2022年8月5日9:00
世界580カ所で導入、入出場も高速処理で利用者体験向上
三井住友カードは、2022年8月2日に全国の交通機関向けに「stera transitシンポジウム 2022 summer」を開催した。当日は、同社に加え、国際ブランドのビザ・ワールドワイド・ジャパン(Visa)、タッチ決済の運賃収受システム提供のQUADRAC、モビリティサービス推進の国土交通省、交通機関からみちのりホールディングスと南海電気鉄道が登壇した。2回に分けて同シンポジウムの講演などの模様を紹介するが、今回は交通事業者にタッチ決済の導入を推進する三井住友カード、Visa、QUADRACの取り組みを取り上げる。
20道府県、30プロジェクトに拡大
既存の交通ICと共存して成長へ
国内における交通機関のタッチ決済は、2020年7月のみちのりホールディングスで導入以来導入が広がっており、20道府県、30プロジェクトまで拡大している。現在も導入検討の声が広がっていることから説明会を開催したそうだ。
国内のキャッシュレスは5年間で1.5倍の成長となっている。そのうち、クレジットカードは約9割近くを占めている。これからインバウンドの旅行消費が拡大するとさらに利用が広がるという。Visaによると、世界全体の約7割がタッチ決済となっており、多くの国でカード決済と言えばタッチ決済になっている。国内でもVisaブランドで7,000万枚のカードが発行されている。さらに、タッチ決済が使える店舗も拡大しており、近い将来、カード決済=タッチという状態になるとした。
タッチ決済による交通乗車(トランジット)は、利用者の日常使いのクレジットカードで鉄道やバスに乗れるものだ。世界的にみるとロンドン五輪で地下鉄の利用が始まり、現在は世界の580を超える都市で使われている。また、コロナ禍で拡大のスピードが上がっているそうだ。世界の主要都市の地下鉄で使用できるが、日本では現状、導入されていない。三井住友カード 代表取締役社長 兼 最高執行役員 大西幸彦氏は「今後インバウンドが再開した際にはそれぞれの国でトランジットを使っていますので使えて当たり前の意識で来日します」と話す。
トランジットの強みはオープンな仕組みである点だ。これは、交通事業者が独自の手段を発行・用意するのではなく、日常使いのカードがそのまま使用できる。日本ではSuicaといった全国相互利用が可能な交通系ICカードが普及している。決済処理スピードが優れているのが特徴だが、「交通利用のすべてをカバーするのは難しい。交通以外の利用は限定的です。既存のICと共存するのが有効」と大西氏は話す。
また、決済データを駆使することで、交通とその他の消費を連携した施策が可能であり、横断的なマーケティングを展開することができる。現在、国内の各地域でMaaS事業が進められているが、「国の内外で幅広くクレジットカードは使われますので、MaaSにもマッチしています」と大西氏は述べる。今回の説明会には100以上の事業者が参加し、関心も高まっているため、「今年がトランジットの元年になると期待しています。社会インフラの1つを作っていきたいです」と大西氏は意気込みを語った。
3つの基本スキーム、MasSモデルを用意
上限運賃モデルや買い物・観光と連携
続いて、具体的な取り組みについて、アクワイアリング本部 Transit事業推進部長 石塚雅敏氏が説明した。トランジットのスキームは、3つの基本スキームと1つのMaaSモデルを用意している。単価が高い路線に用いられるKFT(Known Fare Transaction)は、タッチが1回の固定運賃で1回ごとにカード会社に承認要求を行う。MTT(Mobility&Transport Transaction)は、対キロ運賃の鉄道・バス向けで、入と出のそれぞれでタッチする。タッチしたタイミングでクラウドとリアルタイム通信を行い有効性確認を行う。認証時間は250msec-350msecとなり、「交通ICよりもスピードは落ちますが問題なく運用が稼働しています」と石塚氏は話す。MTT 1TAPは、都心部のような乗降スピードが求められる路線バスで利用されており、タッチは1回の固定運賃となる。さらに、MaaSに取り組む事業者の利用を想定した「Pre-Purchase」は、入出場するタイミングで認証媒体として使ってもらうそうだ。タッチ回数は運用次第で、降車時にクラウドとチケット認証を行う。
鉄道の改札機は、運用に応じて、外付けタイプ、交通IC一体型、専用機を用意している。また、バス車載器は小田原機器とレシップの端末がトランジットに対応している。
今後の開発計画として、現在はVisaが先行しているが、2023年3月頃までにMastercard、銀聯、JCB、American Express、Diners Club、Discoverといったブランドにも対応していくという。
また、後払いとクラウドの特徴を生かした上限運賃モデルや買い物と観光との連携強化も挙げた。上限運賃モデルでは、基本回数よりも多く利用した場合、一定金額以上は請求しない運用が可能だ。「1日の上限、エリア、週単位、月単位で使っていただけます。このモデルが完成すると事前の手続きなく、最良の運賃が提供できます」(石塚氏)。同モデルは神姫バスでの実証実験を予定している。また、沿線や地域での買い物や周遊の結果、運賃割引やキャッシュバックすることもできる。交通以外での結果を反映させることにより、人の移動と外での目的の高度をマッチング可能だ。
さらに、利用者の属性と購買データを分析し、地域の観光戦略に活用していきたいとした。同機能は、各地域の事業者などと相談して開発する予定だ。
直近3年で世界中で導入拡大
都市圏で1日数百万人処理する駅でも対応は可能?
当日はイギリス・ロンドンからVisaのVice President and Global Head of Urban MobilityのNick Mackie(ニック・マッキー)氏が来日し、Visaの取り組みを紹介した。同氏は、Visaのヨーロッパ地域でEMV化やモバイル化、鉄道のコンタクトレス化に中心となって取り組んできた(参考記事)。
Visaでは、10年前にオープン化の動きを進め、ロンドンバスへの導入を皮切りに導入が広がった。2017年時点ではマレーシアで導入されていた程度だが、現在は580を超える都市に広がっている。その大半は3年以内にスタートしたものだ。例えば、ロンドンでは、オイスターカードの管理コストと比較した結果、チケット発券の合理化により30%間接費を減らすことができるという。また、鉄道の利用が広がることで、周辺加盟店での売上高が10%伸び、タッチ決済は一般的な決済方法となった。
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