車券に対応させる想定で検証を行っている。処理速度は200ミリセカンド(milli second、1,000分の1秒)と、交通系ICカードよりも時間が必要だが、利用者がQRコードをかざす行為に慣れれば、改札で立ち止まることなく通過できるとしている。将来的には、電子地域通貨の「近鉄ハルカスコイン」「近鉄しまかぜコイン」の決済機能との一体化も検討するそうだ。
ウィラーは、2020年2月3日、MaaSアプリ「WILLERS」にQR即時決済機能を追加。すでに、ウィラーが参画する京都丹後鉄道沿線地域MaaS推進協議会が行う、国土交通省による「新モビリティサービス推進事業」に選定されたQRシステム導入の実証実験中だ。QR決済機能は交通手段等で利用可能となり、事前購入することなく利用時に即時決済できるサービスと、アプリで事前購入した乗車券等の情報を利用時に認証できる2つのサービスがある。特に即時決済は国内初のサービスで、アプリの画面上にQRコードを表示させ、 駅や車内に設置されたQRリーダにかざして乗車。降車時もQRコードをかざすことで決済が完了する。事前予約利用は、アプリで事前に検索/予約/決済(初回のみクレジットカードの登録が必要)する。交通機関等利用時にアプリ画面上に事前予約用QRコードを表示させ、QRリーダにかざし、予約情報を認証させる。同サービスは、QUADRACの「交通クラウドサービス」を利用して共同開発した。
交通系ICカードに比べた実用面のメリットは、「ICは前払い方式に対し、QRは後払い方式のため、残高不足などの心配がありません。QRは読取リーダを設置していればどこでも可能で、コストが非常に安いため、地方・郊外でも導入可能」としている。他のコード決済との連携に関しては、「国や地域によって状況や課題は異なりますので、それぞれに適したサービスを検討してまいります」としており、他の決済方法との連携も考えられるそうだ。
なお、関西エリアでは、 阪神電気鉄道も2020年3月~2020年9月まで、関係者を中心にQRコードを用いた乗車券の実験を行う予定だ。
顔認証チケットレス改札を目指す大阪メトロ
顔認証機能を備えた次世代改札の実証実験を行っているのが大阪メトロ(大阪市高速電気軌道)だ。2019年12月10日~2020年9月30日まで、長堀鶴見緑地線ドーム前千代崎駅など4駅で実施。実験の結果を検証して、2024年度に顔認証チケットレス改札の実現を目指す。顔写真の登録に同意した社員が実験に参加し、各駅に設置された異なる改札機を比較検討しているが、メーカーによって認証速度に違いが出てきているという。実験終了までに、随時試作機をバージョンアップし、認証精度や反応速度などを向上させていく。また、改札機本体の顔認証用カメラに加え、改札機の利用状況を俯瞰的に記録するカメラを設置し、改札機を利用した社員の歩行スピードや動きを録画して分析している。
福井銀行と福井新聞が「JURACA」活用の実験
福井銀行と福井新聞社は、おトクな福井県オリジナルサービスが利用できる電子マネー機能を搭載した非接触ICカード「JURACA(ジュラカ)」を利用した鉄道乗降実証実験を2019年11月8日~11月20日まで実施した。福井鉄道の福井城址大名町駅と清明駅に簡易的な改札機を設置。両社では、JURACAは構想時から県民生活に密着したカードにするべく、鉄道やバス乗車に利用できる可能性を検討してきた。今回のシステムはJURACAに加え、さまざまなICカードで鉄道が利用できることを目指すもので、実験結果を踏まえ、キャッシュレス社会に対応する地域の公共交通機関の在り方を検討していくという。決済処理に要する時間(今回は約2 秒)の影響を想定したうえで、既存の交通系ICカード枠組より比較的安価に導入できるJURACAなど非交通系のICカード向け決済システムを採用した。
被験者アンケートからはJURACA などによる鉄道利用の利便性に期待が寄せられたという。交通系IC カードとの比較から乗車券利用時の出場処理時間の長さに対するコメントが一定数出たが、福井鉄道の乗降人員数であれば朝のラッシュ時にも大きな影響が出ない感触をつかめたという。同実験のシステムを担当した東芝インフラシステムズによると、簡易改札機周辺における、タッチする利用者の流動状態については、タッチして通過する流れを大きく妨げるような事象は少なく、前述の決済処理に要する時間の周知や、適正なタッチを促す仕組みの実現により、さらにスムーズな利用者の流れが実現できるとした。
本格導入にあたっては、沿線に無人駅が多い点や局所的に乗降者が増えることがあるため、これらの運用を十分に加味したシステムおよび運用設計の必要性があるとしている。
カード決済&リテールサービスの強化書2020より