2023年4月11日7:30

資金決済法においては、電子移転可能型前払式支払手段の規定の整備、電子決済手段等取引業に係る制度整備が行われ、併せて銀行業法で電子決済等取引業に係る制度整備も行われた。これらの改正に関連して犯罪収益移転防止法も改正されているので合わせて紹介する。改正法の施行は、2023年6 月1 日の予定。

現代ビジネス法研究所 吉元 利行

1.電子移転可能型前払式支払手段の規定の整備

 前払式支払手段のうち、残高の譲渡や価値の移転が可能となるサーバ型全般を「電子移転可能型」の前払式支払手段と定め、そのうち、「高額電子移転可能型前払式支払手段」について新たな規制を設けた。電子移転可能型前払式支払手段には、「残高譲渡型」と「番号通知型(狭義)(以下「Ⅰ型」という)」および「番号通知型(狭義)に準じるもの(以下「Ⅱ型」という)」の3種類がある。この規制の背景には、サーバ型の前払式手段の中には、コンビニやスーパーなどの店頭で本人確認することなく、簡単に購入することができ、誰でも利用できるものがあるため、番号コードを他人に購入させてだまし取り、それを再販して現金化する、犯罪収益をチャージして残高をアプリを使って他人に送るなど、詐欺での使用や犯罪収益移転防止法の潜脱などの懸念があったからだ。

「残高譲渡型」前払式支払手段とは、利用者の指図に基づき、発行者が電子情報処理組織を用いて一般前払式支払手段記録口座(筆者㊟いわゆる「アカウント」のこと)における未使用残高の減少及び増加の記録をする方法その他の方法により、発行者が管理する仕組みに係る電子情報処理組織を用いて移転をすることができるものをいう。スマホアプリなどを利用してサーバでチャージによる加算と利用による減算を管理する方式が該当する。「番号通知型Ⅰ型」の前払式支払手段とは、電子情報処理組織を用いて第三者に通知することができる番号等であって、当該番号等の通知を受けた発行者が当該通知をした者をその保有者としてその未使用残高をアカウントに記録するものをいう。ID番号等でチャージする電子ギフト券が該当する。これらのうち、1回あたりのチャージの上限額が10万円を超えるもの、もしくは1月当たりの譲渡可能額、チャージの残額が30万円を超えることとなるものを「高額電子移転可能型前払式支払手段」として新たな規制を設けた。また、「番号通知型Ⅱ型」は、30万円を超える残高チャージが可能で、1月の利用可能額が30万円を超える国際ブランドプリペイドカードが「高額電子移転可能型前払式支払手段」に該当する。

「高額電子移転可能型前払式支払手段」を発行する場合、あらかじめ、アカウントに記録される未使用残高の上限額やシステムの管理方法等内閣府令に定める事項を記載した「業務実施計画書」と「当該実施計画に関し参考となる事項を記載した書類」を添付して金融庁長官に提出しなければならない。なお、現在すでに高額電子移転可能型前払式支払手段発行者に該当するときは、施行後2週間以内に届け出をすれば、「業務実施計画」の提出は2年間猶予される。

電子移転可能型前払式支払手段の発行者は、利用者の保護を図り、業務の健全かつ適切な運営を確保するための措置として、「残高譲渡型」にあっては、移転が可能な未使用残高の上限額の設定、移転の状況を監視するための体制の整備その他の不適切な利用を防止するための適切な措置を、「番号通知型」と国際ブランドプリペイドカードについては、アカウントに記録が可能な未使用残高の上限額の設定、不適切な移転を防止するための体制の整備その他の不適切な利用を防止するための適切な措置を講ずる必要がある。したがって、事務ガイドラインに記載されている不適切利用防止措置や今後日本資金決済業協会で策定・改訂されると思われる自主規制規則及び協会ガイドライン、社内規程モデルを参考に、1回当たりのチャージ額、1月当たりのチャージ額とチャージ回数を制限したり、加盟店での利用状況などをモニタリングし、不適切な利用がないかマネロン等の対策を念頭に監視していく必要がある。

なお、複数枚・複数IDを使用することが考えられるため、チャージ可能な未使用残高の上限が低くなったり、電磁的方法による未使用残高の加算(追加チャージ)が不可等の要件から「高額」電子移転可能型前払式支払手段に該当しない場合であっても上記の体制構築が必要であることに特に留意する必要がある。

「高額電子移転可能型前払式支払手段」発行者については、さらに、「特定事業者」としてアカウントの開設時点において犯罪収益移転防止法に定める取引時確認義務、確認記録、取引記録の作成・保存義務、疑わしい取引の届出義務、アカウントの譲渡禁止等が課せられている。

図 電子移転可能額前払式支払手段

2.電子決済手段等取引業に係る制度整備

資金決済法では、「電子決済手段」および「電子決済手段等取引業」についての規律も追加された。これは、いわゆるステーブルコイン㊟1に対するFATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)の2020年の勧告・報告を受けて法律の整備になる。FATF は、ステーブルコインについて、暗号資産(virtual asset)の定義に含まれる旨を明確にし、ステーブルコイン取扱業者を仮想資産サービス業者や送金業者と同様にマネロン規制の対象にすることを求めているからだ。我が国には、暗号資産に対する規制はすでにあるが、これとは全く別に「電子決済手段」として、概略以下の通り、定義している(改正法2 条第5 項各号)。

① 代価弁済のため不特定の者に対して使用でき、不特定の者を相手方として購入、売却できる財産的価値(通貨建てに限る)で、電子情報処理組織で移転できるもの
② 不特定なものに対して①と交換できる財産的価値で電子情報処理組織で移転できるもの
③ 特定信託受益権
④ ①③に掲げるものに類するものとして、金融庁長官が定めるもの

このうち、②は潜脱防止、④の指定は未定なので、電子決済手段は、当面①が通貨建資産型のデジタルマネー類似型のステーブルコイン㊟2、③の信託会社が発行する「特定信託受益権」になる。なお、銀行等又は資金移動業者が発行するデジタルマネー(例えば、㋐銀行等が発行する「預金型」(銀行コイン、地域コイン)㋑資金移動業者が発行する「未達債務型」(地域コイン等のデジタルマネー。特定信託受益権を除く)であって、その発行者が犯収法に基づく取引時確認をした者にのみ移転を可能とする技術的措置が講じられており、かつ、移転の都度発行者の承諾その他の関与が必要となるものは、基本的には「不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる」との要件を満たさないので、電子決済手段に該当しない。また、残高譲渡型前払式支払手段と番号通知型前払式支払手段も電子決済手段に該当しない。

電子決済手段の発行者は、銀行、資金移動業者、特定信託受益権の発行による為替取引を行うことができる信託会社に限られている。発行業者は「特定事業者」として犯罪収益移転防止法に基づく、取引時確認や確認時や取引時の記録保存、疑わしい取引の届け出義務等を負うことになる。

電子決済手段の売買、交換、その媒介、取次、代理、電子決済手段の管理や資金移動業者の委託を受けて、利用者との合意の下で、為替取引に係る債権額の増減を行う行為は、「電子決済手段等取引業」の登録(改正法2条10項)が必要となる。しかし、電子決済手段の発行者である銀行、資金移動業者等は、電子決済手段等取引業者とみなされ、電子決済手段等取引業者の規制に係る規定の一部が準用されることとされている(改正資金決済法 62 条の8)。なお、銀行を代理して、電子決済手段の仲介を営む場合は、「電子決済等取扱業」(銀行法第2条第17項)として登録が必要(同法第2条第18項)だが、電子決済手段等取引業とほぼ同じ規制を受ける。したがって、電子決済手段等取引業者および電子決済等取扱業者は、顧客から依頼を受けて電子決済手段の移転のうち一定のものを行うときは、顧客の本人特定事項等を通知して行わなければならない(犯収法第10条の3)。また、電子決済手段等取引業者は、外国所在電子決済手段等取引業者との間で電子決済手段の移転のうち一定のものを継続的にまたは反復して行うことを内容とする契約を締結するに際しては、当該外国所在電子決済手段等取引業者が取引時確認等に相当する措置を的確に行うために必要な体制を整備していること等を確認しなければならない(犯収法第10条の2) 。

また、銀行、資金移動業者に対しては、国際送金時に、送金依頼者、送金受領者等に係る情報を通知する義務が課せられているが(FATF 勧告 16 のトラベルルールに基づく措置) 電子決済手段及びみなし電子決済手段等取引業者に同様の義務が課せられている(改正犯収法 11 条の2)。

その他登録に当たっては、取り扱うステーブルコインの内容やシステムの安全性・強靭性に加え、セキュリティ体制や償還などの体制整備などが求められている(事務ガイドライン1-1-2-3)。

㊟1「仮想資産(virtual asset)の一種で あって、一定の資産(通貨/金)に価値が連動するもの」と定義されたり、「法定通貨に対して安定した価値を維持するように設計され、決済手段として広く使用される可能性があるもの」などと定義されたりする。
㊟2 円やドル建てなど通貨建てのステーブルコインに限る。ブロックチェーン技術を用いないトークンも含む。なお、暗号資産やアルゴリズムに依拠したものは対象外で、暗号資産として扱われる。

3.賃金のデジタル払い

労働基準法施行規則が改正され、労働者向けの給与支払方法が労働基準法第24 条で通貨払いとなっているのを、例外として労働者の同意を得た場合には銀行口座と証券総合口座への振り込みに加え、資金移動業者に開設したアカウントへの資金移動(賃金のデジタル払い)が認められた。これにより、2023年4月から、一定の要件を満たす厚生労働大臣の指定を受けた「指定資金移動業者」に限り、賃金のデジタル払いが認められる。しかし、労働者の所属会社で給与をデジタル払いからも選択できる旨の労使協定を締結すること、従業員が資金移動業者の口座への支払いを希望する場合、同意書を取ることが必要である。

※レポート「ペイメント&カードビジネス年鑑2023-2024」では、上記の電子移転可能型前払式支払手段の規定の整備に加え、景品表示法解約規定の明確化、消費者契約法の改正について解説してもらっている。

「決済・金融・流通サービスの強化書2023」より

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