2017年3月22日5:36
オープンループカードのギフトとしての利用が加速
日本では、スーパーマーケットなどが自社の囲い込みに利用するリチャージカードなどでのプリペイドカードが普及してきたが、今後はギフト用途としての浸透が期待される。そこで、プリペイドギフトカードの先進国として知られる米国の動向について、IBAカンパニーに説明してもらった。
IBAカンパニー 代表取締役社長 射場 瞬
米国でプリペイドギフトカードは「貰いたいギフト」で37%
人口の60%以上の人がプリペイドカードを利用
米国において、「貰いたい贈り物やギフト」として最も人気があるものは何かご存知だろうか。それは、プリペイドギフトカードである。2014年に行われたホリデーギフトに関する消費者調査によると、プリペイドギフトカードは「貰いたいギフト」としては37%で1位となり、これは6年連続の結果となった。一方で、「送りたいギフト」としても人気が高い。1位の衣類が45%で、プリペイドギフトカードは次いで43%と僅差で2位だった。プリペイドギフトカードは、米国ではギフトとしてとても需要が高くなっており、また、同時に成長する巨大なマーケットでもある。
米国市場において、ギフトカードを含む、プリペイドカードの市場全体はどうなっているのだろうか? 米国の発表によると、2015年の1年間でプリペイドカード市場は約27兆円の規模であり、利用回数をみるとおよそ100億回となっている。米国のプリペイドカードは、1990年代後半に発行が開始され、2003年以降、市場が急激に拡大した。(図表)によると、2006年から2012年までの6年間は、大きく成長したが、市場が巨大化して成熟した2012年からの3年では緩やかな成長となっている。ただし、同期間でも、毎年5.5%も市場が拡大し、取引回数も2.3%増加している。また、人口ベースで考えると、人口の60%以上の人がプリペイドカードを利用している計算になり、米国内で広く使われていることがわかる。
使用目的別にプリペイドカードを分類すると、7種類に分かれる。ギフト(贈り物として使用)、インセンティブ(リワード/リベートに使われるものを含む)、汎用型(自己利用。クレジットカード代わりにさまざまな支払いに使用)、ヘルスケア(保険等の払い戻し)、政府発行(生活保護などの支払い)、給与、学生用などである。この中で、一番シェアが大きなカテゴリーおよび使用目的はギフトであり、プリペイドカードの額面売り上げの67%を占めている。
この記事では、プリペイドカードの中で一番大きなシェアを占める、米国のギフトカード市場についての説明にフォーカスする。ギフトカードの種類、流通や販売手法、市場規模の拡大とその理由を、最近の傾向やトレンドなどを含めて示そうと思う。
オープンループカードの成長が加速
ギフトカードの中でも一番大きいセグメントに
まずは、米国のギフトカードの2つのカテゴリーについて説明するが、クローズドループ(プライベート)カードと、オープンループ(ネットワーク)カードの2つに分かれる。クローズドループカードとは、限定された店舗(オンライン含む)でのみ使えるカードで、手数料なしで購入できるものが多い。例えば、特定のレストランチェーンのみ、特定のショッピングモール内の店舗のみで使用できるものであったりする。スターバックスカード、Amazonギフトカード、iTunes Cardも含まれ、日本のプリペイドカードは主にこのタイプ(クローズド・ループ)である。
一方、オープンループカードとは、Visa、Mastercard、JCBなど一般的なクレジットカードのブランド(ネットワーク)が発行主となっており、発行ブランドのカードが使える店舗であればどこでも使えるカードである。基本的に発行手数料がかかり、贈る額面の金額によって発行手数料が異なることも特徴だ。発行ブランドのクレジットカードが使える場所であれば、クレジットカードと同様に利用できる。オンラインでの買い物や小売店、旅行やレストランなど、使う場所の制限が少なく、使える機会、場所が多いことが利点である。
現在も成長が大きいものはこのオープンループカードであり、いまや年37億回の取引が行われ、ギフトカードの中でも一番大きいセグメントになっている。オープンループカードは、比較的高い手数料を支払わなければならないのにもかかわらず成長しており、その需要が非常に高いことを示唆している。
2010年頃までは、最も人気があるギフトカードはWalmart(ウォルマート)やTarget(ターゲット)などの大型ディスカウントストアブランドのカード、次いでCDショップや本屋などの小売専門店ブランドのカードと、クローズドループカードであった。しかしそういったカードは現状頭打ちで、ここ3年で大きな成長は見せていない。
オープンループカードを贈る際の平均の券面金額は$34
米国では手数料がかかっても成長が継続
一般的に、オープンループカードを贈る場合、ある程度大きな金額の額面のカードであることが多い。平均の券面金額は$34であり、クローズドループカードの$20よりも高くなっている。オープンループカードは、発行初期の時期に、「どのお店でも、何に使うでも好きなモノやコトを選んでもらうという“選択肢”を、心をこめて贈る」というギフト利用を強調したマーケティングキャンペーンが効果的に行われた。
そのマーケティングキャンペーンの代表的なものは、アメリカン・エキスプレス(American Express)社が行ったものである。オープンループカードを最初に米国市場に導入したアメリカン・エキスプレス社が、プリペイドカードを贈り物として使用することの認知度を一気に向上させた。クリスマス時期のギフトカード導入と共にテレビコマーシャル等でサポートし、プリペイドカードをギフトとして贈る習慣を創出した。続いて半年後、Visa社が市場に参入、テレビを含むさまざまなメディアで告知を行い、オープンループカードというカテゴリーとギフトを贈るシーンの刷り込みを大々的に実施した。また、この2社が中心となり、大手リテール(ドラッグストア、スーパーマーケットなど)のレジ横などの店頭の一番目立つところを使って、店頭で“ギフトとしてオープンループカードを贈る”というメッセージの浸透に力を入れた。
その結果、まず、“プリペイドカードを贈り物として贈る”という知識と行動が一般的となり、米国市場で定着した。次に、オープンループカードの利点である“どこでも何にでも使えるカードであり、相手の趣味や好きな店などがわからない場合でも贈りやすいギフト”という考え方が、広く消費者に伝わった。そうして認知度と興味があがると一気に成長気流にのり、そのままギフトカードが「贈りたい、かつ貰いたい」ギフトの選択肢として定着した。加えて、親戚や親しい友達以外、少し距離のある相手にプリペイドカードを贈る場合、オープンループカードの方がフォーマルであり、相手の状況や趣味の多様性に対して尊敬を示しているという認識も広まった。このように、米国では日本と違い、特にオープンループカードの成長スピードが非常に速く、広く生活に浸透している。また、ギフトとして利用されると、“カードを購入・利用する”という体験を贈り手と貰い手の両方が経験することになる。そうすると、自己利用に比べて2倍の数のユーザーが発生することにつながる。
National Retail Federationによる調査によると、ギフトにプリペイドカードを選ぶ理由としてもっとも高かったのは、「もらう側が購入するモノやコトを選べるため、実用的である」という理由だった(50%)。次いで、モノを購入するよりも簡単で速い(25%)、遠くに住む家族や友人に送付しやすい(6%)という理由が挙げられている。また、ギフトとして選ばれやすいプリペイドカードの種類は、レストラン(35%)やデパート(33%)で使えるクローズドループカードであり、オープンループカードは第3位で22%の割合(枚数ベース)である。しかし、クローズドループカード(平均券面額$20)に比べてオープンループカード(平均券面額$34)は額面の大きいものが選ばれる傾向にあるため、金額ベースに直すとオープンループカードのシェアが大きくなる。手数料が高いにもかかわらずオープンループカードは一般的に贈られており、成長もここ10年間ずっと続いている。