2013年8月27日8:00
小売業に革新をもたらす!! 顧客起点のオムニチャネル戦略
総 論:チャネルそれぞれの特性を生かした顧客目線でのタッチポイントの設計が求められる
生活者がリアルとデジタルの壁を越えた購買行動を取るようになった今、小売業にとってオムニチャネル化は必須の取り組みとなりつつある。その最終的な目標は、顧客がチャネルを意識せずに自社で商品を購入する環境を、いかに実現するかにあるだろう。
マルチチャネル戦略の“進化版”として登場
近年、小売業のチャネル戦略として、“オムニチャネル”に注目が集まりつつある。
“オムニ(Omni)”は「すべての」を意味する英語の接頭辞であり、“チャネル(channel)”は言うまでもなく「経路」を表す。つまり、オムニチャネルとは「すべての経路」を示すもので、小売業のオムニチャネル戦略は、「オフライン(店頭など)か、オンラインかを問わず、すべてのチャネルで顧客とコミュニケーションを図ろう」とする戦略と考えてよいだろう。
それではなぜ近年、オムニチャネル戦略に注目が集まっているのか。その背景としてまず考えられるのが、インターネットの普及により生活者の購買行動に大きな変革が起こったことだ。
インターネット普及以前の生活者の購買行動は、いわゆる“AIDMAモデル”で説明されるものだった。そしてその中で、特に前半の「Attention(注意)」「Interest(関心)」「Desire(欲求)」は、例えばテレビCMや店頭POPなど、企業側からの働き掛けによって喚起されるものとされてきた。
しかし、インターネット普及以降、生活者はさまざまな情報を収集して、自分のニーズに合致する商品を探索し、さらに目当ての商品を納得できるチャネルで購入することを志向するようになった。
そうした流れの中で、小売業は販売チャネルの拡充を求められるようになり、例えば店舗小売業がEコマースを開始したり、反対に通信販売会社が店舗販売に進出したりといった、いわゆる“マルチチャネル”戦略が展開されてきたのだが、当初、それらはそれぞれ独立したチャネルとして存在し、相互の連携は不十分という場合が多かった。従って、新しい販売チャネルを設けても、必ずしも顧客のストア・ロイヤルティを深める方向には働かず、チャネル間競争に陥るようなケースもあった。
そこで新たな概念として登場したのがオムニチャネル戦略である。今回の特集でインタビューにご協力いただいた(株)博報堂 博報堂買物研究所の所長である青木雅人氏が「顧客接点を、お客さま目線でどう統合していくかを考えるのが、オムニチャネルです」と指摘するように、オムニチャネル戦略においてはあらゆるチャネルがお客さまとのタッチポイントとして位置付けられており、それらをシームレスに連携させてお客さまと継続的なコミュニケーションを行うことで、ロイヤルティの向上を図ることを目指している。つまり、オムニチャネル戦略はマルチチャネル戦略のいわば“進化版”であり、そのポテンシャルを最大限に生かすための取り組みといってもよいだろう。
また、マルチチャネルという言葉が主に通信販売の世界で使われていたのに対して、オムニチャネルは店舗販売の世界で誕生したと言われている。
今回の特集では、オムニチャネル戦略に積極的に取り組む企業のケーススタディを中心に、そのあり方や成功のためのポイントを探った。