2017年4月27日8:00
大日本印刷(以下:DNP)は、2017年4月から、元ソニーの田川晃一氏をC&Iセンターグローバル標準化渉外 ジェネラルマネージャーとして迎え入れた。2008年からNFCフォーラム・チェアマンを務める田川氏が就任したことにより、国内はもちろんグローバルでNFCビジネスをリードし、技術やサービスを広げていく方針だ。
2014年10月にはNFCフォーラムのスポンサーメンバーに
今回、コ・チェア会社としてグローバルでNFCビジネスをリードへ
DNPは古くからICカードビジネスに取り組んでおり、NFCビジネスの展開も年々、強化している。2014年10月18日には、NFCフォーラムの最上級会員資格となるスポンサーメンバー(それまではプリンシパルメンバー)となり、理事会のメンバーとしてNFCの標準化活動に取り組んでいる。
NFCフォーラムの理事も務める大日本印刷 情報イノベーション事業部 C&Iセンター マーケティング・決済プラットフォーム本部 副本部長 土屋輝直氏は、「未来の国際社会に向けて、DNPとしてNFCビジネスにより力を入れて、便利で安心な社会にインフラを提供していこうとしています。現在NFCはIoT、オートモーティブ、トランスポート等新しい分野への拡大が期待されており、決済及びカードの分野で経験を積んできたソリューションベンダーとして、新しい分野へのサービス拡大に田川コ・チェアマンの力が必要であると考えました」と説明する。
NFCフォーラムでは2017年3月に役員選挙を実施。田川氏は、大手チップベンダーのNXPセミコンダクターズ社の アレキサンダー・レンシンク(Alexander Rensink)氏との共同議長(Co-Chairman)となった。大日本印刷 情報イノベーション事業部 C&Iセンター グローバル標準化渉外 ジェネラルマネージャー 田川晃一氏は、「重要なのは大日本印刷としてCo-Chair会社(議長を務める会社)となる意思決定を下したことです。この4月からDNPにジョインしましたが、3月の選挙の段階ではソニーも同意の上の全会一致の投票が行われました」と経緯を述べる。
田川氏はNXPのレンシンク氏と共同議長に
幅広いソリューションを提供する企業の立場からNFCの普及を推進
なお、NFCフォーラムでは、これまでは田川氏が単独で議長を務めていたが、この3月からレンシンク氏との共同議長となった理由には、NFCフォーラムをより発展させていくという意図があるそうだ。レンシンク氏は、ソニーとともにNFC技術を開発したNXPセミコンダクターズ社のメンバーだ。田川氏は、「ソニーでは多くのユースケースの開発に参加しましたが、家電のユースケースとして『ワンタッチ』での機器間通信を提供し、1つの時代を築きました。今後、NFCを世の中に広めていくためには、ペイメントや家電以外にもユースケースをさらに作らなければなりません。家電メーカーのソニーからソリューション会社のDNPに移ったことにより、新たな時代を築けるように努めていきたいです」と意気込みを見せる。
実際、DNPでは、NFCに関わる数多くのソリューションを提供している。まず、ISO14443 TypeA/BやFeliCaに対応したICカード及びR/Wモジュールを開発。認証から決済まで幅広い用途に活用可能だ。また、携帯電話のSIMカード(UIM)を国内のキャリアに提供している。
NFC決済の周辺領域でも、ブランドプリペイドカードのプロセッシングサービスや、3DSecure、クレジット/プリペイド/デビットといった様々な決済事業者との接続を束ねるマルチペイメントゲートウエイ、生体認証サービス等幅広いソリューションを展開中だ。
2015年には、NFC搭載スマートフォン等にモバイル決済サービスの機能をネットワーク経由で追加するクラウドサービス「DNPスマートデバイス向けクラウドペイメントサービス」を提供しており、日本でサービスが開始された「Apple Pay」でも国内のイシュア(カード発行会社)に採用された。「DNPスマートデバイス向けクラウドペイメントサービス」では、クレジットカード番号をダミー番号に置き換えるトークナイゼーション機能を有しており、イシュアに代わってPANをトークンに置き換えたり、トークンを元のPANに戻したりすることが可能だ。すでにJCBの「QUICPay」やNTTドコモの「iD」、MasterCardの「MasterCard Contactless」等のEMV決済サービスに対応している。
「Apple Payのスタートで、NFCへの関心はさらに高まっています。最近ではアメリカを中心にQRコードを活用した決済をマーチャントが導入するケースも増えていますが、イシュアは安全性が高く、端末をタッチするだけで支払いが可能なNFCを検討されるケースが多く、今年から来年は一気にNFCモバイル市場が立ち上がるとみています。また、従来のSIMに加え、クラウドベースのHCE(Host Card Emulation)などの方式も登場しています。イシュアによっては、複数の決済機能をモバイルWalletに積むケースもあるかもしれません」(土屋氏)
なお、DNPでは、FeliCa、TypeA/Bを搭載したスマートフォンに会員情報やクレジット情報などの個人情報をネットワークを通じて安全に発行するサービスである「スマートビューロ」を提供してきた。スマートビューロでは、FeliCa、TypeA/Bに対応した決済サービスに加え、航空会社の電子チケット、テーマパーク内ハウス電子マネーなどで使用されている。
スマートビューロは自動車向けサービスにも応用されている。「スマホに内蔵されたSIMカードに、携帯電話の通信回線経由で電子鍵を発行し自動車ドアの解施錠が可能となる“スマートフォンキーシステム”のプロトタイプもすでに完成しています。これはインターフェースとしてNFCだけでなくBluetoothを組み合わせることで利用シーンを広げており、モバイルNFCの新たな可能性を示しています」と、大日本印刷 情報イノベーション事業部 C&Iセンター マーケティング・決済プラットフォーム本部 モバイルペイメント企画開発部 第1グループ リーダー シニアエキスパート 高井大輔氏は述べる。
全てのOSやデバイスでNFC搭載を期待
DNPは2020年に向け、モバイルNFC関連ビジネスの更なる拡大を目指す
今後は、オートモーティブやIoT(Internet of Things)、トランスポーテ―ション分野でのNFC活用も期待される。たとえば、トランスポーテ―ション分野でのハーモナイゼーションでは、日本企業がグローバルな検討チームの指導的メンバーとして活躍している。中でもJR東日本は3月に発表された「NFC Forum Innovation Award」でも最終選考まで残り、高い評価を得たという。
田川氏は今後のNFCのさらなる広がりに向け、「NFCフォーラムでは標準化団体として、自分たちが推進している規格が産業界の声に応える必要があります。現状、NFCは主要OSプラットフォームによってはフル機能が載っていませんので、世界の全プラットフォーム、全デバイスがNFCフォーラムのフル機能を早く搭載して欲しいと感じています」と口にする。NFCフォーラムのNFC Forum Japan Task Forceでは、国内関係者への情報発信として「ジャパン・ミーティング」を実施しているが、次回5月16日の開催では「NFC Forum Innovation Award」などについても紹介される予定だ。
最後に、土屋氏に対し今後のDNPのNFCビジネスの目標について尋ねたが、「2020年にモバイルNFC関連ビジネスで30億円の売上を目指したい」と力強く語ってくれた。