2011年12月27日8:00
NFCのインフラ構築から製品、サービス開発まで取り組む
スマートフォンと連携したソリューションをグローバルに展開
国内最大手の印刷会社である大日本印刷(DNP)では、ICカードの発行やおサイフケータイのパーソナライゼーションなどで培ったノウハウを活用し、NFCビジネスの展開にも力を入れている。すでに、国際ブランドが展開する非接触クレジット決済、スマートポスター、デジタルサイネージを活用したプロモーション分野などにおいて、NFCに対応したソリューションを発表している。
大日本印刷
KDDI、ソフトバンクモバイルの実証実験にも積極的に参加
NFCケータイへの発行データ生成やダウンロードサーバを構築
大日本印刷(DNP)はNFCソリューションとして、カードやタグなどのNFC媒体、リーダライタなどのハードウェア製品、スマートポスターやクーポンなどのアプリケーション、サーバーシステムなどを提供している。同社では、NFCケータイの商用化を見据え、KDDIやソフトバンクモバイルが実施した実証実験にも積極的に参加している。
まず、2010年にKDDIと共同でスマートポスターとデジタルサイネージの実証実験を実施した。同実験は、DNPが設立した銀座のギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)、DNPの子会社の丸善店舗で行った。gggでは、作品解説プレートに添付されたNFCタグにNFCケータイをかざすことでURLに誘導し、作品の解説情報の閲覧ができるサービスを提供した。また、丸善では、NFCタグを添付したポスターにNFCケータイをかざすことで、専用のURLに誘導したり、NFCの機器間でデータを転送する「ハンドオーバー」の機能を利用することで、店舗の売り上げにどの程度直結するのかをテストしている。
「マーケティングやプロモーションなどの購買につながる効果測定については、母数が少ないため開示できるレベルではありませんが、利用者のアンケートの結果は概ね良好でした」(大日本印刷 デジタルセキュリティ本部 NFCプロジェクト リーダー 鈴木英治氏)
また、KDDIと協力し、2010年7月~9月、2011年2月に、オリエントコーポレーション、クレディセゾンが行ったPayPassの実証実験で、NFCケータイに対応したクレジットカードのデータ生成、アプリや発行データのダウンロードサーバを行う「モバイルNFC関連サーバー・システム(TSM)」を提供している。
2011年9月には、ジャックスがKDDIの協力を得て福井県のスーパーマーケット「PLANT」でPayPassの読み取り実験を実施したが、同実験でもNFC対応携帯電話に搭載するアプリへのデータ書き込みを行うPayPassパーソナライズシステムを提供している。
そして、2011年11月~2012年2月まで、ソフトバンクモバイルのスマートフォンを利用してクレディセゾンとAmerican Expressが実施しているexpresspayの実験でも同様にサポートした。
FeliCaに加えpayWave/Paypassに対応したモバイルビューロを開発
NFCを利用したハウスプリペイドシステムも提供へ
「KDDI、ソフトバンクモバイルがAndroid搭載NFCケータイで実施した実験では、技術検証を行う目的で参加しましたが、データを受容してアプリの生成を行い、パーソナルな発行を行うまで、一連の流れとして提供できました。これにより、NFCケータイが商用化された際は、ビジネスとして展開できる下地が整いました」(鈴木氏)
同社ではFeliCa対応の電子マネーカードの発行や関連したシステムを展開しており、そこで培ったノウハウを有しているが、今後は、TypeA/Bに対応したアプリケーションが加わることにより、ICカード関連のビジネスのすそ野が広がると考えている。
「国内で普及しているFeliCaには、認定制度があるため、サービスプロバイダがシステムを構築しやすい特徴がありますが、TypeA/Bになると自社でシステムの開発が必要になります。TypeA/Bの良さは、国際標準に準拠していることによる海外との相互運用性の高さだと考えています」(鈴木氏)
決済については、従来から国内で普及しているFeliCaベースに加えて、「VisaのpayWave、MasterCardのPayPassなど、国際ブランドが提供する非接触決済の市場を関係者と協力してつくっていきたい」と鈴木氏は話す。同社では、QUICPayの携帯電話向けリモート発行サービス「モバイルビューロ」およびカードの発行を行っているが、NFCケータイへのpayWave、PayPassのパーソナライズシステムに関しても立ち上げる予定だ。
また、新たな展開としては、バリューデザインと協力し、スマートフォンを活用したハウスプリペイドシステムの提供を検討している。これは、顧客の囲い込みが必要な企業に向け、磁気カードに加え、スマートフォンの会員証を発行することで、決済、チャージとしての利用をNFCケータイで行うことができ、店舗はクーポンの配信などによりネットからリアル店舗への送客をスムーズに促すことができるものだ。
国内・海外問わずグローバルにビジネスを展開へ
小型のリーダモジュールやデジタルサイネージにも力を入れる
DNPでは、NFCケータイのなかでもICカードやタグへの読み書きができる「リーダライタモード」と機器間でのデータの受け渡しができる「ピアtoピアモード」に期待する。両機能は、従来のおサイフケータイでも対応している部分だが、各キャリアの全機種フル対応ではないことが課題であった。今後は、スマートフォンが普及することにより、NFCケータイに特化した魅力のある製品、アプリの開発が可能になると同社では考える。Android OSの場合は、バージョンの定期的な更新が必要となるが、「従来の携帯電話の場合はキャリアごとにシステムの構築が必要でしたが、Androidの場合はキャリアでそれほど差がなくなるため、トータル的なコストは抑えられると考えています」と鈴木氏は考える。
DNPでは、国内のみならず海外を見据えたビジネスを展開しており、PCや携帯電話に組み込み可能なNFC対応の小型軽量リーダライタモジュール「MARIDA(マリダ)」の営業をグローバルに実施している。
「スマートフォンだけではなく、NFCのハンドオーバーでは、さまざまな電子機器にNFCモジュールが搭載されると期待されており、海外の大手メーカーに採用されれば、ボリューム的にも量産効果が期待できます」(鈴木氏)
また、2011年12月20日には、おサイフケータイやNFC機能を搭載した携帯電話・スマートフォン向けに情報配信する端末「PetitPorta(プチポルタ)」シリーズの新機種として、「プチポルタ2」を発表している。同端末は、URL取得だけでなく、アプリ起動も可能である。さらに、筐体の薄型化と省電力化を実現し、設置場所の選択肢を広げるとともに、電池での駆動が可能なため、イベント会場などの電源の確保が困難な場所でも10日間程度の利用が可能となった。
さらに、デジタルサイネージ関連の製品開発にも積極的に取り組んでおり、「アクティビジョン」などの次世代型デジタルサイネージ機器を製品化している。すでにデジタルサイネージ端末にNFCリーダを組み込み、クーポンやスタンプラリー、情報配信などを行う事例が複数出てきているそうだ。
「お客様から、NFCに関する引き合いは増えています。今後、NFCスマートフォンが市場に出てくればビジネスとしての成長がさらに期待できます」(鈴木氏)
気になるNFCのブレイクに関しては、「2014年頃と考えていますが、NFC対応のスマートフォンの普及次第では2013年に早まる」との見解を鈴木氏は示している。