2020年3月10日8:00
レストランQRコードオーダー、店内案内、VIP顧客向け会員カードを展開
エイチ・ツー・オーリテイリング(H2O)は、インバウンド需要を取り込もうと中国ネットサービス大手の騰訊控股(テンセント・ホールディングス)との連携を強化している。全国16店舗を展開するグループの阪急阪神百貨店では、2018年からモバイル決済サービス「WeChat Pay(微信支付)」を導入、19年7月には、中国国外で初のWeChat Payスマート旗艦百貨店となった。
旗艦店でWeChat Payのシェアが上昇
飲食店や化粧品売り場の利用が目立つ
阪急阪神百貨店によると、大阪では、2013年ごろから中国人観光客が増加し、15年には「爆買い」がピークとなった。その後も右肩上がりで推移し、最近は広州など中国内陸部からも訪れるようになり、さらに増えてきているという。阪急うめだ本店の売上高におけるインバウンドのシェアは15%ほどで、そのうち約8割を中国本土からの顧客が占める。
阪急うめだ本店では、中国人観光客向けにクレジットカードで「銀聯」、モバイル決済サービスではPOSレジを連動させて「Alipay」、「WeChat Pay」を導入。国内向けには「PayPay」や「LINE Pay」、「メルペイ」などの決済サービスを取り入れている。
中国向けのモバイル決済サービスでは、当初はAlipayが強かったが、19年にWeChat Payスマート旗艦百貨店となってからは、独自キャンペーンの展開もあり、WeChat Payのシェアが上昇した。阪急阪神百貨店インバウンドマーケティング部ディビジョンマネージャーの白井康之氏は「単価の高い商品には銀聯カードを使われますが、レストランなど食品関連や、化粧品はWeChat Payでの決済が多いですね」と話す。
QRコードをスマホで読み込み注文
VIP顧客向け会員カードを電子化
阪急阪神百貨店では、18年のWeChat Pay導入を機に、主要4店舗でコミュニケーションアプリ「WeChat(微信)」の公式アカウントを開設。阪急うめだ本店ではWeChatを活用し、飲食店内に設置されたQRコードをスマートフォンで読みこんで注文する「レストランQRコードオーダー」、AI(人工知能)とのチャットで売り場やサービスを案内する「店内案内」、海外VIP顧客向け会員カードの電子化などに取り組む。
19年7月からは、中国人観光客向けにWeChat上で購入した化粧品を、阪急うめだ本店の化粧品エクスプレスカウンターで受け取れるサービスを開始。旅行の前から化粧品を注文・決済できるのが特徴で、売り場で待つストレスを軽減できる。
WeChatはすでに中国でサービスインフラ、コミュニケーションツール、エンターテイメントの手段となっており、中国人観光客は自国で同様の機能を使用している。
購入履歴から興味軸に沿った情報を発信
グループと連携したキャンペーンも
WeChatを活用した取り組みは徐々に充実してきているが、課題もある。2020年1月末現在、阪急うめだ本店の12店舗で利用できるQRコードオーダーの利用率は上昇傾向にあるが、サービスに気付かない中国人観光客もいるという。白井氏は「日本でも使えることが認知されていけば、利用率はさらに上がると考えています」と話す。
化粧品の受け取りサービスでは、人気商品だと対応が難しいこともある。注文から受け取りまでは通常1日かかるが、注文時間によっては翌々日になるケースもあるため、WeChatと在庫を連携させるシステムの構築や、タイムラグの短縮など改善を図っていく。
また、今後は購入履歴などこれまでに蓄積されたデータを分析し、飲食店でのメニュー開発や化粧品のキャンペーンなど顧客の興味に合ったきめ細やかなマーケティングに力を入れる。WeChatの公式アカウントについても、5万~6万人いるフォロワー全員に同じ情報を発信するのではなく、それぞれの興味に沿った情報を発信できるように、POS情報と連携させるシステムの開発を進める。
白井氏は「例えば、WeChat Payで化粧品を購入したお客様の興味軸に近い属性のお客様にアプローチするなど一歩踏み込んだマーケティングを展開したいです」と話す。WeChat PayやAlipayを導入しているグランフロント大阪や阪急三番街などグループのほかの商業施設と連携した大阪・梅田地区でのキャンペーン展開も検討していく。
カード決済&リテールサービスの強化書2020より