2015年10月23日18:14
500人の参加者を対象にグローバル決済スキームとしての可能性を検証
ジェーシービーは、富士通および富士通フロンテックとともに、2015年10月21日、22日の2日にわたり開催した「第14回JCB世界大会」において、手のひらの静脈認証技術を用いた決済スキームの実証実験を行った。同実験には、インドネシアの大手銀行、決済端末ベンダーのインジェニコも協力している。
JCBプリペイドカードの情報を静脈認証と組み合わせ本人を特定
他のブランドに先駆けて検証を行う
ジェーシービー、富士通、富士通フロンテックの3社は、JCBのグローバルネットワークと 富士通の手のひら静脈認証技術を融合させ、事前に手のひらの情報をカードの情報へ紐付けすることにより、手のひら静脈認証での本人確認により決済を行う仕組みを開発した。日本国内では、 2015年7月JCB本社にて社員数百名の参加により、手のひら情報とクレジットカードの紐づけによる実証実験を実施したが、インドネシア・バリ島で開催された第14回JCB世界大会の参加者を対象に、「グローバル決済スキーム」としての実用化へ向けたさらなる検証を行った。
世界大会には、世界32の国・地域からパートナー企業など約200社、総勢約510名が参加した。同実験では、参加者に200,000ルピアをチャージしたJCBプリペイドカードを配布し、3カ所の決済エリアを設置。その情報を手のひら静脈認証と組み合わせ、本人を特定した上で決済を行った。
参加者は、店頭の読み取り端末で手のひらをかざすと、富士通の「手のひら静脈サーバ」でペイメントカード情報を取得し、インジェニコの決済端末に流し込み、その後は、通常の決済処理同様のスキームで処理が行われる。
今回の仕組みは、「ID+パスワード」を生体認証のみで行う仕組みとなる。生体認証にも本人認証に活用する方法、生体認証のみで決済が完了する2つの方式があるが、本人認証については、カード保有者を認証する「CVM(Cardholder Verification Method)」がEMV Co等においてスキームの構築が進められている。一方、今回のスキームについては、他ブランドも本格的に展開していないそうだ。また、「JCBカードだけではなく、他の国際ブランドのカードを紐づけて利用することも可能となっています」とジェーシービー ブランド統括部門 ブランドインフラ推進部 ソリューショングループ 主事 松浦肇氏は特徴を述べる。
生体認証の中でも認証制度が高い手のひら認証を活用
他の生体認証技術やPINと組み合わせた認証も可能
同静脈認証技術は、生体認証のなかでも認証精度が高く、銀行のATMやセキュリティエリアの入退室管理等すでに多くの採用例がある。今回の実験では、手のひら静脈認証のデータは数値化され、逆変換できないようにし、そのうえで暗号化を実施。また、上位側のサーバのセキュリティ、サーバを設置するデータセンターのセキュリティを含め安全性を担保している。実験で利用した手のひら静脈認証の端末は現状、数万円程度となる。富士通 金融・社会基盤営業グループ 第二金融ビジネス部 クレジット・リース第二営業部長 岡田行造氏は、「価格は市場のニーズに応じて、企業努力をしていきたい」としている。
今回の実験では、比較的クローズドな範囲での運用を行っており、「端末1」対「参加者5,000」を対象としたが、「将来的には1対10,000に広げていきたい」と、富士通 パームセキュアビジネス推進部 シニアエキスパート 若林晃氏は目標を口にする。富士通では、世界大会の展示エリアにおいて、手のひら静脈認証と3本の指紋情報を組み合わせたマルチ認証のデモも実施。将来的にグローバルに適用範囲が広がり、母数が増えた際、その中から本人を特定するのは困難になることが予想される。複数の生体情報を組み合わせるのが根底にあり、必ずしも指紋にこだわらず、虹彩、顔などを複数組み合わせるのがデモのポイントとなっている。また、JCBによると、PIN入力などを併用することもできるそうだ。
インドネシアでは1年以内の実験を希望するイシュアも
海外での実験を進め、2~3年での商用化を目指す
今回、海外初の実験が行われたインドネシアの決済市場は、磁気かスワイプによる決済が行われてきたが、イベント会場やオフィス内などで活用が見込めるため、JCBでは現地の銀行(イシュア)と話を進めていきたいとしている。世界大会に参加した銀行の中には、同技術について興味を示したところもあり、「インドネシアの大手銀行からは具体的に1年以内に導入したいというコメントをいただきました」と、PT JCB International Indonesia President Director(取締役社長)門脇裕一郎氏は、実用化への手ごたえを口にする。また、同氏は、「JCBブランドとして、他のブランドと差別化を図るうえで、新しいテクノロジは武器になります」と意気込む。同氏によると、世界屈指の決済端末メーカーであり、インドネシアでも70%以上のシェアを誇るインジェニコの協力を得て実験を行うことができたのは、今後の同国での運用に向け、大きな意義があったという。
インドネシアでは、デビットカードの磁気からEMVカードへの移行が進むと思われるが、手のひら静脈認証により、バーチャルな決済が可能となり、カードの発券コストを削減できる効果も期待される。
今後、JCBとしては日本のみならず、世界中で実証実験を重ね、最終的にはグローバルな仕組みとして展開していく方針だ。松浦氏は、「グローバルで必要とされる地域で展開していきたいです。実証実験でいろいろなニーズが出てくると思いますが、それを踏まえて作りこむと2~3年くらいは必要とみています」と本格運用までの道のりを予想した。