QR/バーコード決済、キャンペーン展開によるシェア争奪戦はしばらく続く? 利用者の90%が継続利用意向ありと回答、非利用者の取り込みがカギ

2019年11月13日8:20

J.D.パワーがQRコード・バーコード決済の顧客満足度調査を実施

顧客満足度の調査・コンサルティングの専門機関であるJ.D.パワー ジャパンは、2019年7月に初めて、QRコード・バーコード決済に関する顧客満足度調査を実施した。QRコード・バーコード決済は、各方面から多数のプレーヤーが参入し、キャンペーン展開によるシェア争奪戦を繰り広げている注目の分野。利用者の満足度は高いものの、日常的に利用している層はまだ全体の3分の1ほど。収益モデルも確立しているとは言えず、定着までには課題も多い。同社ではこれについて、今後半年ごとにリサーチを行い、マーケット構造の変化を見ていくことにしている。

中国や米国など海外の概況について語るJ.D.Power SVP&General Manager Global Business Intelligence Keith Webster(キース・ウェブスター)氏

注目が集まるも、実際の利用は4分の1にとどまる
利用意向は高く、キャッシュレス化推進の牽引力として期待大

J.D.パワー ジャパンが2019年8月に実施したキャッシュレス決済に関する実態・意識調査によると、過去1カ月以内に利用したキャッシュレス決済方法はクレジットカードが74%、電子マネーが64%に対し、QRコード・バーコード決済は24%。一方、今後の利用意向では、クレジットカードが70%、電子マネーが64%と現状の利用比率と変わらないのに対して、QRコード・バーコード決済は40%と上昇傾向にある。各社が展開するキャンペーンによって認知度が高まったことに加え、消費税増税を機に保守層が利用の検討を始めているものと見られ、今後の日本のキャッシュレス化の推進力として期待が集まる。

J.D.パワー ジャパンでは2019年7月、直近3カ月以内にQRコード・バーコード決済を利用したユーザー3,000名を対象に満足度調査を実施した。複数のサービスを利用しているユーザーには、現在メインで使っているサービスについての満足度を聞いた。

総合的な顧客満足度に影響を与えるファクターを設定し、各ファクターの詳細評価項目に関するユーザーの回答をもとに、主要6ブランドに対する総合満足度スコアを、1,000ポイント満点で算出。結果、顧客満足度ランキングでは、PayPayが638ポイントでトップ、次いでメルペイが624ポイントで2位、LINE Payが621ポイントで3位、d払いが612ポイントで4位、楽天ペイが607ポイントで5位、au Payが603ポイントで6位となった。全体平均は622ポイントであった。

ポイント/キャンペーンの“お得感”を重視する日本
アプリの使い勝手を合わせて満足度への影響度は半分以上

顧客満足度に影響を与えるファクターとして設定されているのは、影響度の大きい順に「キャンペーン/ポイントサービス」26%、「決済手続き/管理」26%、「アプリのアカウント設定」18%、「利用できる店舗・ウェブサイト」16%、「セキュリティ/不正利用防止対策」14%。「決済手続き/管理」とはアプリを起動してから決済認証までのスムーズさ、出入金の履歴やポイント管理といったアプリの使い勝手を指し、これと「キャンペーン/ポイントサービス」を合わせると顧客満足度への影響度の半分以上を占める。

日本においてポイントプログラムの影響度は高く、クレジットカードでも33%と、クレジット機能(36%)という本来の機能と同等のウエイトで顧客満足度に影響を及ぼしている。例えばアメリカでも、ポイントプログラムを含むリワードの影響度は決して小さくはないものの16%にとどまっており、「“お得感”によってマーケットが動くのが、日本の大きな特徴」と、J.D.パワージャパン 常務執行役員 Global Business Intelligence部門長の梅澤希一氏は指摘する。

J.D.パワージャパン 常務執行役員 Global Business Intelligence部門長の梅澤希一氏

QRコード・バーコード決済を利用し始めた理由でも、「ポイントが付与される」(55%)、「各種キャンペーンが魅力的だった」(50%)が1位、2位を占める。日本では現在、多数のプレーヤーがユーザー獲得にしのぎを削っており、当分は各社の白熱したキャンペーン合戦が続くものと思われる。

 

使ってメリットを実感 利用者の継続意向は高い
保守派をどう取り込み継続させるかが今後の課題

日本におけるキャッシュレス決済は一貫して成長を続けているとはいえ、2008年から2017年までの10年間の成長率はわずか6.2%にすぎない。さらにQRコード・バーコード決済に限れば、ユーザーは全体の3分の1ほど。その中で、「ほぼ毎日」利用しているのは6%、「2~3日に1回程度」利用が19%、「1週間に1回程度」利用が28%と、日常的に利用しているのはまだまだごく一部の層にとどまっている。
QRコード・バーコード決済利用者の、継続利用意向を見ると、「ややそう思う」(56%)、「非常にそう思う」(34%)を合わせ、90%が継続意向を示している。増額意向に関しても、「ややそう思う」(44%)、「非常にそう思う」(11%)と半数以上が前向きな回答を寄せている。一度利用すれば継続の可能性は高く、非利用者層をいかに取り込むかがこれからの重要課題といえよう。

前述のJ.D.パワー ジャパンのキャッシュレス決済に関する実態・意識調査(2019年8月実施)で、スマートフォン決済のイメージを、経験者と未経験者に分けて集計したところ、「不正利用される不安がある」(経験者45%、未経験者52%)、「個人情報漏えいの不安がある」(同38%、45%)、「お金の無駄使いや使いすぎの不安がある(同32%、30%)といったネガティブイメージにはそれほど大きな分布の差は見られないが、「ポイント還元や割引クーポンでお得になる」(経験者55%、未経験者23%)、「現金を持ち歩くわずらわしさがない」(同44%、28%)、「支払いが素早くなる」(同44%、26%)といったポジティブイメージには大きな開きが見られた。使ってメリットを実感することが、ポジティブイメージの生成につながると考えられ、この点からもユーザーの拡大が今後の重要課題といえる。

目まぐるしく変化しながら拡大するマーケット
早々にプレーヤーの統合が進むーー?

中国でQRコード決済が急速に普及した背景には、現金の盗難リスクや偽造リスクが高いこと、そもそも確立された決済インフラが存在していなかったことがある。加えてEコマース系のAlipay、通信系のWeChat Payの2ブランドの寡占状態にあることで、マーケットが混乱することなく、スムーズな普及が実現した。

対して、決済インフラが整っているアメリカは、日本と似たような状況にある。ただ、新しいものを採り入れることに積極的な国民性もあり、日本と比較すれば普及のスピードは速いという。

「プレーヤーが多すぎると、ユーザーはどれを使うか悩んでしまう。プレーヤーにとってもコストがかかり、収益化が難しい。競争の中で、いずれ統合が進んでいくでしょう。一方、ユーザー層が拡大することで、サービスの評価軸も大きく変わり、マーケットの様相は一変する可能性があります」(梅澤氏)。同社では当面、QRコード・バーコード決済に関して年2回リサーチを行い、随時状況の変化をレポートしていく意向である。

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