2015年10月6日8:35
社会インフラとなった非接触ICカードの成長は続く
NFCスマートフォンをかざすだけで便利な世界が到来へ
国内でも、カードやスマートフォンを日常の生活の中でかざすシーンが増えてきた。本章では、FeliCaをはじめとした非接触サービスやNFC普及の背景と今後の進展について紹介する。
交通乗車券、電子マネー、ID分野で非接触ICカードが広がる
国内でのFeliCaの発行は継続的に成長
国内のICカードの市場は、1980年代から標準化が行われていた「非接触ICカード」、特にFeliCaの登場で、IDのあり方を大きく変えたといえる。かざすだけで処理が可能な非接触ICカード技術を利用して、2000年代以降、さまざまなアプリケーションが登場している。たとえば、交通乗車券、電子マネー、IDカードといった分野が代表だ。
決済では、少額でも便利にキャッシュレスで支払いが可能な電子マネーの登場が大きい。FeliCaの技術を利用した電子マネー「Edy(エディ)」(現楽天Edy)の事業が2001年にスタートしたが、現在は、複数のサービスが生まれている。また、交通分野でも、2001年11月からJR東日本で「Suica(スイカ)」が稼働し、現在は全国各地でサービスが行われている。
国内では、電子マネーや交通系ICカードの大型プロジェクトがいったん落ち着き、2009年頃は「FeliCaの大型案件はほぼ出尽くした」という声もあったが、印刷会社に話を聞くと、ここ数年、FeliCaカードの出荷は決して落ちていないという声を聞く。交通分野では、JR各社の交通系ICカードでは一定のカードのニーズがあること、また、地方に採用が広がっていることが挙げられる。さらに、「nanaco(ナナコ)」や「WAON(ワオン)」といった流通系電子マネーの引き合いも多いそうだ。
近年では、「FeliCa Lite-S(フェリカライト)」と「FeliCa Plug(フェリカプラグ)」、そして双方の機能を併せ持つ「FeliCa Link(フェリカリンク)」による新市場の開拓も行われている。ポイント/ギフト、会員証、アミューズメント系など、決済に伴わないソリューションに対応した分野での採用も加速している。
また、従来のカード型に加え、コイン型、キーホルダー型、iPhoneケース型など、さまざまな形状でFeliCaの技術が利用されている。
海外ではEMV コンタクトレス決済が普及の兆し
国内でも発行するイシュアが登場
IDの分野では、FeliCaの仕様に加え、ISO/IEC 14443 TypeBのNTTコミュニケーションズの高性能ICカード「eLWISE」(エルワイズ)、ISO/IEC 14443 TypeAのNXPセミコンダクターズの「MIFARE(マイフェア)」といったカードが活用されている。
なお、非接触の世界でいうと、国内で発行されるeパスポート、住民基本台帳カード、マイナンバーカード(個人番号カード)は、ISO/IEC 14443 Type B、たばこカードはISO/IEC 14443 Type Aとなっている。
非接触ICのワールドワイド市場を見ると、FeliCaが普及しているのは、国内とアジアの香港、インドネシアなど一部の地域で、主にISO/IEC 14443 Type A/Bが浸透している。ISO/IEC 14443では、無線通信のプロトコル(通信規約)、電波出力などの仕様が決められており、動作周波数は13.56MHz。電磁誘導方式を用いて、ICチップがリーダライタの出力範囲内(実用上は概ね数cm以内)に入ったとき、リーダライタから電力の供給を受けて動作する。TypeA/Bは、物理的な特性はほぼ同じだが、変調方式や符号化方式が異なっている。FeliCa、TypeA、TypeBの仕様については表のとおり。
クレジットカード、デビットカード、プリペイドカードなど、国際ブランドが発行するペイメントカードにおいては、国内では接触のEMV化が金融分野で進んでいる。政府は、2020年までに国内のクレジットカード会社が発行するクレジットカードの100%IC化を目標に掲げているが、今後は非接触IC化も徐々に進むと思われる。なお、EMVは、Europay、MasterCard、Visaの頭文字をとった用語で、クレジットカードの国際ブランドなどが、統一して進めることで、グローバルで便利に利用できる環境を整えてきた。EMVコンタクトレスは、「ISO/IEC 14443 TypeA/B」がベースとなる。すでに、国内ではEMVコンタクトレスに対応したICチップを搭載した「Visa payWave」および「MasterCard Contactless(旧MasterCard PayPass)」のクレジットカードも発行されており、オリエントコーポレーションや三井住友カードはNFCスマートフォンを活用したVisa payWaveの商用サービスをスタートさせている。また、海外ではEMVコンタクトレスに対応したモバイル決済サービスとしてAppleの「Apple Pay」、Samsungの「Samsung Pay」、Googleの「Android Pay」といったサービスも発表されており、今後展開される地域も拡大していくと思われる。
国内では世界でいち早くモバイルサービスを商用化
13.56MHz のインターフェースを一本化できるNFC
スマートフォンの普及が進む中、モバイルを活用した非接触サービスの進展も期待される。日本では、「モバイルFeliCa(おサイフケータイ)」が2004年7月10日にサービスイン。10年以上にわたり利用されている。おサイフケータイは、FeliCaのチップ(モバイルFeliCa ICチップ)を携帯電話もしくはスマートフォンに内蔵し、FeliCaカードの機能を移植したものだ。携帯電話が交通系ICカード、電子マネー、ポイントカード、会員証など、プラスチックカードで利用しているサービスにそのまま使えるようになっている。
今後は、13.56MHzのインターフェースを一本化できる「NFC(Near Field Communication)」とのスムーズな融合も期待される。FeliCa、MIFARE、TypeA/B、15693など、主要な13.56MHzの規格をすべて扱えるNFCは、非接触ICインフラを構築する上で重要なインフラとなるに違いない。
NFCは、FeliCaとMIFAREの上位互換の位置付けとなる。NFCの無線通信の仕様は、FeliCa、MIFARE(TypeA)を包含し、これが「ISO/IEC 18092(NFC IP-1)」として、2003年12月に、正式に国際標準として策定された。FeliCaの仕様がそのままISO規格になったわけではないが、上位互換のNFCがISO/IECの国際規格として認定されたため、国際標準との互換性が確保できたことになる。
また、2004年には、ソニー、NXPセミコンダクターズ、フィンランドの携帯電話メーカーであるノキアの3社を中心に、仕様の策定や業界内外への普及に向けた活動を行う業界団体、「NFCフォーラム」が設立。NFCのコンセプトに賛同する企業は年々増加し、携帯電話、半導体、カード、デバイスメーカー、通信キャリア、クレジットカードなどの業種から参加している。2015年にはAppleも最上位の「SPONSOR MEMBERS」として加わった。
複数のアプリケーションを格納できるウォレットサービス
国際ブランドがトークンサービスを提供
NFCサービスが注目を集める要因の1つに、スマートフォンの普及に伴うウォレットサービスへの注目の高まりが挙げられる。これは、銀行のキャッシュカード、クレジットカード、ポイント、クーポンなどを1つのアプリケーションに搭載できるものである。国内では、電子マネー、クレジットカード、ポイントカード、会員証、セキュリティなど、非接触ICカードが使われている。また、すでにおサイフケータイを体験している日本国内では、NFCスマートフォンが備えるこの機能に対する新鮮味は薄いが、実証実験が進む世界各国では、ウォレットを活用した新しい決済の浸透に期待が高まっている。
たとえば、MasterCardでは、2013年2月25日に、次世代型デジタル決済サービス「MasterPass(マスターパス)」を発表。同サービスは、店頭やレジはもちろん軒先でも、NFC、QRコード、電子タグ、モバイル機器などを使った決済が可能だ。
また、韓国でも数多くのウォレットサービスが展開されている。SKプラネットでは、スマートフォンアプリとして「Smart Wallet(スマート・ウォレット)」を展開。Smart Walletは、大手を含む数百の企業の会員証やマイレージプログラムの管理が可能となっている。たとえば、韓国の共通ポイントカードであるOKキャッシュバックカード、大韓航空・Sky Pass、ロッテメンバーカード、SPCハッピーポイントなど、メジャーな会員プログラムの管理が行える。また、NFCによるモバイル決済、クーポンサービスなども提供。さらに、過去のポイントカードの利用履歴や決済の支払履歴など、家計簿としての利用も可能だ。
もう1つの注目としては、iPhoneへのNFCチップの搭載が挙げられる。2014年に「Apple Pay」がスタートしたことにより、NFCへの注目が再度高まった。また、NFCチップの格納方式についても、従来のSIMや組み込み、マイクロSDに加え、「Host Card Emulation(HCE)」が登場。Googleは2013年10月から、オープンなプラットフォームとして、「Android4.4(KitKat)」にHCEを採用した。HCEは、従来、セキュアレメントで管理されていたセキュアな処理をクラウド上で行う技術となり、カード発行会社などの柔軟性が高まった。
また、Apple PayやSamsung Payでは、NFCモバイル決済において、カード番号を別の乱数に置き換えて処理を行う「トークナイゼーション(Tokenization/Tokenisation)」技術を採用しており、国際ブランドでもイシュアの代行でトークンを発行するサービスを提供している。
2012 年はNFC スマートポスターに注目が集まる
NFC 活用の実サービスは徐々に増加
NFCに対応したスマートフォンや携帯電話の場合、従来の非接触ICカードとしての役割を代替する「カードエミュレーションモード」に加え、NFCタグを読み取るための「リーダライタモード」、そしてNFCデバイス同士でメッセージを直接交換するための「P2P(Peer to Peer)モード」がある。海外でのNFCサービスでは、決済に絡んだサービスが注目されることも多いが、今後は「スマートポスター」のように、簡易的なアプリケーションが普及することに期待したい。
スマートポスターは、「FeliCa Lite-S」や「MIFAREウルトラライト」などのNFCタグを貼付したポスターやPOPなどに、生活者がNFC搭載スマートフォンをタッチすることで関連情報を配信できるサービスだ。
なお、NFCを利用した簡易的なサービスについては、2012年は新規参入企業も含めて期待を示した企業も多かったが、海外で展開されているウォレットサービスの苦戦、当時、iPhoneへのNFC機能の非搭載などもあり、2013年以降は、若干関心も下がっている印象を受ける。
その一方で、2012年までは実証実験としてのNFCサービスの展開が多かったが、2013年以降は、NFCを実導入に結び付けるケースも徐々に登場している。日本は、おサイフケータイの経験からアプリケーションの開発部分で先行している。その強みと、自由にアプリケーションをつくり込めるNFCの強みを融合し、さまざまなアプリケーションが登場することに期待したい。