2018年7月19日5:05
次なるステージに向けて大改革を断行。まず、物流から――。
「楽天EXPO 2018」で三木谷社長、矢澤ヴァイスプレジデントが発表
楽天は7月17日、東京都港区のグランドプリンスホテル新高輪にて、楽天市場の出店店舗と事業戦略などを共有する「楽天EXPO 2018」を開催。その中で行われた、代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏の講演と、執行役員でマーケットプレイス事業ヴァイスプレジデントの矢澤俊介氏による戦略共有会を、メディアにも公開した。三木谷氏は包括的な物流サービスを提供する「ワンデリバリー」構想と、いずれの店舗でも一律の決済方法を提供する「ワンペイメント」構想の実現に向けた本格的な取り組みを加速すると宣言。矢澤氏は、売上拡大の効果を上げた「楽天ペイ」導入事例などについて報告した。
個性が際立つオンリーワンの店舗の魅力を大切にしつつも
デリバリー、ペイメントのサービスは均一に
いまやECは現代の日常生活に必要不可欠な社会的インフラとなった。しかし一方で、物流量の増大に伴い、不在再配達の増加や人手不足などが社会問題化している。またEC店舗においては、昨年からの宅配総量規制や宅配運賃値上がりの影響から、安定した店舗運営やユーザーへの質の高い配送サービスの提供が困難になっている。この根本的な要因を、楽天 代表取締役会長兼社長の三木谷氏は「CtoCを前提に構築された宅配便の仕組みにBtoCを乗せたことで無理が生じている」と分析する。
この課題を解決するために楽天が打ち立てたのが、「ワンデリバリー」構想。楽天が店舗の商品を預かり、リアルタイムで注文を受け付け、自動的にピッキング、独自の配送網でユーザーに商品を届ける。商品の注文から配送までの一気通貫の仕組みを整備することで、スピードと柔軟性を向上、ユーザーの満足度アップを図る。
これを実現する「楽天スーパーロジスティクス」の構築に向けて、楽天では、物流拠点の拡充を急ぐ。すでに稼働している千葉県市川市、神奈川県相模原市、兵庫県川西市のセンターに加え、千葉県流山市、大阪府枚方市に物流センターを建設中。近い将来には全国各地の物流センターのネットワークを作り上げたい考えだ。
これと並行して進めているのが、「ワンペイメント」構想。これまで店舗ごとにバラバラだった決済方法を統一して、ユーザーの利便性を向上しようというものだ。その要となるのが、「楽天ペイ」。各種クレジットカードや電子マネー、楽天ポイントに対応する「楽天ペイ」の全店導入を、2018年中に完了する計画だ。
三木谷氏は、「取扱商品・サービスは多種多様であったほうがいいが、決済や配送の仕組みは統一されていたほうがいい。決済手段が一律になれば、楽天市場におけるユーザーの支払い体験の質が向上するのはもちろん、店舗にとっては入金サイクルが規則化でき、われわれ楽天にとっては決済サービスが一元管理できるといったメリットがあります」と語った。
希望する決済手段が選べないと、約6割が離脱する
決済手段の多様化は、EC成功の必須の要素
楽天 執行役員 マーケットプレイス事業ヴァイスプレジデントの矢澤氏は、EC成長に貢献する要素として、「商品」「販売」「決済」「配送」の4つを挙げた。
このうち「販売(接客)」については、チャットの導入がひとつの鍵を握る。5,000商品を対象にチャットを試験的に導入したところ、転換率が平均して3.3%から17.7%へ14.4ポイントアップした。この結果を踏まえて、全店への導入を進める。ほかにも、AIを活用して個々のユーザーに最適なレコメンドを行う「楽天プロモーションプラットフォーム(RPP)」や、アフィリエイトの強化に力を入れていくという。
「決済」については、多様な決済手段を提供することが重要。その理由として矢澤氏は、買いたいものが決まり“いざ決済”というときに、希望の決済手段が選べない場合、「購入をやめる」「希望の決済手段がある別のサイトで購入する」という“離脱組”が57%に上るというデータを紹介した。
ECで使いたい決済手段のトップはクレジットカードが65%で依然トップだが、銀行振込やコンビニ払いも増えている。後払いのニーズも多い。「楽天ペイ」はカード決済、コンビニ決済、楽天口座決済に加え、今年11月からは後払い決済にも対応する予定になっており、幅広い決済ニーズをカバーする。
2017年11月より「楽天ペイ」を導入した、新潟県長岡市に本社を置くオオミヤスポーツでは、コンビニ支払い、銀行振込などによる前払い決済が増加し、若者層を中心とする新規顧客の獲得にも成功。前払い決済は「楽天ペイ」導入以前の92.2倍になり、店舗全体の売上は1.3倍に。決済業務の負担が軽減するというメリットも生まれているという。
物流、決済、コミュニケーションなど幅広い領域にまたがる大がかりな改革の断行は、出店店舗に対する料金体系の変更をも伴う。リスクをとって、世界へ、Amazonへ、挑戦状を突き付ける楽天――。どのような結果が出るのか、今後の動きから目が離せない。