2012年2月8日8:00
NFC端末向けにセキュリティの高いチップを世界中で提供
さまざまな組み込み製品を提供し、市場での主導権を握る
ドイツのミュンヘン郊外に本社を置くインフィニオン テクノロジーズは、世界有数の半導体メーカーであり、セキュリティ性の高いICカード用ICチップの開発に取り組んできた。同社では、機器搭載向けのNFC関連製品として、SIMカード向けNFCセキュリティ・マイクロコントローラ、組み込み用セキュア・エレメント、microSDカード用セキュア・エレメントなど、セキュリティを備えた各種チップを提供している。
インフィニオン テクノロジーズ
ETSIで標準化したSWPの規格策定に貢献
仏「Cityzi」のプロジェクトを含め、セキュア・エレメント2,000万個を納品
インフィニオン テクノロジーズは、セキュリティ性の高いICカード用のチップを販売している。同社では従来から培ったICカードのビジネスに付加される技術としてNFCを捉えている。同社ではNFCで使用される、全てのインターフェースをサポートする製品群を製造しているが、ICカードのビジネスは市場も成熟してきたため、ペイメントに加え、チケット、スマートポスター、ピアtoピアなど、従来のビジネスを広げる手段としてNFCに注目している。
同社がターゲットとしているデバイスは、SIMカード、NFCモデムと共に携帯電話基板に直接搭載されるエンベデッド・セキュア・エレメント(Embedded Secure Element)、デュアル・インターフェース・チップ、SDカードをセキュア・エレメントとして使用するタイプ、そして読み取り側のNFCタグがある。同社では、そのすべてをサポート。2004年からは、NFCフォーラムのメンバーに加盟している。また、NFCチップとUIMカード間のインターフェースでは、欧州のETSIで標準化されたSWP(Single Wire Protocol)を採用しているが、同社では同規格策定に貢献している。特に、「Contactless Tunneling Protocol」と呼ばれるMIFAREやFeliCaのアンチコリジョンをスムーズにSWPで実現するためのプロトコルはインフィニオンが仕様策定をリードした。また、SIMカードでマイフェアエミュレーションを実現するデモンストレーションを世界で最も早く行った。さらに、DCLB(Digital Contact-less Bridge Interface)というエンベデッド・セキュア・エレメントとNFCモデムをつなぐインターフェースの規格を策定し、広く公開している。
2011年の実績としては、ウォッチデータが中国で販売したデュアル・インターフェースのSIMカード「SIM PASS」が500万個、フランスのニースで行われたプロジェクト「Cityzi(シティジ)」でもNFC対応SIM用セキュリティ・コントローラを出荷した。IMS Researchの「NFC世界市場-2012年版」(2012年1月)によると、NFCセキュリティ・マイクロコントローラ市場におけるインフィニオンのシェアは51.5%と半数以上を占めている。
NFCタグに関しても、徐々に数量がアップしており、スマートポスターや改札機に搭載して利用されている。
同社ではNFCの動きは活発化していると感じている。実際、第一世代はNFCモデムが単独で携帯電話やスマートフォンに搭載されるタイプが基本であったが、第二世代ではNFCモデムと共にエンベデッド・セキュア・エレメントがワンパッケージで搭載されたり、セキュア・エレメント機能がSIMに搭載されるタイプが登場した。そして、最近ではSIMPASSやSDカードに搭載するタイプの実験が行われている。
「今後は市場も成熟してきますので、NFCの単独チップは少なくなり、『コネクティビティ・コンボ・チップ』と呼ばれるBluetoothやGPS、Wi-Fiなど、新しい携帯電話に必要な機能を備えたチップを提供するベンダーが増えると思います。それに伴い、セキュア・エレメントの重要性は増し、カードエミュレーションモードで利用されるケースが多くなると考えています」(インフィニオン テクノロジーズ ジャパン チップカード&セキュリティ事業本部 部長 稲田真弓氏)
ハイセキュリティの「SLE78」
データは暗号化形式で演算・保存し、2つのCPUを搭載
同社では、SWPのインターフェースが付いた「SLE97」「SLE88」をNFC対応製品としてリリース。32ビットのCPUを搭載したセキュリティ・コントローラとなっている。この他に、DCLBというインターフェースを搭載した「SLE97 エンベデッド」があり、これをエンベデッド・セキュア・エレメント向けに出荷。また、ブリッジ・ソリューションとしてデュアル・インターフェースのSIMカード向け「SLE78」「SLE77」の16ビットのセキュリティ・コントローラを用意している。microSD向けとしては、デュアル・インターフェースの製品群として、「SLE78」「SLE77」を提供している。
稲田氏は、ICカード用チップ同様に、SLE78のメリットとして「セキュリティ」を強調した。すでにセキュリティ・マイクロコントローラのセキュリティ要件として世界で最も厳格な国際規格Common Criteriaの「EAL 5+(high)」の認定を取得。また、セキュリティ技術「Integrity Guard」により、データは暗号化形式で保存され、その状態は維持されるという。稲田氏は、「SLE78の中には、2つのCPUを搭載しており、内部で演算を行うと相互でチェックされるため、仮にアタックがあると即座に内部の演算をストップし、外部に漏れない仕組みになっています。CPU内の演算自体も暗号化されたままのデータを演算するため、ICカード用チップとしては最もセキュリティレベルが高いと考えています」と自信を見せる。同社ではNFCのキラーアプリケーションはペイメントになると考えており、今後はセキュリティがさらに重要視されるとみている。
マイクロSDカードをセキュア・エレメントとして使用する際に、十分な通信距離を担保するための「アクティブモジュレーションチップ」をオーストリアマイクロシステムズと共同で開発を進めており、2012年には発売する予定だ。また、同社では現在、「DCLB」対応セキュリティ・コントローラをNFCコントローラベンダーに提供しているが、「今年中に5社以上のパートナーと提携する予定です」と稲田氏は話す。
一方、NFCタグでは、ICタグ向けチップのなかでもメモリサイズが大きい「my-d NFC」、それに比べメモリサイズが小さい「my-d move」がある。「my-d move」は32ビットのパスワード入力が可能であり、競合他社製品に比べセキュリティ面での優位性がある。
今後はセキュア・エレメントのメモリサイズ最適化や
SWP付のSIMカード普及に取り組む
同社では、独ギーゼッケ アンド デブリエント (G&D)、仏オベルチュール テクノロジーズ(Oberthur Technologies)、仏インサイド・セキュア(INSIDE Secure)とともに「OSPTアライアンス」を立ち上げ、公共交通アプリケーション向けオープン規格「CIPURSE(サイパース)」を策定した。CIPURSE は、ICカード、NFC携帯電話、セキュア・アクセス・モジュール(SAM)など、さまざまな機器に実装可能なオープンアーキテクチャを目指しており、準拠製品を販売するメーカーや、導入側の交通事業者、POSベンダーなどが加盟している。すでにインフィニオンでは、2011年11月にCIPURSEに対応した世界初のセキュリティ・チップ・ソリューションを開発したとリリースしている。
「CIPURSE では、ICカードを利用した次のソリューションに移行する際、複数のベンダーが同じスペックの製品を購入できる環境を規定しています。すでにバルセロナで実験を行い、参加者からの評価も好評でした」(稲田氏)
2011年は、移動機メーカーの動きが比較的緩かったが、SWP付のSIMカードについては世界トップクラスのシェアを誇っているため、今後も自信をもって提供していきたいとしている。稲田氏は、「セキュア・エレメントのメモリサイズの最適化に加え、SWP付のSIMカードについても競争力のある商品にしていきたいと考えています」と力強く語った。国内において携帯やスマートフォンへの搭載実績はまだないが、2012年以降、続々とNFC搭載のスマートフォンが発売される予定であり、同社としても展開を強化していく方針だ。