2016年1月26日0:33
NEDOプロジェクトにおいて、東京大学、大阪府立産業技術総合研究所、トッパンフォームズ等のグループは、印刷で製造可能な有機半導体デジタル回路の高速化に成功し、世界で初めて商用ICカード規格で動作する温度センシングデジタル回路を実現したと発表した。今回開発した温度センシングデジタル回路の速度は、近距離無線通信の国際標準規格であるNFC(Near Field Communication)に準拠しており、低コストな温度センサ機能つきプラスティック電子タグとして、物流管理やヘルスケアなどの広範な用途への商品化に大きく前進したそうだ。
有機半導体は、現在、主に用いられているシリコンなどの無機半導体と比べて、①塗布法・印刷法といった簡便かつ比較的低温での作製が容易、②薄型、③低コスト、④プラスティックRFIDタグやフレキシブルディスプレイなどのユニークな用途が期待できる――といった特徴がある。しかしながら、簡便かつ低コストに成膜し、実際に商用周波数でRFIDタグと通信する高速応答性能を実現することは困難だった。
そこで、NEDOは、コア技術開発を行う研究機関とそれぞれが異業種に属する企業グループによる産学連携チームを構築し、有機半導体による革新的プラスティックRFIDタグの研究開発を組織的に推進している。
今回の成果として、有機半導体を塗布し結晶化させる技術を基に、高速応答用に設計されたチャネル長5μmの有機CMOS回路を集積化し、従来のスピードを1桁上回る世界最高速のDFF(D-Flip-Flop)回路によるデジタル情報処理を実現した。得られたデジタルデータを、13.56MHzの商用周波数で信号伝送することにも成功し、開発した有機半導体電子回路が、スマートフォンや交通機関用ICカードで一般的なNFC規格に準拠できることを実証した。独自開発した塗布して作れる有機デジタル温度センサと組み合わせて、従来の塗布型有機半導体よりも、10倍以上高い性能で、1/10以下の低コスト化が可能な印刷法で形成できるため、プロジェクトの目標である温度検知機能つき物流管理タグの商品化に大きく前進したという。
そのほか、商用規格に準拠した軽く、薄く、曲げられ、低コストな温度センサ機能つきプラスティック電子タグとして、工程管理やヘルスケアなどの広範な普及が期待される。
今後、NEDOプロジェクトにおいて、開発を進めている温度センサを搭載した物流管理用RFIDタグの試作を進め、実用化への研究開発を行う。また、東京大学内に組織した、有機材料開発からパネル部材、装置開発、デバイス開発を行う企業とのコンソーシアム「ハイエンド有機半導体研究開発・研修センター」では、RFIDタグに限らず、高速動作の有機エレクトロニクスデバイスの開発を広範に目指しているという。