2020年12月21日8:00
コロナ禍でデジタルシフトが急進展する中、金融機関にも同様の対応が強く求められるようになっている。NTTデータは2020年10月、ポストコロナを睨んだ新しい金融ITを推進するアーキテクチャーとして「Open Service Architecture」を発表。これを具現化する施策として、来春を目途に、金融機関とフィンテック事業者をつなぐ「APIマーケットプレイス」を開設する。また、金融機関とエンドユーザーとのタッチポイントにおいてもデジタル技術を駆使し、UXを向上。12月17日に記者向けセミナーを開催し、それら新しい施策についての説明を行った。
3つの“Open”をコンセプトとする
「Open Service Architecture」を10月に発表
NTTデータは2020年10月、ポストコロナのニューノーマル時代に対応した新しい金融ITオープン戦略として「Open Service Architecture」を発表した。「Open Service Architecture」のコンセプトは、Open API、Open Platform、Open Innovationの3つの「Open」。金融機関やフィンテック事業者など、さまざまなプレイヤーの共創を促進することによって日本の金融ITを発展させることを目的に掲げる。
NTTデータは数多くの金融機関の勘定系システム、基幹系システムを手掛け、同社の金融インフラネットワーク「ANSER」につながっている金融機関は国内の99%に上る。「そのような立場から日本の金融ITの今後に大きな責任を負っているという自覚を持っています」と同社 第二金融事業本部 企画部長 小祝伸介氏は語り、Open Service Architectureはその将来についてのNTTデータとしての見解を示したものだと説明する。
「Open Service Architecture」のフレームワークは6つのエリアから構成されている。①金融サービスにかかわるさまざまなプレイヤーがさまざまなサービスを連携させていく「サービスラインナップエリア」、②高いセキュリティを保ちながらフロントとバックを連携させる仕組みを作り上げていく「コネクションエリア」、③さまざまなプレイヤーがラインナップされることによって収集される多様なデータを保存・保管する「コンピューティングエリア」(NTTデータが提供するクラウド「OpenCanvas」やそれ以外のパブリッククラウドがここに含まれる)、④勘定系、基幹系システムを担う「ブッキングエリア」、⑤金融機関と、金融サービスを利用する個人または法人とのタッチポイントである「ユーザーフロントエリア」、⑥さまざまなデータを分析し、マーケティング、不正検知、与信モデルなどに活用する「データアナリティクスエリア」だ。
NTTが提供するサービスのみならず、他社サービス、金融機関が提供するサービスも取り込んで、このフレームワークは成り立っている。
金融機関とフィンテック企業のWIN-WINの関係を支援
詳細情報を公開し、テスト機能も搭載
「APIマーケットプレイス」はこのうち①の「サービスラインナップエリア」で機動する。優れた技術を持つフィンテック事業者や、自行のシステムを他行でも利用してもらいたいと考えている金融機関、そういった技術やサービスを求めている金融機関はたくさんあるにもかかわらず、その情報が流通していないことが金融ITの発展を阻害していると同社は考える。「APIマーケットプレイス」はフィンテック事業者と金融機関のWIN-WINの関係を作るための仲介役を担うサービスだ。
金融サービスを中心とした多彩なAPIラインナップを提示して、誰もが無料で閲覧できるようにする。カタログ機能により、API提供者名、利用実績などを公開。ダミーではあるが、リクエストを投げてどのようなレスポンスが返ってくるのかを試すこともできる。
さらにインタラクティブなコミュニティ機能、アイディエーション機能なども実装する予定である。掲示板のようなシステムで、API利用者(フィンテック事業者)がAPI提供者(金融機関)に対して新たなAPI開発のリクエストを出したり、逆にAPI提供者がAPI利用者に対して新たなサービス開発のリクエストを出したり。また、API提供者やAPI利用者に限らず、APIやサービスの開発構想を持っている人がそのアイデアを公表したりといったことを同社では想定している。
APIが実際どのように使われているかの、利用状況のレポーティング機能も準備する予定。また、行政や民間企業との連携も視野に入れる。「例えば行政と連携すれば、各種給付金の申請から着金までをAPIで完結できる仕組みを整えることも可能になるでしょう」(第四金融事業本部 e-ビジネス事業部 e-ビジネス統括部長 佐畑大輔氏)
デジタル技術を活用してサービスを拡張
個人向けバンキングアプリ「My Pallet」は2021年1月にリニューアル
「Open Service Architecture」のフレームワークの⑤、金融機関とエンドユーザーのタッチポイントにおいても、デジタル技術の導入によるサービス拡張が進んでいる。そのうち4つについて、佐畑氏が説明した。
地銀を中心にすでに30以上の金融機関で導入されている個人向けバンキングアプリ「My Pallet」は、2021年1月にリニューアルを行う。インターネット上で提供しているすべてのサービスをスマホで完結できることはもちろん、スマホならではの位置情報、メッセージング機能などを組み合わせてサービスを拡充。金融機関の各支店では、振込などの事務作業を極力省力化し、コンサルティング業務に専念したい意向があるため、事務対応をアプリに誘導する一方で、相談の要望がある顧客は来店予約などの機能によって支店に誘導。さらにアプリを開いたスマホを店頭の端末にかざしてもらうことで、顧客情報や要件を瞬時に把握、スムーズな接客につなげる。また、1度きりの本人確認に使われることが多いeKYCデータを、「My Pallet」ではNTTデータのクラウドサービスOpenCanvas上にセキュアに保存することで、2回目以降の本人認証に利活用している。
「リモート営業ツール」はスマホを使い、非対面で接客から契約までを完結できるサービスだ。これに関してもやり取りのビデオデータをセキュアな環境で保存・保管。コンプライアンスの観点から、あるいは研修用素材として、後日見返すことも可能だ。
法人向けサービスとしては、「BizSOL_Square」と「BizHawkEye(ビズホークアイ)」の2つ。「BizSOL_Square」は、営業担当者の手が届かず手薄になりがちな中小規模のお客様をフォローするためのツールで、残高照会など普段使いの機能に加えて電子帳票やクラウド会計などの便利な機能を備えている。重要なのは、どの企業がどのコンテンツのどの部分を見たかを記録・蓄積していることで、営業担当者はこの情報をもとに企業の要望を分析し、適切なアプローチをかけることが可能になる。
「BizHawkEye」は複数の金融機関にまたがる口座を一元管理できるキャッシュマネジメントサービスで、2020年3月に開始した。ここにログインするだけで、口座ごとにいちいちパスワードなどを切り替える必要なく、すべての口座の残高を確認して、適正な資金の集中・配分・調整を行うことができる。現状ではINS回線を使ってパソコンバンキングソフトで管理している企業が多いが、2024年1月でINS回線は廃止され、この方法は使えなくなる。それに対応して提供を始めたもの。今後、融資や社債発行などの機能を追加することも検討していくという。