2016年9月1日8:00
「電子マネーサービス」、「独自の地域サービス」、「JURACAタッチサービス」を1枚に
福井銀行と福井新聞社は2016年4月から、全国で使える電子マネーサービスと独自の地域サービスを一体で提供するカード「JURACA(ジュラカ)」サービスを行っている。JURACAは、nanacoとQUICPayの「電子マネーサービス」、「独自の地域サービス」、NFCを活用した「JURACAタッチサービス」を1枚のカードで実現。地方銀行と地方新聞社が協力して地域活性化を目指した多機能カードのサービスを立ち上げた、全国的に見ても珍しいサービスとなっている。
銀行の金融プラットフォームと新聞社の情報発信プラットフォームを融合
オープンなフレームの中で福井に貢献できるスキームを構築
「JURACA」は“恐竜の時代”といわれる中生代ジュラ紀の「JURA」と、カードの「CA」を組み合わせた名称であり、福井を意識したネーミングとなっている。申し込み対象者は、福井銀行のクレジットカード「iica(イイカ)JCBカード」の保有者、およびその家族(満18歳以上・高校生除く)となる。後払い方式の「QUICPay(クイックペイ)」と、前払い式の「nanaco(ナナコ)」の2種類の電子マネーサービスを1枚に搭載。
福井銀行では、グループ会社でDCカードブランドのカードを発行してきたが、将来のキャッシュレス化、カードのさらなる普及に伴って、他のブランドの本体発行を検討していた。また、福井新聞社でもデジタル事業において、凸版印刷の「スマートデスクトップ」も活用したICカードの取り組みを以前から検討しており、両社が構想するサービスを組み合わせて、利用者に提供できないかを考えたそうだ。
福井銀行にとって、新たなカードサービスを展開する上で、福井新聞社との連携は大きな意味を持つ。「福井新聞」は県内普及率約73%と全国地方紙で№1の占有率を誇る。これにより、福井県民が毎日目にする紙面でJURACAを告知できるとともに、銀行単体では実現できないようなサービスを提供することが可能になり、地域の人々を巻き込んだ展開が実現できる。また、「福井新聞読者の方々と福井銀行のお客様が重複しているため、シナジー効果が期待できます」と、福井新聞社 編集局デジタルラボ部長 杉谷貢一氏は話す。
福井銀行では、2014年2月から本体発行の準備を開始。福井銀行の金融プラットフォーム、福井新聞社の情報発信プラットフォームを融合し、さまざまな地域創造事業を展開することで、暮らしに密着したサービスを福井県民が一元的に享受できるような社会づくりを目指すために、議論を重ねた。
「JURACAに搭載されている電子マネーは全国で使えるオープンなフレームですが、福井県民のカードと感じてもらうため、名称や優待サービスはローカルなものとなるように、セブン・カードサービス様、ジェーシービー様と連携してスタートさせることとなりました。また、JURACAをタブレットやスマホにタッチすると公式ホームページに直接アクセス、ログインできる『JURACAタッチ』サービスを載せることで、地域のインフラサービスになるだけの機能を備えています」(福井銀行 営業支援グループ グループマネージャー 岡田伸氏)
「nanaco」の搭載により全国における発信力でもプラスに
福井県外で決済されても地元に還元される仕組みに
JURACAは、全国で汎用的に利用できるnanacoやQUICPayが搭載されており、利用者は店舗の決済端末にタッチするだけで、支払いが完了する。そのため、小銭を持ち歩いたり、お釣りを受け取ったりする手間が省ける。また、「JURACA」の電子マネーサービスを利用すると、nanacoの場合は「nanacoポイント」が貯まり、貯まったポイントは買い物の際に利用可能だ。一方、QUICPayを利用した場合は、JCBの「OkiDokiポイント」が付与される。
今回、JURACAにnanacoのサービスを付加できたことは、将来を見据えた展開の中で大きな意味を持つ。福井では、2018年の国民体育大会(福井しあわせ元気国体)、2023年の北陸新幹線の延伸が予定されており、駅前も再開発される。岡田氏は、「福井の街の中心にはセブン&アイ・ホールディングスの西武百貨店が昔からあり、そこに新たなサービスが融合して次の時代を迎えます。セブン-イレブンは福井での展開はこれからですが、東京を含め全国では圧倒的な力があり、そのプロモーション力、集客力は重要であると考えています」と説明する。
JURACAは、福井県外で決済されても地元に還元される仕組みとなっている。さらに、将来的には、福井県外でJURACAのサービスを告知してもらえる可能性もあり、「インバウンド、アウトバンド含め、地域カードに留まらない作り込みができると思います」と岡田氏は期待を込める。
また、JCBの加盟店開拓のノウハウやプロモーション力への期待もあった。QUICPayは後払いのため、「iica JCBカード」の稼働と、口座の活性化につなげることができる。
JURACAが使える店舗では、POPを掲示して告知を実施。JURACAの発行対象は、「iica JCBカード」の保有者、およびその家族となるため、収益モデルはカードショッピングやキャッシングの手数料収益となっている。加盟店開拓はグループ会社の福井カードと、福井銀行が協力して実施している。福井県内でnanacoやQUICPayが利用できる店舗はJURACAの告知店でもある。
現状、福井県内でQUICPayが利用できる店舗は750カ所(nanacoの県内の数値は非公表)。JURACAの開始後は、デリバリーピザ専門店のテキサスハンズが加盟店となった。他にも続々と事業者からの問い合わせがあるそうだ。福井県内でのクレジットカードの利用、および電子マネーの普及は全国の中でも非常に低いそうだが、将来的には全国同様にキャッシュレス化が進むとみている。
福井新聞電子版の購読料優待、イベント開催など地域独自の特典も提供
個人向けのNFCサービスに加え、店舗での活用もスタート
JURACAでは、地域独自の特典も提供している。福井新聞の朝刊購読者で電子新聞「福井新聞D刊」を併読する人の料金は+800円だが、JURACA会員は+500円で購読できる。また、年間100以上の講座が開催される「福井新聞文化センター1dayカルチャー」を同センター会員価格で受講可能だ。福井の良さを体感できる料理教室や工芸体験教室などオリジナルイベントも開催。こういった新聞社ならではのイベントを開催することで、福井銀行では銀行単体ではできない付加価値を提供できるようになった。また、福井新聞社にとってもイベントの魅力度アップにつながっており、「従来よりも多くの方にご参加いただいています」と杉谷氏は笑顔を見せる。
8月6日には、JURACA会員限定で、越前松島水族館において、夜間にライトアップされたプールでのイルカショー、クイズラリーを楽しむことができる「夜のワクワク水族館」を開催した。同イベントでは、通常1,600円のところ、1,000円での入場が可能となったが、親子連れやカップルなど約80名が参加した。
そのほか、JURACAならではの特徴として、「JURACAタッチ」サービスが挙げられる。これは、JURACAをNFC機能付きのタブレット端末にタッチすると、JURACA公式ホームページにアクセスできる機能だ。また、JURACA公式ホームページや電子新聞「福井新聞D刊」、電子チラシサイト「福井新聞チラシの森」など会員制ホームページにID、パスワード入力なしでログインできる。今後は、NFC対応のスマートフォンやタブレットの普及に伴い、利用者の増加を期待している。
こうした取り組みに加え、福井新聞社では店舗に設置されたデジタルサイネージ端末と連携した、加盟店向けのサービスもスタートした。利用者は、サイネージ端末にJURACAカードをタッチすることで、店舗の優待情報を手にすることができる。すでにソーホーズインターナショナル グループのピザ屋「Vesta(ベスタ)」にサイネージ端末が設置されており、今後は、商店街のスタンプラリーとしての活用なども想定している。
年間1万5,000枚の発行が目標
多機能カードとしてさまざまな活用を視野に
なお、2016年2月に、福井銀行と福井新聞社では、明るく豊かな福井県の未来創造に向けた取り組みを下支えする基盤「ふくい価値創造プラットフォーム(Fukui Value Creation Platform)」を共同で構築、運営するため業務提携した。現在、福井県は人口減が進んでいるが、JURACAの活用により、さまざまなサービスを一元的に提供する基盤をつくることで、福井の魅力を再発見、創造することを目指している。
現在、カード発行枚数は約8,000枚。まずは年間1万5,000枚の発行を目標としているが、5カ月ほどで5割強の発行枚数を達成した。福井新聞の紙面を利用した告知により、銀行窓口での案内においてもプラスとなっている。岡田氏は、「稼働率自体もQUICPay、nanacoともバランスよく徐々に伸びていく流れになっています」と笑顔を見せる。
現在は、JURACAの告知に力を入れているが、電子マネーが普及すれば、行政のプラットフォームや2次交通における地域独自カードとしての利用、マンションの鍵や学生証といったように、地域のさまざまなシーンで活用してもらえる可能性があるとみている。また、2020年の東京五輪を踏まえ、インバウンドとしての展開も検討する方針だ。