2018年2月26日7:00
銀行法施行規則改正を受け、この4月からスタート
キャッシュレス化推進の起爆剤となり得るか――?
2017年4月に施行された、銀行法施行規則改正に伴う規制緩和を受け、2018年4月2日から、いよいよ日本でJ-Debit「キャッシュアウトサービス」が開始される。キャッシュアウトサービスとは、デビットカード(キャッシュカード)を用い、買い物がてら店舗のレジで自身の銀行預金口座から現金を引き出すことができるサービスで、欧米をはじめとする海外ではごく一般的に行われているという。これによって消費者の利便性がどのように向上し、キャッシュレス化の進展にどのような影響を及ぼすのかについての情報を提供することを目的に、日本電子決済推進機構では2018年2月22日、「キャッシュレス社会に向けたJ-Debit新展開メディア向け勉強会」を開催した。
店舗のレジで銀行口座から現金引き出し
利用者、加盟店双方にメリット
J-Debitは2018年2月現在、1,073の金融機関、全国56万カ所以上の加盟店の参加を得てデビットカード決済サービスを展開している。CAFISを介してキャッシュカード発行金融機関に口座引き落とし要求を行い、利用代金を即時引き落とし。J-Debitのクリアリングセンターでまとめて資金決済処理を行い、1日ごとに金融機関間の手数料精算を行う、シンプルで低コストな決済システムであるそうだ。
米国をはじめ海外の多くの国々において幅広く利用されているデビットカード決済であるが、日本ではまだ限定的な利用にとどまっているのが現状だ。今回、2017年4月に施行された銀行法施行規則改正に伴う規制緩和を受けて、4月2日から開始されるキャッシュアウトサービスが、J-Debitの利用拡大、ひいては日本のキャッシュレス化推進のインパクトとなることが期待されている。
キャッシュアウトサービスとは、買い物がてら店舗レジで銀行口座から現金を引き出せるサービス。利用者にとっては、ATMに立ち寄る必要がなく、場合によってはATMよりも低い手数料で現金を引き出せるというメリットがある。また、加盟店にとっては、ATMを設置するよりも安いコストで同様のサービスを提供できるというメリットがある。
スーパー、ドラッグストアがメインターゲット
高齢者施設や宅配サービスなども視野に
キャッシュアウトのメインターゲットは、日常的な利用頻度が高く、平均購買単価が5,000円以下の、スーパー、ドラッグストア、ホームセンターなどの小売業。こういった店舗では現金払いがほとんどで、キャッシュレス比率は数パーセントにとどまっていると言われているが、キャッシュアウトサービスを導入することで、これまで現金払いを利用していた人をデビットカード決済に誘導したい考えだ。4月2日のスタート時から、イオンの本州と四国の一部店舗でキャッシュアウトサービスが提供されることが決まっている。
高齢化、過疎化が進む中、身近な場所でATM機能を提供することは、地域貢献にもつながる。店舗レジのほかに、高齢者向け住宅や地域コミュニティ施設で、あるいは、宅配サービスで家庭を訪問する際などにサービスを提供することも視野に入れる。
日本電子決済推進機構では、キャッシュアウトサービス運用に関するガイドラインを策定している。取扱額は加盟店金融機関と取り決めた上限額(5万円程度)の範囲内の1,000円単位で加盟店が自由に設定。サービス提供時間も加盟店が自由に設定。現金不足が予想される場合にはサービスの提供を中断してもよい。手数料の上限額は1万円以下の場合には100円(税抜き)、それ以上は200円(税抜き)としている。
キャッシュレス化の推進によってエコライクな社会の構築を
日本社会をキャッシュレスに突き動かすモチベーションを提供?
「キャッシュレス社会に向けたJ-Debit新展開メディア向け勉強会」では、「J-Debitキャッシュアウトへの期待と小売業へ与えるインパクト」と題したトークセッションが行われた。
日本の民間最終消費支出に占めるクレジットカード、デビットカード、電子マネー決済の割合は、18.3%(2015年、BIS統計)。韓国の90.0%、シンガポールの56.0%、オーストラリアの55.1%などと比べて低く、キャッシュレス化の推進が課題となっている。
レジで現金をわたすキャッシュアウトは、キャッシュレス化に逆行するのではないかという声も聞かれるが、矢野経済研究所 ICT・金融ユニット 主任研究員 高野淳司氏は、「キャッシュレス化が進むプロセスの中のエコシステムの1つととらえるべき。現金をゼロにするにはまだ時間がかかり、少額の引き出しが必要になる。その役割を担うのがキャッシュアウト」と説明した。
野村総合研究所 金融ITイノベーション事業本部金融デジタル企画二部 上級コンサルタント 宮居雅宣氏は、「高野氏に同意する」とし、前提条件としてどこでも現金が引き出せる環境が整い、「いつでも簡単に現金が引き出せる状況ができることで、多額の現金を持ち歩かなくなる。キャッシュレス化を側面から支援するものです」と語った。
日本電子決済推進機構 事務局長 廣﨑善啓氏は、ATMの電力消費量、現金輸送にかかわるCO₂排出量など現金のハンドリングにかかるコストは年間8兆円とも言われていることに言及。「キャッシュレス化の推進は、エコライクな社会の構築につながります。われわれはこれまで、日本社会をキャッシュレスに突き動かすモチベーションを提供できていませんでしたが、これを伝えることによって、日本人の意識を変えることができるのではないでしょうか」と進言した。
※一部誤解を招く表現があったため、内容を加筆させていただきました。