2018年11月21日5:40
■NFC ForumのCo-Chairman(議長)を務める田川晃一氏インタビュー
NFC の国際標準化団体であるNFC Forum(NFCフォーラム)は、2018年11月6日~8日まで東京でアジアでの総会を大日本印刷本社(新宿区市谷)で開催した。NFC ForumのCo-Chairman(議長)を務める田川晃一氏(大日本印刷)に、直近のNFC関連のトピックスと同フォーラムの活動について話を聞いた。
北米総会をGoogle、アジア総会を大日本印刷で開催
AndroidとiOSともにかざすだけでNFCタグの読み取りが可能に
――まずは、大日本印刷様の本社で総会を開催することになった経緯からお聞かせください。
田川:今年から、メンバー総会の開催場所を可能な限りメンバー企業で行う取り組みを開始しました。今年3月の北米総会は、サニーベールにあるGoogle本社の施設で行いましたが、メンバー企業で行うと、その企業に対し、親しみがわきます。NFCフォーラムの総会は年3回ありますが、来年の夏はシュツットガルトのソニーで開催する予定であり、メンバーの密結合を図っていきたいです。私自身、ソニーから大日本印刷に移り、1年と数カ月となりますが、昨年8月の(最上位の)ボードメンバーの会議は大日本印刷で開催して新たなる決意を表明しています。今回、大日本印刷での開催に向け、ソニー様などの協力をいただきました。
――NFCに関して、ここ1年での大きな動きについてはいかがでしょうか?
田川:最初に、Apple様が2018年9月12日に発表したiPhoneXS/XRシリーズにおいて、アプリを起動せずにNFCタグを使えるようにOSレベルでバージョンアップしてくださいました。これにより、スマートフォンの利用者は、アプリを立ち上げることなく、ワンタッチでタグを読むことができます。AndroidとiOSでは、かざすためにしなければいけないことが違いましたが、いよいよこの差が小さくなったため、今後はかざしてNFCタグを読むのが入口のアプリケーションが増えてくると感じています。IoTのNFC活用もその一例ですが、NFCフォーラムの組織の中には、IoTワーキンググループの活動があり、Apple様がチェアを務めており、積極的な活動とご発言をいただいています。
大日本印刷でもNFCタグのソリューションを取り扱っていますが、AndroidとiOSの挙動の違いを指摘する声が減り、サービスを広げていく好機であると感じています。同様にソリューションに特化したスタートアップ企業は国内でも海外でも盛り上がっています。
自動車のドアロックに加え、車載器での活用も進む
公共交通のRFアナログ規格/デジタル規格の統一に向けた活動がまとまる
――NFCの普及が進んだ業界についてはいかがでしょうか?
田川:業界別で見ると、自動車のドアロックでNFCの採用が進みました。NFCフォーラムでは、欧州の「カー・ コネクティビティ・コンソーシアム(CCC)」とリエゾン契約を結び、この市場を立ち上げてきましたが、ドイツ車を中心にドアロックにNFCが活用されています。また、電気自動車でもテスラの「Model 3」でNFCのドアロックが付いています。日本の自動車メーカーでも、以前からNFC活用のコンセプトはありましたが、CCCの規格の発表以降、大日本印刷にも自動車メーカーや部品のサプライヤーからお問い合わせが入り始めています。
また、欧州には、「Consumer Electronics for Automotive(CE4A)」という組織があり、自動車の車載器の活用をプロモートしています。たとえば、スマートフォンの中にドライビングポジションのデータが入っていて、車側のNFCリーダライターにタッチすると設定できるといった用途など幅広いNFCの活用が検討されています。
さらに、鉄道分野では、モバイルの標準化団体「GSMA(GSM Association)」、欧州の鉄道団体「CEN」などとともに、公共交通のRFアナログ規格とデジタルの通信規格のハーモナイズに向けた活動を3年にわたり行ってきました。JR東日本様のご尽力もあり、公共交通を中心とした互換性向上を実現するハーモナイゼーションができましたので、今後の広がりに期待しています。
スマホの決済端末活用は災害対策でも有効に
モノがつながるIoTでのNFCの活用に期待
――NFCの活用に向けた今後の注目点についてはいかがでしょうか?
田川:NFCのリーダライタモードは、NFCタグを読むだけの機能では、もったいないと感じています。JR東日本様が「Suica」で実証されたように、スマートフォンのリーダライタ機能をアタッチメント無しで決済端末として活用できる拡張性があります。屋外のフリーマーケットやリフォームといった訪問販売などでは、最適なアプリケーションになりえます。
たとえば、北海道胆振東部地震の際、通常の決済端末で電子マネーやクレジットカードが利用できない事態が起きました。その対策として、政府からスマートフォンに差し込み式のリーダライタを付けて電子マネー対応する案が出ましたが、スマートフォンをそのまま決済端末にした方が効率的です。特に日本は災害が多いので、フォーラムとしても積極的にプロモートしていきたいですね。
また、IoT(Internet of things)の世界では、Wi-Fiの接続設定を含めて、無線ネットワークにつなぐための役割が期待されます。その先にNFCフォーラムで議論を進めているワイヤレス給電が普及すれば、眠っている機器に電力を与えて通信することも可能になります。バッテリーレスのIoTの世界におけるNFCの活用には注目していきたいです。
総会でNFC搭載ロボット、AI什器のデモを実施
DNP社員が考案した2つのソリューションも展示
総会では、NFCフォーラムメンバー向けにNFC関連製品・サービスの展示を行った。
その1つとして、ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ、ソニーモバイルコミュニケーションズの協力を得て、NFCリーダー機能を搭載したコミュニケーションロボット「Xperia Hello!」とマルチサービスリーダモジュール「RC-SB00」を活用した無人決済のデモを実施。「Xperia Hello!」の筐体には、カメラ、ディスプレイ、NFCリーダー機能、人感センサーを搭載。利用者は、「Xperia Hello!」の背中にFeliCaなどのICカードをかざすと、ロボットとコミュニケーションを図りながら、決済、認証が可能となる。
また、NTTコミュニケーションズの協力を得て、「AI NFC Cabinet」を展示。NTTコミュニケーションズの「COTOHA Virtual Assistant」は、的確な応答やコミュニケーションを実現
さらに、大日本印刷では、総会に向け、同社社員を対象にハッカソンを実施。8つのチームに分かれてアイデアを出し合ったが、その優秀2作品が展示された。
1つが、スマートフォンレスでのナビゲーションシステム「Dorothy(ドロシー)」で、靴にNFCタグを入れて、ポールをキックをするとナビゲーションのサービスをスマートフォンなしで手ぶらで受けられる。同サービスは、誰でもわかる、シンプルな矢印ナビとして、交通分野で活用できないか検討している。
また、「Life Design Cube(ライフデザインキューブ)」はキューブ型の6面にNFCタグが搭載されており、各面に「買い物」「写真を撮る」「SNSに投稿する」「お駄賃送金」といった機能が書かれており、お年寄りなどの利用者はかざすだけでサービスが受けられる。
なお、大日本印刷として、2018年は、みずほ銀行で「DNPモバイルWalletサービス」が採用された。Android向けの「スマートデビット」、iOS向けの「Mizuho Suica」をローンチさせた。また、NFCのHCE(Host Card Emulation)技術を活用し、現金の入出金が可能な「DNPモバイルキャッシュサービス」をイオン銀行に導入したように、ペイメント分野で大きな進展がみられた1年となったそうだ。