2017年3月8日8:10
2020年に向けて覚えておきたいカード決済の動向紹介
国内では、前払いのプリペイドカード、即時払いのデビットカード、後払いのクレジットカード、送金サービスなどの支払いが展開されており、今後もさまざまなサービスが生まれると思われる。「カード決済&セキュリティ強化書2017」では、国内外の支払い手段の動向や関連事業者の取り組み、加盟店の導入事例、セキュリティ対策などについて加盟店目線で紹介することを目指した。総括では、決済市場について概観する。
店舗独自のプリペイドカードの発行が増加
国際ブランドプリペイドも年々、発行が拡大
近年、スーパーマーケットやカフェチェーンなど、数多くの流通企業で発行されているのが、サーバ管理型のハウスプリペイドカード(ハウス電子マネーとも呼ばれる)だ。企業にとっては、プリペイドカードを発行することで、キャッシュフローの改善、CRMへの活用といったさまざまな施策が実現可能だ。今後は、CCCマーケティングが提供する「スマホサイフ」アプリと提携し、アプリ上でプリペイドカード「モスカード」の発行、登録、管理ができる「モバイルモスカード」のように、スマートフォンを活用したサービスも増えてくると予想される。
また、国際ブランドが発行するプリペイドカードもKDDIの「au WALLET」やLINE Payの「LINE Payカード」などの登場により、年々発行数が増加している。カード発行金融機関や加盟店にとっては、既存のクレジットカードのインフラが活用できることもあり、関心が高まっている。カードとしても、若年層への発行、バーチャルカードの展開、海外への留学生、給与の支払いなど、さまざまなニーズに対応できる。
非接触電子マネーは普及期に突入
ポストぺイ(後払い)はApple Pay、オンライン対応が進む
非接触電子マネーの動向をみると、日本では楽天の「楽天Edy」、セブン&アイ・ホールディングスの「nanaco」、イオンの「WAON」、「Suica」等の交通系電子マネーが代表的な存在となっている。「WAON」と「nanaco」は、ポイントサービスなど、グループの販促活動にも有効活用することで、年々、利用件数や取扱高が伸びている。「楽天Edy」でも「楽天スーパーポイント」を絡めた販促施策を積極的に展開。
2016年のトピックを挙げるとすれば、国内でサービスを開始した「Apple Pay」において、「Suica」を利用できるようになったことだ。Apple Pay におけるSuicaの設定として、利用者は手持ちのSuicaカード、My Suica、Suica定期券をiPhone 7、iPhone 7 PlusにタップするだけでApple PayにSuica情報を移行することができる。また、複数のSuicaをApple Payに登録し、利用目的に応じ使い分けることも可能だ。モバイルSuicaの会員数は、2016年8月末で約380万人だったが、2017年1月末で約428万人と50万人弱の増加がみられる。
ポストペイ(後払い)電子マネーとしては、JCBの「QUICPay」、NTTドコモの「iD」が国内で展開されている。
「QUICPay」は、クレジットカード搭載やモバイルに加え、クレジットカードサイズ以外の異形状タイプとして、エクソンモービルの「スピードパスプラス」、ANAの「ANA QUICPay+nanaco」、LDHと連携した「EXILE TRIBE QUICPay(コイン型)」、ウォルト・ディズニー・ジャパンと提携した「QUICPay for ディズニー★JCBカード」などを発行しており、高い稼働率を誇っているという。同社では2016年10月からの「Apple Pay」サービスに対応。これまでQUICPayモバイルに対応したスマートフォンは、Androidのみだったが、Apple Payの対応により、今後は大幅な増加が見込まれる。
QUICPayはEMVCoのトークナイゼーションのフレームワークができる前からサービスを行っており、トークナイゼーションの先駆けと言えなくもないが、米国や英国でのApple Pay同様に、今回の日本でのApple PayはEMVCoのフレームワークに沿った形で実装されている。EMVCoのメンバーでもあるJCBブランドとしては、JTP(JCB Tokenization Platform)というトークンプラットフォームをリリースしており、EMVCoのフレームワークをベースに運用を実施しているそうだ。
また、デビットカードやプリペイドカードとして利用可能な「QUICPay+(クイックペイプラス)」をリリースしたことで、幅広い会員にサービスを利用してもらえる体制が整ったとしている。
一方、NTTドコモの「iD」の注目度も「Apple Pay」の開始により高まっている。ドコモの発行する「dカード」で実施しているローソンやマクドナルドでの高還元率施策等の効果もあり、iDの会員数は引き続き順調に拡大しているが、Apple Pay開始後はさらに好調に推移しているという。Apple Payの開始により、従来のAndroidに加え、キャリアを問わずiPhoneで利用できることがプラスとなった。また、「ソフトバンクカード」への採用をはじめ、ドコモ以外の携帯キャリア契約者の利用も増えていると考えている。さらに、全件オンラインによるサーバ型プリペイドのサービスを提供できるのがiDのネットワークの特徴であり「dカード プリペイド」やバークレーヴァウチャーズの「チケットレストラン・タッチ」は同仕組みで提供されている。
(図表)主要電子マネー、ポストペイの発行状況 | ||||||
楽天Edy |
Suica |
nanaco |
WAON (2017年1月末) |
iD |
QUICPay |
|
会員数 |
約1億190万枚 (モバイル会員数:約2,060万台) |
約6,309万枚(モバイルSuica会員数:約428万人) |
約 5,240万件(モバイル会員数:約 373万件) |
約6,330万枚 |
約2,357万枚 |
約489万会員 |
加盟店数(約) |
約47万5,000カ所 |
約68万2,010カ所(端末台数) |
約22万9,000店 |
約28万3,000カ所 |
約67万9,000台 |
約50万8,000台 (端末台数 |
月間売上・年間売上・利用件数 |
利用件数 |
約13,629万件(相互利用先含む) |
約17,600万件 |
年間利用金額:2015年度 2兆592億円 |
国際ブランドデビットはメガ・地方を問わずイシュアが増加
キャッシュアウトサービスの導入に向けた検討が進む
クレジットカード同様に、ペイメントカードの国際ブランド(VisaやMastercard、JCB等)が運営するインフラをそのまま利用できるブランドデビットの発行が拡大している。クレジットは設定された与信枠で利用するが、デビットは預金口座と直結した決済を行う。認証はクレジットと同様、加盟店での決済時に、サインか暗証番号(PIN)を用いる。
国内では主として銀行が発行主体になっているが、三井住友カードでは、2016年10月21日から、クレジットカード会社と銀行が共同で発行会社となる国際ブランド(Visa)付きデビットカード「SMBCデビット」の募集を開始した。同スキームは九州カードと西日本シティ銀行も採用しており、今後は全国のVJAグループ各社へ向けて積極的に展開していく方針だ。
国内では今回紹介する三井住友銀行やみずほ銀行などのメガバンクに加え、全国の地方銀行で続々と発行が開始されている。2017年以降もその数が増えることは間違いない。
また、金融機関が発行するキャッシュカードを利用して決済するサービスとして、ブランドデビットよりも国内での実績があるのが「J-Debit」だ。金融庁に設置されている金融審議会では、現金を小売業のレジなどで引き出すキャッシュアウトサービスの導入に向けた検討が進められ、2015年12月22日の「決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ」の報告書において、ITの進展等を踏まえた現行制度の見直しとして、「デビットカードを活用したキャッシュアウトサービス」についての報告がなされた。キャッシュアウトサービスの運用が開始されれば、J-Debitの利用が活性化され、ひいては銀行口座の利便性向上にもつながる可能性もある。
新たなプロダクトの開発を目指す金融機関
ブロックチェーンを活用した実証実験も
銀行では、前述のブランドデビット発行に加え、電子マネー/プリペイドの展開、モバイルを活用したサービスなど、新たなプロダクトの開発に力を入れている。たとえば、横浜銀行では、同行の口座と連動し、スマホアプリから即時に口座引き落としによる支払いができるサービス「はまPay」を開発。また、非接触電子マネーを活用した取り組みとして、広島銀行の「HIROCA(ヒロカ)」や福井銀行と福井新聞社の「JURACA(ジュラカ)」、中国銀行の「晴れの国カード」といったサービスが行われている。さらに、ブロックチェーンの実証実験を複数の金融機関が実施。また、住信SBIネット銀行のように、トランザクションレンディングや貯金アプリなど、新サービスを積極的に推進する金融機関もある。