2020年8月20日8:00
アクセンチュアは、2020年8月5日、2020年に企業が押さえるべきテクノロジートレンドの最新レポート「Technology Vision 2020」に関する記者説明会をオンラインで開催した。当日は、アクセンチュア テクノロジー コンサルティング本部 インテリジェントソフトウェアエンジニアリングサービス グループ日本統括 マネジング・ディレクター 山根 圭輔氏が、企業や組織のテクノロジーCEOが取り組む5つのトレンドを中心に紹介した。
「テクノロジ企業」へ変革をCEOが牽引へ
現在、生活者にとって、テクノロジーが生活に欠かせなくなっている一方で、企業は企業の視点での囲い込みを行い、テクノロジーが既存業務の効率化になってしまっているという。そのため、顧客中心のテクノロジを作り上げていくことが急務になっているとした。あらゆる企業は、デジタルを利用する企業ではなく、「テクノロジ企業」へ変革する必要があり、それをCEO(テクノロジーCEO)がけん引していく必要があるとした。
アクセンチュアの「Technology Vision 2020」では、「体験の中の『私』」「AIと私」「スマート・シングスのジレンマ」「解き放たれるロボット」「イノベーションのDNA」という5つのトレンドにまとめている。
パーソナライズの提供から共創へ
「体験の中の『私』」は、1人1人に合わせて選択肢を提供することだ。昨今、ライブエクスペリエンスのニーズが高まっているが、一方で、生活者としてパーソナライズされた広告が倫理的であるかという問いに関しては懐疑的な結果が出ているという。重要なのは、提供から共創として、顧客が能動的に参加でき、企業とともにサービスを作り上げていくテクノロジーに持っていくことだとした。そうした取り組みとして、Netflixでは、視聴者に主人公の行動を選択させることで、ストーリーを複数分岐し、選択肢に応じたエンディングを提供するマルチエンディングドラマを制作した。
また、マクドナルドでは、顧客体験を作り上げるために、従業員を巻き込んで、気温、時間帯、注文履歴などによるパーソナライゼーションに加え、現場状況を踏まえて、従業員がメニューを切り替えることが可能な仕組みを構築した。さらに、デジタル前提のライブ体験が加速。日本のアーティストでもサザンオールスターズや山下達郎さんがオンラインを前提した新しい体験を提供している。
新型コロナウィルスにより、短期的には生活者変化をとらえたパーソナライゼーションの最高が求められるが、長期的に考えると企業と生活者が協働でサービスを作り上げる体験が重要になるとした。
人間とマシンの相互理解が必要
2つ目のトレンドは、「AIと私」だ。これは前回のTechnology Visionでも同様の話があったが、79%の企業幹部は人間とマシンの共同が不可欠と確信しているが、一方で、仕組みを準備している企業は23%にとどまっている。
例えば、BOSCHでは、AIの意思決定を人間の監視下に置き、説明可能性を担保する方針を明示している。Google(BERT)でも、文脈を理解可能な自然言語処理技術をオープンソース化するなど、人間とAIの相互理解が進んできた。事例として、VOLKSWAGENとAUTODESKでは、AIと人間のコラボレーションにより革新的なデザインを創出。人間が設計要件を設定し、AIが要件を制約条件としてアイデアを創出した。従来は1.5年の期間を要していたが、アイデアを人間が改良し、より軽量で優しいホイールを数カ月で開発・製造した。また、Accenture Japanでは、全社員を対象にAutomationスキル習得の機会を提供している。業務効率化に加え、1人1人の意識改革、データ収集・分析を経て、ロボットと各社員の関係性を再考する取り組みを行っている。
新型コロナウィルスは、短期的にはチェンジメーカーとなっており、AIの受け入れを加速させているが、長期的には如何に人間中心のデザインを構築できるかがAI浸透のカギとなるとみている。
スマートプロダクトは永久にβ版
3つめは、「スマート・シングスのジレンマ」だ。例えば、AppleではOSアップデートでリリース済みの製品のパフォーマンスが低下したことがあった。Googleでも、スマートホームデバイスの管理アプリを廃止し、別アプリへの統合を実施したが、アプリの統廃合にユーザーが反発するといったことが起きたという。スマート・シングスは永遠にβ版であり、ユーザーの期待に応え続けることは、ビジネスの足かせになりうることもある。
そんな中、iRobot社では、成長するロボット掃除機をサブスクリプション化した。自宅のマッピングデータがクラウドで共有され、最新機種に移行しても掃除の品質を担保しているという。また、SimCamでは、自律型AIが画像を処理するホームセキュリティカメラを販売している。また、MELLODDYのブロックチェーンに基づく新しい創薬研究コンソーシアムでは、十分な量の情報交換と競合他社への知的財産の漏洩に対処している。
山根氏は、スマートシングスは新型コロナと闘うためのツールになりつつあるが、β版の足かせは将来的により強くなるため、スムーズな機能導入の検討が必要だとした。
エコシステム形成がロボットを解き放つカギに
4つめは、「解き放たれるロボット」だ。現在、ロボットは、さまざまな場所で活用されている。たとえば、ザンビア共和国では、ドローンが血液検体を空輸している。また、京セラコミュニケーションシステム、千葉県船橋西図書館では、ドローンが書架点検作業を代行している。さらに、東京大学などの研究グループは、DNA折り紙を応用し、人工細胞としての微小カプセル開発に成功した。そのほか、中部電力、ソフトバンク、Boston Dynamicsの設備保全業務へのロボット導入の実証実験、日本郵便、Drone Future Aviationの配送ロボットによる社内便配送の実験、ぐっとタイムリビング、Aeolusの介護ロボットの国内実証実験などでも活用されている。
ロボットをより効率化していくためには、エコシステムの形成が重要だ。例えば、トヨタ自動車の「Woven City」では、あらゆるモノやサービスをつなぐ「コネクティッド・シティ」を設置する構想で、その中で実証実験を行いやすいようにしている。日本航空ビルディング(羽田空港)のHaneda Robotics Labでは、企業、官公庁、ロボットSIer等のロボット関連プレイヤーが共同の実証実験を実施する。
ロボットは、継続的なテストと更新の実施が必要であり、信頼の構築が重要だとした。短期的には、各業務プロセスにおける人間とロボットの最適な在り方を描くことが重要だが、長期的には個社に閉じず、業界や国をまたぐデータ共有の仕組みを構築することが求められる。
テクノロジーを企業の核に融合させて考える思考を持つCEOが重要
5つめは、「イノベーションのDNA」だ。ポストデジタルの時代は、テクノロジーを使いこなすだけでは不十分であるとアクセンチュアでは考えている。サイエンスとテクノロジーを企業のDNAに組み込み、不可欠なものにしていく必要がある。そのためには、「自社のデジタルテクノロジーの成果を展開・偏在化する」「サイエンスの進歩を取り込み業界に破壊的インパクトを与える」「DARQにいち早くリーチし将来の基盤を創造する」3つを挙げた。なお、DARQは、分散型台帳技術(DLT)、人工知能(AI)、各超現実(XR)、量子コンピューティング(Quantum Computing)の4つの技術を指している。
例えば、自社のデジタルテクノロジーの成果を展開・偏在化する事例として、スターバックスを挙げた。同社では、自社が持つモバイルアプリと、ロイヤルティプログラム技術をライセンス化している。同技術を仮想レストラン技術を持つBrightloomに供与し、“ゴースト・レストラン2.0”モデルのプラットフォーム化を目指しているという。また、サイエンスの進歩を取り込んだ、産学官のナノセルロースヴィークル・プロジェクトでは、新開発のセールロースナノファイバー(植物由来の構造材)において、鋼鉄の5倍の強度と5分の1の軽量化、環境負荷低減を実現。環境省、京都大学、デンソーなどが連携して、自動車の構造材へ応用することを目指している。DARQテクノロジーを基盤に組み込んだ事例として、ウォルマート・カナダでは、産業用ブロックチェーンソリューションが前面に稼働している。ブロックチェーンベースの輸送・支払いネットワークを立ち上げ、サプライチェーンの物流データをリアルタイムで統合し、同期・管理することが可能となっている。また、運輸業者に対する支払いと照会を、400を超える店舗で自動化するビジネス効果を実現させている。
サイエンスとテクノロジーを企業に組み込むためには、テクノロジーCEOの役割が重要となる。パンデミックは短期的にはエコシステム全体へのイノベーションのストレステストであるが、長期的に、企業は世界とともに変わらなければ常に後れを取ることを意味しているとした。
山根氏はまとめとして、テクノロジー企業は「ビジネスの核にテクノロジーが融合している企業」、そのためにはテクノローCEOが「ビジネスとテクノロジーを企業の核に融合させて考えられる、『テクノロジー思考』を持つ」必要があるとした。