2025年7月22日8:00
和田 文明
連載の最終回(第5回目)は、インドネシアにおけるオルタナティブ(代替)信用スコアリングについて紹介してみたい。
インドネシアの金融包摂 <Index>
(1)インドネシアの金融包摂
(2)インドネシアのオープンAPI
(3)インドネシアのQRコード決済
(4)インドネシアの統一QRコード“QRIS”
(5)インドネシアのオルタナティブ(代替)信用スコアリング
インドネシアにおけるオルタナティブ(代替)信用スコアリングは、従来の欧米型のクレジットビュローの信用スコアリングとは異なる新しいタイプの信用情報とスコアリングモデルである。こうしたインドネシアのオルタナティブ(代替)信用スコアリングは、Akulaku、Kredivo、ModalkuなどのインドネシアのFinTech企業が取り組んでいる。インドネシアにおけるオルタナティブ(代替)信用スコアリングは、インドネシアにおける金融包摂の拡大とデジタル経済の発展を促進する社会インフラとして期待されている。
中国にも政府主導の中国人民銀行などによる金融信用情報(中国人民銀行信用情報センター)とは別に、巨大なプラットフォームを持つ民間テクノロジー企業も独自のオルタナティブ(代替)信用スコアリングシステムを運用している。支付宝(Alipay)や微信支付(We Chat Pay)といったQRコード決済で急速にキャッシュレス化が進む中国では、アリババグループ(Alipayの親会社)傘下のアントングループ(Ant Group)が運営する芝麻信用(Zhima Credit)に代表される従来の欧米型のクレジットビュローの信用スコアリングとは異なるオルタナティブ(代替)信用スコアリングが10年前の2015年にスタートしている。こうした中国のオルタナティブ(代替)信用スコアリングを提供する機関は、従来の信用情報機関とは異なるデータソースや評価方法を用いて個人の信用力の判断を行い、クライアントにスコアリング情報を提供している。中国のSNSアプリ大手のWeChatやQRコード決済の微信支付(WeChat Pay)を運営するテンセントも、独自のオルタナティブ(代替)信用スコアリングシステム“微信支付分”を運営している。
オルタナティブ(代替)信用スコアリングの芝麻信用(Zhima Credit)のデータソースは、主に支付宝(Alipay)の決済履歴、TaobaoやTmallなどの購買履歴、公共料金の支払い、SNSのつながりなど、アリババグループのエコシステムから得られる膨大なデータが中心で、一部、公共記録へのアクセスもユーザーの同意に基づいて行われている。芝麻信用(Zhima Credit)のスコアリングは、データソースから得られる信用履歴、債務返済履行歴、個人情報、行動・嗜好、人間関係の5つの要素に基づき、350~950点のスコアが算出される。スコアリングから得られるスコアが高いほど、さまざまな特典(レンタサイクルやホテルのデポジット免除、アントングループ(Ant Group)プラットフォームでの融資優遇、など)を受けられる可能性がある。
(表)は、インドネシアと中国におけるオルタナティブ(代替)信用スコアリングを比較したものである。
(表)インドネシアと中国におけるオルタナティブ(代替)信用スコアリングの比較
項目 |
インドネシア |
中国 |
主な推進主体 |
・FinTech企業 (Akulaku, Kredivo, Modalku など) |
・芝麻信用や微信支付分など民間テクノロジー企業 |
データソースの多様性 |
・通信料金の支払い履歴、ECサイトの利用履歴、配車サービス利用履歴、デジタル決済履歴、公共料金支払い履歴、など |
・支付宝(Alipay)や微信支付(WeChat Pay)などの信用履歴、債務返済履行歴、個人情報、行動・嗜好、人間関係のつながり、など |
データの収集方法 |
・主に提携企業からのデータ収集(ユーザーの同意に基づく) |
・民間プラットフォームによる自社データ収集 (ユーザーの同意に基づく場合もあり) |
スコアリングの目的 |
・主に融資など金融サービスへのアクセス提供 |
・行動規範の確立、金融サービスへのアクセス、行政サービスの効率化など多岐にわたる |
プライバシーへの配慮 |
・法規制整備が進められているものの、課題が多い |
・広範なデータ収集のため、プライバシー侵害が懸念されている |
透明性 |
・スコアリングのアルゴリズムや基準は企業によって異なり、透明性が課題 |
・社会信用システムにおいては、透明性や公平性に対する議論が多い |
規制当局の関与 |
・金融サービス監督機構(OJK) が監督、現在法規制の整備が進められている |
・関連法規や規制を整備が進められている |
越境データ利用 |
・国内利用が中心 |
・国内利用が中心 |
インドネシアのオルタナティブ(代替)信用スコアリングは、主に金融包摂の拡大を目的としており、いくつかのFinTech企業が主導し、銀行口座を有しておらず信用情報が不足して金融サービスへのアクセスが困難な層に対する金融アクセスを提供することに重点が置かれている。
インドネシアではスマートフォンやインターネットの急速な普及により、近年デジタル経済の成長に伴い、ECサイトや配車サービス、QRコード決済などの利用が拡大し、(表)のような多様なデジタルデータが大量に蓄積されつつある。これらのデータは、AI(人工知能)や機械学習を用いて分析され、オルタナティブ(代替)信用スコアリングとして、個人の信用力を評価する指標として活用されている。
(表)オルタナティブ(代替)信用スコアリングに用いられているデータ
通信履歴 |
携帯電話の利用状況、通話料金の支払い状況、など |
ECサイト利用履歴 |
オンラインショッピングの利用状況、支払い状況、レビュー、など |
配車サービス利用履歴 |
配車サービスの利用頻度、支払い状況、評価、など |
デジタル決済利用履歴 |
電子財布の利用状況、支払い履歴、など |
公共料金支払い履歴 |
電気、ガス、水道料金の支払い状況、など |
その他 |
SNS利用状況、位置情報、アプリ利用履歴、など |
各種資料より作成
インドネシアのオルタナティブ(代替)信用スコアリングの「データ収集」「データ分析」「クレジットスコア算出」といった仕組みは、(表)の通りである。
(表)オルタナティブ(代替)信用スコアリングの仕組み
データ収集 |
提携する通信会社、ECサイト、配車サービス、QRコード決済サービスなどから、個人の同意を得てデータを収集している |
データ分析 |
収集されたデータをAI(人工知能)や機械学習を用いて分析し、個人の支払い能力や信用リスクを評価する |
クレジットスコア算出 |
データ分析結果に基づいて、個人の信用スコアを算出し、金融サービス機関が融資など金融サービスの提供判断などに利用 |
各種資料より作成
インドネシアにおける主要なオルタナティブ信用スコアリング機関
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