2020年8月6日8:30
TISは、2020年7月29日に記者説明会を開催し、さまざまな機能を有する「スーパーアプリ」を提供する事業者と、 外部パートナーのWidget(ミニアプリ)とのスムーズなビジネスコラボレーションを実現可能なPAYCIERGE(ペイシェルジュ)の「Widget配信プラットフォームサービス」を2020年9月より提供すると発表した。同社では、2025年に数十億円規模の売上に育てていく方針だ。
中国発のスーパーアプリに日本でも注目が集まる
「スーパーアプリ」は、公共料⾦・店舗・旅⾏・配⾞・⾦融など、日常生活のさまざまな場面で活用できる総合的なアプリとなる。一貫したユーザー体験のもとにサービスが統合されている。例えば、国内では、LINE、PayPay、d払い、au PAYなどが代表的なスーパーアプリとなる。
「Widget」は、スーパーアプリ(統合型アプリ)上で提供されるWebView技術を使った軽量アプリケーションのことを指し、ミニアプリとも呼ばれている。スーパーアプリのIDに紐づけることで、ダウンロード不要、ログイン不要、決済設定不要で利用可能だ。
「Widget事業者」は、Widgetの提供事業者となり、タクシー配車、クーポン、事前オーダー、病院予約、ECなどを集約して提供可能だ。
中国では、ネイティブアプリからWidgetにシフトし、1人あたりのスマホ利用時間が増えている。特に「Alipay」や「WeChat Pay」が有名だ。アフターコロナでデジタル化がスピードを増しており、OMO(Online Merges with Offline)と呼ばれるようにオンラインとオフラインビジネスの連携がさらに進み、デジタル化が急速に進むと予想される。識者からはコロナ禍により2年分の変革が2カ月で起きたという声もある。
日本でもQR決済事業者・通信キャリアを中⼼にWidget搭載がスタート。TISでは、今後も顧客の囲い込みに向けこの流れは継続するとみている。利用シーンに応じ、ユーザーはサービスを使い分けることになり、スーパーアプリごとに商圏の細分化が⾒込まれるそうだ。すでに、スーパーアプリ事業者としての顧客獲得競争はスタートしており、現状ユーザーは各アプリを使い分けている。そうした中、より優れた顧客体験、UXを提供することが選ばれるアプリとして重要だ。また、自社に加え、他社サービスも組み合わせることで価値を高め、ユーザーに選ばれるプラットフォームとしての経済圏を確立させることができるとした。
TIS サービス事業統括本部 ペイメントサービスユニットモビリティサービス部シニアプロデューサー 高島玲氏は、スーパーアプリの成功に向けて、パーソナライズの体験と、多くのアプリを早く提供することが大切だと説明した。また、安全性確保に向けたセキュリティ強化も求められる。顧客体験を改善する仕組みとして、フレキシブルな改善も鍵となるだろう。
日本でのスーパーアプリの可能性は?
Widget事業者からみたスーパーアプリの理解として、さまざまなIDを組み合わせて商品を購入するが、オンラインとオフラインをまたがる際、かつマーケティングプロセスごとにバラバラなツールであると、顧客に対して機能提供にとどまり、一貫したサービス提供は難しくなる。自社アプリのサービスは一貫性は保てるものの、ダウンロード、個人情報をはじめユーザーの情報入力、クレジットカード番号など決済情報の登録といったハードルがある。日本でもさまざまなWidgetが登場しているが、複数を使い分けて、さまざまなプラットフォームに参画することが予想される。また、スマホアプリ事業者ごとに仕様が異なり、Widgetをそれぞれ構築する必要があると想定される。
Widget事業者がメディアとしてスーパーアプリを利用するにあたり、日本で存在する課題をWidget配信プラットフォームは解決できるという。Widgetは、アプリのダウンロードが不要、アカウント登録が基本的に不要、決済登録が不要、といったメリットがあるため、購買⾏動に基づくマーケティング・ロイヤリティ化に専念できる。また、集客力が高いため、サービス間の移動がシームレスに可能だ。
今後の可能性として、高島氏は「プラットフォームの提供事業者50~70事業者が参画する」と予想している。また、仮に総ユーザーの3割と想定すると、4億5,000~6億の会員を捉えられる。さらに、民間に加え、住⺠IDを中核として各種自治体サービスをミニプログム化する取り組みを進める福島県会津若松市のように、自治体向けの提案も見据えている。
TISでは3段階でサービスを拡張予定
Widget配信プラットフォームのサービスの特徴については、同部 主査 岩崎貴司氏が紹介した。同プラットフォームは、スーパーアプリと多種多様なWidget事業者とのビジネスコラボレーションを実現し、モバイルを通じた新たな顧客体験を与え、スーパーアプリ事業者経済圏の価値を向上させるプラットフォームだとした。コスト、スピードに加え、その他にもメリットがあるという。
サービスの展開に向け、ステップ1として、Widget管理・配信基盤を提供するITサービス事業向けにサービスを開始。その後は、ステップ2として、Widget事業者向けにCRM実現データ(PFをまたがる匿名ID)、OMO機能群を提供するCRMサービス事業につなげる。さらに、ステップ3として、Widget事業者向けの広告、流通量が拡大した後には、第3社の広告代理店などにWidget表示エリアの広告枠を提供するアドサービス事業に広げていきたいとした。
スーパーアプリ事業者はSDKを取り込むだけで開発可能
ステップ1のスキームとして、エンドユーザーとスーパーアプリ事業者間では、スーパーアプリからアプリの提供を受けたエンドユーザーの利用料が発生する場合は料金を徴収する。スーパーアプリ事業者とWidgetの間では、SDKの提供やWidget審査・代行業務を行う代わりに、初期導入費用・Widget配信プラットフォーム利用料を徴収する。Widget配信プラットフォームとWidget事業者の間では、スーパーアプリの接続を提供し、Widget事業者は情報を公開する。スーパーアプリ事業者とウィジェット事業者の間では、Widgetで利用されたアプリの利用料、送客や手数料が発生する場合がある。
TISの役割として、Widgetの審査、問い合わせ対応をすべて代行可能だ。Widget事業者の企業情報の確認、およびWidget自体の審査をサービスとして提供する。2番目のメリットとして、スーパーアプリ事業者はSDKを取り込むだけで開発が可能であり、利用するWidgetを検索し、一覧表示して利用するWidgetを選択するそうだ。
ステップ2以降では、WidgetによってはスーパーアプリからのUX改善に向けた手段も準備する予定だ。例えば、SDKからWidgetを起動する際、アプリを起動した後に地図上から店舗を探して詳細を表示するが、各Widgetに地図機能があったときにSDKで各店舗の情報を一覧で取り出し、ピン立てで表示するといった導線を検討している。
Widget事業者はスーパーアプリ事業者を意識せず作り込みが可能
さらに、ステップ3では、開発コストを最小限にし、スピーディーなアップデートを可能にする。TISの提供する「Widget配信プラットフォームゲートウェイ」により、Widget事業者はスーパーアプリ事業者を意識せずにWidgetの作りこみが可能だ。例えば、複数のスーパーアプリ事業者が提供する決済手段の差分をWidget配信プラットフォームが中間で取り込むことにより、Widget開発者は共通化された処理を呼び出すだけで全てのプラットフォームに合わせた処理ができる。また、Widgetの開発会社は、Widget単位に、Widgetの停止やスーパーアプリの停止を伴わず、またスーパーアプリのストア更新も不要で、任意のタイミングでアップデート可能だという。さらに、Widget事業者向けのメリットとして、SDKの各機能を用いることで、スーパーアプリからWidgetを起動する際に、IDとパスワードの入力が必要だが、自動でログイン状態にすることもできるという。Widgetでは、スーパーアプリに登録されている決済情報を利用して決済を行うこともできる。
導入期間や提供価格、目標は?
なお、Widget配信プラットフォームのシステムは、TISが管理しているAWS(Amazon Web Service)基盤上に実装している。スーパーアプリ事業者にはSDKを組み込んでもらい、Widget事業者はWidget配信基盤とのみ接続する。Widget事業者から納品してもらうJavascript、html、画像データのみを配信してもらう。スーパーアプリのWidget配信プラットフォーム接続の開発期間は3カ月程となる。また、Widgetを開発する会社のWidget化の開発期間も3カ月を想定している。提供価格は、スーパーアプリ事業者向けの導入サービスが個別見積、運用サービスとして10Widgetまで 20万円(Widget/月)、11Widget以降10万円(Widget/月)となるそうだ。
TISでは、「Widget配信プラットフォームサービス」を、通信キャリア・鉄道事業者・銀行・自治体などのスーパーアプリ事業者と、飲食予約・モバイルオーダー・医療予約などの生活サービスを提供するWidget事業者向けに提案し、2025年までにスーパーアプリ事業者20社、Widget事業者200社の獲得を目指す。