富山市の飲食店や観光施設で「顔認証決済」を検証 カードやスマホも出さずに、手ぶらで支払いが可能に

2021年3月23日8:00

富山市は、2020年10月~2021年3月末まで、市中心部や観光地である岩瀬地区の飲食店、観光施設30カ所で顔認証決済ができるシステムの社会実験を行っている。顔認証決済の実験で目指す世界について、市の担当者に話を聞いた。

右から富山市役所 観光政策課 副主幹 石黒智一氏、富山市商工労働部 観光政策課 戦略係長 土田香織氏

市内30カ所で利用可能
2秒で瞬時に支払いが可能に

顔認証決済の実証実験は、内閣府地方創生推進交付金を活用している。市内の事業者や利用客に顔認証決済の利便性を体感してもらうとともに、同システムが観光動向に及ぼす影響などを検証する社会実験となる。

顔認証決済では、NECの顔認証技術を用いて、生体認証データを1つの共通IDとして利用した。富山市を訪れる観光客の利便性向上、住民に利便性の高い決済サービスを提供することで、地域社会全体の活性化を目指す。富山市では以前、顔認証を活用した「IoTおもてなしサービス実証」を行う和歌山県白浜町を視察し、顔認証サービスは観光的な価値を高めることも可能であると感じたそうだ。

富山市役所 観光政策課 副主幹 石黒智一氏は「顔認証をお使いいただくことで購買意欲を高め、買い物や観光を楽しんでいただけたら」と話す。市では、顔認証決済から吸い上げられたデータの活用も視野に入れる。

顔認証による店舗での支払いの様子。利用者登録時にクレジットカード情報を登録しており、手ぶらで支払いが可能(決済代行会社「ベリトランス」)

顔認証決済は、市内の飲食店に加え、富山市ガラス美術館、富山市郷土博物館といった文化施設でも利用可能だ。また、市内中心部20カ所に加え、岩瀬地区10カ所でも利用できる。店舗や施設には、顔認証用のiPadを設置した。

利用者は、事前にスマートフォン専用の顔登録サイトに顔のデータやクレジットカード情報(Visa,Mastercard)などの利用者情報を登録する。商品の購入やサービス利用時、店舗に設置された専用のタブレット端末に顔を向けて認証を行い、金額を入力すると、顔情報に紐づくクレジットカード情報で支払いが完了する。財布からクレジットカードを取り出したり、スマートフォンをかざす必要はない。また、現金の受け渡しもなくなるため、新型コロナウィルスの感染リスク抑制にもつながる。

富山市商工労働部 観光政策課 戦略係長 土田香織氏は「使い勝手は、手軽で早く、2秒程で支払いが可能です」と特徴を述べる。現状、新型コロナウィルス感染拡大の影響もあり、国内外の観光客への訴求は難しく、構想段階で抱いていたような状況ではないという。なお、「年代は30~40代がボリュームゾーンで男性の方が多いです」と土田氏は説明する。

顔認証決済の課題として、顔認証時に特徴点を用いて認識しているため、顔写真などでも反応してしまう点だという。そのため、インターネットショッピングにおいて、なりすまし防止の本人確認では不向きとなり、店舗限定の利用となっている。

サイネージ端末で歓迎メッセージを表示
顔認証の汎用性の高まりに期待

市では、富山駅総合案内所横にカメラ付きサイネージ端末「おもてなしサイネージ」を設置。顔情報を登録した人がサイネージに近づくと、画面に歓迎メッセージを表示している。また、同サイネージでサービスを訴求している。実験の説明を受けた人々の反応として、登録時に個人情報利用規約への同意が必要であり、クレジットカード番号の入力が求められるため、登録の障壁があることも事実だ。

富山駅に設置された「おもてなしサイネージ」で歓迎メッセージを表示

同社会実験は2021年3月で終了となるが、市では4月以降も事業を継続させたい考えだ。今後、実際に商用展開された場合、店舗のインフラコストは課題となるが、「色々なところで使われ、汎用性が高まれば、価格は下がるのではないでしょうか」と土田氏は語った。仮に、市民が日常的に利用する店舗での支払いが可能になれば、より魅力は増すとした。

将来的には、市民を対象とした医療系のサービスなどで利用できれば汎用性は高まるとみている。また、地方創生推進交付金では、路面電車での全国共通交通系ICカード導入事業も含まれており、現実的には障壁が高いものの、「顔認証決済ができれば小銭を取り出さなくて済むため、利便性が高まります」と石黒氏は見解を述べた。

※カード決済&リテールサービスの強化書2021より

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