アマゾンやBtoB、家電系が牽引し通販・EC市場は6兆円超えの成長 オムニチャネル化に伴い決済サービスも進化

2017年4月27日8:30

国内のBtoC EC市場は毎年堅調な伸びを示している。通販・EC業界の現状、大手モールの動向、オムニチャネル化の現状、越境ECの進展、決済とのかかわりなどについて、通販研究所の渡辺友絵氏に解説してもらった。

通販研究所 代表 渡辺友絵

成長要因はアマゾンをはじめBtoBやテレビ、家電系ECの躍進

通販・EC業界における直近の売上高(物販)として、1月に発表された業界紙2社による2016年度における数字がある。「通販新聞」が前年同期比5.8%増の6兆2,341億円(上位300社)、「日本流通産業新聞」が同2.1%増の6兆1,333億円(上位400社)と、多少の差異はあるものの、いずれも増収で6兆円市場を維持する堅調な伸びが続く。2016年8月の(公社)日本通信販売協会(JADMA)による集計でも前年同期比5.9%増の6兆5,100億円と拡大しており、まだまだ成長は続きそうだ。ただ、下のJADMAのデータからもわかるように伸び率はやや鈍化傾向で、7兆円の大台に乗るためにはさらなる勝機や取り組みが必要といえよう。

通販・EC 市場規模推計値と伸び率

成長の大きな要因として挙げられるのは、何といってもここ10年ほど首位を独走するアマゾンの存在にほかならない。今や物販ではほぼすべてのカテゴリーを扱う“総合EC企業”として君臨し、2位以下の追従を許さない存在へとますます巨大化している。

さらに市場の牽引役を担っているのが、事業者向けオフィス通販を手がけるBtoB企業の存在である。上の日本流通産業新聞のランキングによると、アマゾンに次ぎ2位に位置するアスクルが前年同期比13.1%増、5位のミスミが同11.7%増と2桁台の伸びを示し、大塚商会やカウネット、MonotaRoなどのBtoB通販企業もこの後に続く。アスクルは従来のBtoB事業に加え、BtoCの日用品ECサイト「ロハコ」事業が急成長していることも大きな要因となっている。個人向け日用品分野では今後、アマゾンとアスクルのせめぎ合いが過熱しそうだ。

上位10位には、テレビ通販を手掛ける企業が3社ランクインしている。4位のジャパネットたかたは、カリスマ創業者のあとを長男が2代目として継ぎ、一層の躍進が続いている。ランキング表は2015年12月期の売上高だが、直近の2016年12月期はおそらく過去最高の1,760億円という目標に達したとされる。通販専門チャンネルを通じて24時間生放送を展開する6位のジュピターショップチャンネルも、創業20年を迎えた2016年まで一貫して増収増益が続いた。毎年11月1日には創立記念のアニバーサリーセールを行うが、2016年は1日で過去最高の売上高28億7,000万円を達成している。9位のディノス・セシールはカタログ事業が中心ではあるものの、ここ数年はテレビ通販が好調で、全社の売上高底上げに大きく寄与した。

これらテレビ通販企業はテレビだけでなく紙媒体やECも強化しており、複数メディアを連動させたオムニチャネル化が増収の要因になっていることも見逃せない。

またジャパネットたかたを除くと上位10社には入っていないものの、商品ジャンルで見た場合に突出してして好調なのが家電系ECといえよう。ヨドバシカメラや上新電機、ビックカメラ、ヤマダ電機などがベスト30位内にほぼランクインしている。後述するが家電系EC企業はアマゾンに倣い当日配送といったリードタイム短縮化を強化しており、その取り組みも売上高拡大につながっているようだ。

業界を見渡すと家電系ECと同様に、リアル店舗を持つ他EC企業にも好調な動きがみられる。衣料品ではユニクロや丸井グループ、ユナイテッドアローズ、良品計画など、またカメラのキタムラやブランド品のコメ兵といった企業が、店舗とECを連動させるオムニチャネルに取り組み存在感を高めている。さらに、アパレル系で特筆すべきはファッションモ-ル「ZOZOTOWN」を運営するEC専業のスタートトゥデイで、売上高は前年同期を32%上回る大幅増収となった。

< 2016 年度決算ランキング>

大手ECモールはポイント強化やM&Aで競争が加速

2016年11月に公表された楽天の2016年第3四半期(7~9月)と、ヤフーの同年第2四半期(7~9月)の国内EC流通額を見ると、楽天は前年同期比10.0%増の7,554億円、ヤフーは同29.7%増の4,324億円とそれぞれ2桁の伸びとなった。楽天は導入したスマートフォンアプリや、楽天カードで商品を購入するとポイントが最大7倍となる「スーパーポイントアッププログラム」が寄与したとされる。ヤフーについては2015年にBtoBのアスクルが連結子会社になったことや、「Yahoo!ショッピング」の商品点数の大幅拡大などが貢献した。

楽天は日用品・生活用品販売の強化を目指し、2016年10月に爽快ドラッグを住友商事から取得し子会社化。すでに完全子会社化したケンコ-コムと連携させて競争力を高め、同カテゴリーに強みを持つアマゾンやヤフーに対抗する構えだ。ヤフーは2016年から物販に加えて「取り付けサービス」といった役務事業者の出店にも力を入れており、売り場の拡充を目指す。アマゾンは、2007年にスタートした優良顧客向けの有料サービス「Amazonプライム」をさらに強化。2017年もプライム会員向けのビッグセール開催やプライムマーク商品の拡大などを通じ、自社通販に加えてECモール「マーケットプレイス」の流通額を伸ばしていく。

一方でディー・エヌ・エー(DeNA)は2016年12月、ECモール「DeNAショッピング」と子会社のモバオクが運営する「auショッピングモール」をKDDIに売却。KDDIとDeNAは「auショッピングモール」で連携してきたこともあり、成長が鈍化していた2つのモールを一本化し、KDDIのインフラや資金力を活用することで競争力を高めていく。他有力モールに大きく水をあけられていた「DeNAショッピング」を、KDDIが「auショッピングモール」との結合により開始した「Wowma!」でどこまで成長させられるかに注目が集まりそうだ。

アマゾンと楽天は商品の「即日配送サービス」でも凌ぎを削る。注文から最短1時間以内で届けるプライム会員向けスピード配送「プライムナウ」は、専用配送拠点の増設により段階的にエリアを拡大し、2016年11月には都内23区全域をカバーできるようになった。多摩地区や神奈川、千葉、大阪、兵庫の一部地区でも展開し、対象商品は日用品や食品など約6万5,000点にのぼる。楽天でも最短20分で商品が届く「楽びん!」のサービスエリアを順次拡大しており、2016年10月には港区・渋谷区・目黒区・世田谷区の全域をカバーするに至った。

「即日配送」は家電系EC企業も注力しており、中でもヨドバシカメラは2016年9月、ECサイトでの受注後2時間半以内に商品が届くサービス「ヨドバシエクストリーム」を開始。それまで試験的に展開していたサービスの配送スピードをアップしたもので、受注後5分で商品を確保し、30分以内に出荷できる体制を整えた。都内23区と武蔵野市など4市の一部地域にて1点から無料で実施し、約43万商品が対象。家電にとどまらず、日用品や食品も充実させている。

またアスクルは2016年8月から、日用品ECサイト「ロハコ」で商品の受け取り時間を1時間単位で指定できるサービス「ハッピー・オン・タイム」に着手。商品の到着時間を30分単位で顧客に通知し、利便性向上につなげている。そのほかネットスーパーや食品宅配企業もリードタイム短縮に着手しており、日用品・食品を軸に「即日配送」の動きは今後も広がっていくと見られる。

この数年各社が挑戦している「オムニチャネル」に関しても、さまざまな取り組みが行われている。特にアパレルや雑貨などの実店舗を持つ企業はECとの親和性が高く、オムニチャネルの必須事項である「在庫の一元化」と「顧客データの統一」を実現させる動きが進む。

アパレル系ではユニクロを手がけるファーストリテイリングが、2016年10月の決算発表時にオムニチャネル戦略推進をフックとして掲げた。都内の多機能型物流センターを拠点とし、店舗とECサイトを融合させた「デジタルフラッグシップストア」の構築を進める。ECの購入履歴に応じた顧客別の商品情報発信や、セミオーダー商品の拡充、コンビニでの商品受け取りなどを同センター主導で手掛けていく。オムニチャネルの強化ツールとして導入しているのが、2016年10月に刷新した「ユニクロアプリ」だ。さまざまな場面で使用できるが、2016年に開始した店頭でのセミオーダージャケットの注文・決済にも活用している。店舗試着室で自分のサイズに合わせたジャケットを採寸し、注文し、レジでアプリを通じて決済。約1週間で自宅に届くというサービスで、アプリ活用をオムニチャネルの推進につなげる。

青山商事もECサイトに自分のスーツサイズを入力して予約し、店舗に商品を取り寄せて試着できるサービスを展開。2016年秋にはECサイトと融合した実店舗「デジタル・ラボ」を都内にオープンし、ECサイトの在庫チェックと購入ができる大型デジタルサイネージを複数台導入。接客スタッフも専用タブレットを使い、商品選びをサポートする。

“商品を試せない”というネックがあるECだが、中でも「靴」は商材として各社が苦戦してきた。そのため、オムニチャネル化を背景に最近は実店舗で試し履きできる動きが加速。新規客の開拓や継続購入客の囲い込みにつなげている。

丸井はもともと早い時期から、実店舗とECの在庫連携に着手。ネットで注文した商品を店舗で試着・返品・決済ができる「ウエブチャネルパーク」サービスを、オムニチャネル手法として展開してきた。店舗在庫の有無をリアルタイムで確認できるように構築されているが、購入前の試着ニーズが高い「靴」はサイズの種類が多いこともあって、1日当たり約1万クリックと他商材に比べて利用が多いことが特徴。また在庫表示を確認したユーザーの多くが1週間以内に来店し購入するうえ、靴の購入をきっかけに関係性が始まる顧客は継続率も高いという。今後もECのフックとなる靴を軸に、オムニチャネル化を推進する考えだ。

大手総合通販の千趣会も2016年秋から、オリジナルの婦人靴ブランド「ベネビス」の実店舗販売に乗り出した。3月に事業譲受予定のJフロントリテイリングとの協業として共同ブランド化し、大丸松坂屋百貨店の全国9店舗で販売。自社の通販カタログやECサイトでは店頭販売している商品にマークを付け、店頭で試し履きできることをアピールする。さらに店頭でのカタログ配布や、端末から在庫確認し顧客宅に配送するサービスなども進めていく。

千趣会のオリジナル婦人靴ブランド「ベネビス」は店舗でも販売(千趣会HP より転載)

靴とアパレルのECサイトを運営するロコンドも、2016年8月から百貨店への売り場設置を開始した。そごう・西武の4店舗で商品を扱うことで、新規顧客層の開拓を見込む。店頭に希望の商品がない場合はタブレットを使い自社ECサイトから店舗に取り寄せ、後日試着してもらう。試着や交換、返品が店舗で可能なことから、高価格帯の商品の売れ行きに期待している。

期待通りには進まない越境EC

中国EC最大手のアリババグループは、2016年11月11日に実施した「独身の日セール」の取引高が前年同日比32%増の約1兆8,700億円になったと発表した。アリババのBtoCモール「天猫(Tモール)」では、ファーストリテイリングが売り上げを伸ばし、女性アパレル部門でトップの売り上げを記録。国外企業向け越境ECモール「天猫国際(Tモールグローバル)」では、紙おむつを扱うユニ・チャームや子供服のミキハウス、日用品ではアスクルの「ロハコ」が好調で、前年以上に売り上げたという。

ただ、2015年の「独身の日」に「天猫国際」で4億5,000万円というトップの売上高を記録し話題となったドラッグチェーンのキリン堂は、2016年の同日は大幅な減収だった。中国の税制改正によりそれまで非課税だった商品にも税金が課せられるようになったことや、夏以降の円高元安進行などが影響したという。

日用品や製薬、食品など大手メーカーの越境ECもある程度進んでいるが、まだテストマーケティングや海外事業強化の一手段という域にとどまっている。2016年半ばまでは小規模ながらも好調で推移したものの、税制や為替の影響を受けやすいリスク面から、現状では大規模投資を控えている様子がうかがえる。訪日客のリピート購入を目的に複数企業が越境ECサイトの開設を進めていたが、2016年半ば以降は“爆買い現象”も沈静化しており、当初描いていたような成長戦略の実現はなかなか難しそうだ。
進化するEC決済サービス

EC 市場の拡大に伴い、決済手段も様変わりしている。代表的なのはEC モールが手がけるID 決済で、会員登録やクレジットカード情報の入力が不要という手軽さ・スピードや安心感、ポイントの蓄積・活用などのメリットの高さからユーザーに浸透。導入するネットショップも増加し、EC のメジャーな決済手法として定着しつつある。

アマゾンの「Amazon Pay」や楽天の「楽天ペイ」、ヤフーの「Yahoo !ウォレット」などがあるが、最終的にはユーザーがどのEC モールのポイントを貯めて活用しているかが選択基準となるだろう。

PayPal もアカウント決済する際にチェックボックスをオンにしておけば、180 日間は別サイトで買い物をしてもID やパスワードを入力せずに済む「OneTouch」決済を導入しており、EC決済の迅速化は今後も進みそうだ。

また楽天は、登録したクレジットカードで実店舗でもスマートフォンを使って買い物ができる新決済サービス「楽天ペイ」を2016年12月に開始。専用アプリをダウンロードするだけで店頭でのカード決済が可能なうえ、楽天スーパーポイントも貯まる。さらに4月からは、「楽天市場」出店者向けの新決済プラットフォームとして「楽天ペイメントサービス」をスタートさせる。標準搭載の決済手段を拡充・一本化することでユーザーの利便性向上につなげるだけでなく、「入金サイクルの統一化・短縮化」「不正注文検知機能の強化」といった店舗側のメリットも複数導入。振込確認などの面倒な決済業務の代行も実施し、店舗の負荷軽減につなげたいとしている。

楽天アプリの「QR ペイ」は店舗が端末で発行するQR コードを読み込み決済。ユーザーが自分で金額を入力する「セルフペイ」もある(楽天HP より転載)

期待されるスマホEC、CRMやAIもキーワードに

業界内では2017 年にEC 市場が拡大するとの予想が目立つが、要因としては2016 年に続きスマートフォンEC の伸びが挙げられる。実店舗のオムニチャネル化に伴い、スマートフォンやタブレット、決済
アプリなどの活用の場は確実に広がるだろう。ただ市場の成長を受けプロモーション費用やCPA(新規顧客獲得費用)も高騰していることから、“ 顧客の維持・育成” を狙うCRM 施策がこれまで以上に重要視され、強化や深化が進むと見られる。

さらに、新たなキーワードとして注目度が高くなりそうなのがAI(人口知能)だ。EC 業界でも2016 年はカスタマーセンターや物流センターで活用が始まっており、その技術力や可能性は一層伸びていくと思われる。

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