2011年9月15日8:00
第五章 中国EC市場のプレイヤーたち
本章では、中国EC市場を盛り上げ、急成長を支える主要プレイヤーはどんな会社か、どのようにして成功したかを紹介し、成功社からヒントを得る。また、これらの企業を比較分析し、中国EC事業者の発展傾向も紹介する。
1. 中国EC市場の主要プレイヤー
1) 淘宝網(www.taobao.com)&淘宝商城(www.tmall.com)
第3章参照。
2) 京東商城(www.360buy.com)
京東商城は中国最大の自社型BtoCサイトである。2004年設立当初は3C商品(3C: Computer、Communication、Consumer Electronic)専門のECサイトだったが、認知度の向上と3C商品粗利率の低下により、書籍、アパレル、子供用品、食品など、11のカテゴリーに範囲を広げてきた。
2010年時点、2,000万人以上の会員を有し、1,200社以上のサプライヤーから70万点以上の商品を販売し、1日平均オーダー受付件数が15万件を上回り、2010年の売上高が102億元となっている。
京東商城の強みは何と言っても資金力である。2007年~2008年、国内外の投資家から、3,100万ドルの融資を受けていた。豊富な資金を利用して、2009年より、京東商城は中国EC業界随一の自社物流網を築き上げてきたことが、シェア拡大に成功した直接要因とみられる。
現在、京東商城は華北、華東、華南、華中、西南5つの地域をカバーする1級倉庫と、杭州、武漢、西安、瀋陽の4都市に2級倉庫と、70以上の都市で配送センターを配置しており、中国EC市場発展の最大のネックである全国物流網整備の遅れを解消したことによって、自社型BtoCのライバル各社に差をつけてきた。
また、2011年4月に、中国インターネット業界全体を震撼させたビッグニュースが伝えられた。京東商城がロシアDST、タイガーファンド等の国内外6社の投資家より、前代未聞の15億ドルの融資に成功したと発表された。
発表によると、今回の中国インターネット業界史上最大規模の融資の使途は、自社物流網の整備と技術開発である。特に約70%の融資金は物流網の整備に使用すると、中国EC業界で不動の地位を確立しようと野心を露わにしている。物流網のほか、24時間稼働のコールセンター、ハンディーターミナルの拡充、返品受取サービス等、カスタマーサービスでも業界一を目指し、盛んに投資していく予定となっている。
巨額の融資で、自社物流網の発達と堅実な顧客サービス体制を構築することによって、今後数年間にわたって、200%以上の高い成長が維持可能とされ、2011年の売上高が240億元~260億元に上ると予測されている。
3) 卓越AMAZON(www.amazon.cn)
卓越AMAZONの前身は2000年に、ソフト大手の金山ソフトとパソコン最大手のレノボが共同出資で設立した卓越網であった。2003年9月に、タイガーファンドが資本参加し、第3位の株主となった。2004年、世界BtoC最大手のAMAZON(アメリカ)が卓越網を買収し、100%子会社にした。
卓越網はCD・DVD、書籍、ソフトウェア、ゲームなどのトレンド商品を中心に、EC販売を展開するサイトであった。「商品厳選、全品在庫、快速配達」をキャッチコピーに、若者から絶大な人気を誇り、520万人の会員を集め、PV数、売上高ともに中国一のBtoCサイトとなった。
AMAZONに買収された後、いち早くアリババグループ傘下の国内シェア50%を占める中国最大第3者決済機関の支付宝と提携し、当時EC業界最大課題の1つであるオンライン決済の不便さを解消した。また、AMAZONの全世界に分布するサプライヤーを活用し、デジタル家電、生活用品、アパレル、化粧品などのカテゴリーに拡大し、現在20カテゴリー、100万点の商品を販売している。
2010年、卓越AMAZONの売上高は推定30億元と、自社型BtoCの2位をキープしているが、首位の京東商城(102億元)に大差をつけられている。その理由はやはり物流面にあるとされている。2011年4月、北京近郊に4万平米の新しいセンター倉庫が竣工するなど、物流面にも力を入れ、巻き返しを図ろうとしている。
4) 当当網(www.dangdang.com)
当当網は1999年中国の出版会社と国内外の投資ファンドが共同出資で設立したBtoCサイト運営会社である。
2008年までは、オンライン書籍販売をメインに展開していたが、2008年に大幅なリニューアルを行い、総合BtoCサイトへ変身した。現在世界最大の中国語書籍・音楽・映像販売サイトとして、中国EC業界での地位を確立している。会員数は4,000万人を超え、100万点以上(そのうち、書籍類は約60万点)の商品を販売している。2010年の売上高は22.6億元と、中国BtoCサイトの4位につけている。
ファイナンス面では、3ラウンドの融資を経て、2010年12月8日に、アメリカニューヨーク証券取引所での上場を果たし、中国初のアメリカ上場BtoC企業として注目を集めているが、強みとするオンライン書籍販売に関しては、京東商城、卓越AMAZON等の強力なライバルも力を入れており、2010年から、値下げ合戦がしばしば繰り返されている。
5) 紅孩子(www.redbaby.com.cn)
2004年に設立した紅孩子は、BtoCネット販売とカタログ通販を同時に展開し、ベビー用品、子供用品、マタニティー用品、生活雑貨、食品、化粧品、健康グッズ、生活家電等、子供・女性向け商品に特化した通販会社として、中国大手BtoC業者では異色な存在となっている。
現在、300万以上の会員が利用し、5万点以上の商品が販売されている。2010年のカタログ通販とBtoC販売の合計売上高は15億元と推定される。
紅孩子は全国各地域に11の子会社を持ち、地域別のECサイトを設け、地域ごとの運営を展開している。カタログ通販に関しては、発行部数が全国で500万部と、こちらも業界最大級となっている。また、物流は主要都市では自社物流を展開し、主要都市以外の地域では第3者物流業者に委託している。中国最大のベビー・マタニティー用品EC業者として、業界最大のコールセンターを設置するなど、アフターサービスの良さに定評がある。
6) 新蛋(www.newegg.com.cn)
2001年に設立された、本社がカリフォルニア州にあるアメリカのECサイトnewegg.comが運営する中国語BtoCサイトである。PC、モバイル、音楽プレイヤー、デジタル家電などのIT系商品を中心に販売している。化粧品、アパレル、生活用品、カー用品等も扱っているが、比重が低い。
中国展開の拠点を上海に置き、西安にグローバルテクニカルサポートセンター、台北にグローバル商品管理センター、成都にユーザーサポートセンターを設置し、中国圏での品質とサービスを強化している。
物流面では、自社物流システムを構築し、全国をカバーできる7地域の中心都市に配送センターを設置し、2010年、中国国内での売上高は推定18億元となっている。
7) 凡客誠品(www.vancl.com)
卓越網の創設メンバー陳年氏が2007年に創設したアパレル・小物販売の専門サイトである。大手BtoCサイトの中、設立が遅いほうではあるが、すさまじい勢いで伸びている。
凡客誠品成功の理由は、ファッション性の高い商品を安く提供できることはもちろん、アフィリエイト広告を利用したインターネットプロモーション手法が集客効率を上げたことが最大の理由として挙げられている。
まだ業界では、アフィリエイト広告に対する認知が低かった設立当初から、積極的にアフィリエイト広告を実施し、2009年2億元のコストで、19億元の広告価値のプロモーションが投下できたことが、業界人に「凡客の奇跡」と呼ばれている。それを皮切りに、アフィリエイト広告は、中国EC市場で一気に広がった。
販売するアパレル商品はすべて自社ブランドで、商品が豊富で価格が安いことから、中国のH&Mとも呼ばれている。また、2011年より、リアル展開も始まっている。
※本記事は「中国ビジネスレポート~中国EC市場で成功するための実践的マーケティング手法と成功事例」に掲載された内容の一部(5章-1)をご紹介したものです。