Withコロナ時代の「新たな一歩」(デジタルペイメント・マーケティングを編む)

2020年7月30日8:00

カード戦略研究所 浅見俊介

三井住友カードと(株)顧客時間は「コロナ影響下の消費行動レポート」を5月7日に発表した。概要は同レポートを参照されたいが、新型コロナウイルス特効治療薬、ワクチンが登場するまでは、目に見えないコロナウイルスと距離を保った決済(代金支払い)生活が、自身と他者を守るとの意識が高い高齢者に浸透しつつあるようだ。

キャッシュレス事業関係者はピンチをチャンスにとの思いから、Withコロナをキャッシュレス促進のチャンスと捉えて反転攻勢の動きにでることは企業としては当然なことであるが、短絡的にチャンスと捉えるのはなく、Withコロナ時代におけるキャッシュレス事業者がどうあるべきか、リアル&バーチャル流通小売事業者と共に「新たな工夫」「新たな想像」と連動したWithペイメント新生活を提案することが求められる。

何故なら、Withコロナという言葉は、アフターコロナ=コロナの克服=経済のV字回復という図式を指すのではなく、コロナ危機・騒動をなかったことにするような思考に警鐘をならす意味を含んでいるからである。

元に戻すのではなく、新たな生活様式を実現させるためバックボーンを醸成し、新型ウイルスが発生する前の世界よりも持続可能な社会の実現に向けた「新たな一歩」が、決済事業者にも求められていると受け止める必要がある。

「新たな一歩」を考えるにあたり提案をひとつ試みたい。

高齢者市場のポテンシャル

上記レポートでは、クレジットカード利用額に占めるネット通販の割合と増加額を年代別に調査している。

 

20代

30代

40代

50代

60代

70代

1月

24.00%

23.20%

20.30%

17.40%

15.40%

10.90%

3月

26.90%

28.00%

25.60%

22.90%

21.90%

16.40%

増加

2.9

4.8

5.3

5.5

6.5

5.5

出典:三井住友カード調査より

新しい生活様式としてソーシャルディスダンシング、フィジカルディスダンシングが世界の標準となっている現在において、ネット通販・デリバリーは必要不可欠な業態であるが、高齢者にとって優先される「新たな決済生活」とはどのような様式なのか改めて考える必要がる。

一口に高齢者とってもデジタルとの距離からみると、遠い人、中間的な人、近い人まで多種多様である。上図はクレジットカード決済額の中でネット通販を利用した比率を年代別に表したもので、デジタル全般の利用を表わしたものではないが、「クレジットカード決済+ネット通販」市場で利用が少なかった高齢者にも増加の傾向が顕著になっていることを示したものである。

このデータから三井住友カードは「高齢者層のEC利用への『デジタルシフト』の兆候など、消費行動の変化が垣間見える』と分析し「この傾向を一過性の変化としてではなく、世代を問わないデジタルシフトの加速だと理解すると、ECサイトには高齢者にも使いやすい操作性や画面構成・表現の考慮が、これまで以上に必要とされるでしょう」と重要な指摘をしている。

内閣府高齢者白書によると「高齢者人口は、団塊の世代が65歳以上となった平成27(2015)年に3,387万人となり、団塊の世代が75歳以上となる37(2025)年には3,677万人に達する」と予測されている。

また同白書では「総人口が減少する中で高齢者が増加することにより高齢化率は上昇を続け、平成48(2036)年に33.3%で3人に1人となる。54(2042)年以降は高齢者人口が減少に転じても高齢化率は上昇傾向にあり、77(2065)年には38.4%に達して、国民の約2.6人に1人が65歳以上の高齢者となる社会が到来する」(推測)と指摘している。

出典:内閣府高齢者白書より

2018年時点での65歳以上の高齢者は3,558万人(人口比28.1%)、2025年には3,677万人と、人口減少の中での高齢者人口の増加が現実的な現象となり、高齢者市場へのアプローチは必須の課題である。

また高齢者の所得分布をみると、200万円以上~300万円が約24%、300万円以上~500万円が約28.4%、500万円以上が約12.5%と大別することができる。これらに貯蓄・不動産などの資産や家族構成を加味すると、高齢者市場のポテンシャルが見えてくる。

「新たな一歩」は高齢者市場へのアプローチ

新型コロナ感染が高齢者に与えた不安感は大きなものがある。特に死に直結する重篤化になる可能性が高い(他の年齢層と比較して)ことがTV映像などを通して繰り返されたことも影響して自粛生活が定着した。

その結果が上記レポートで報告された「クレジットカード利用額に占めるネット通販の割合が増加している」となるわけであるが、一方で外敵からの恐怖だけでキャッシュレス化が進むとしたら、それは一過性になるとの可能性も考慮しなくてはならない。

そこで考えるべきが、上記の「新型ウイルスが発生する前の世界よりも持続可能な社会の実現に向けた新たな一歩」である。

「高齢者をデジタル難民に追いやっては希望に満ちたデジタル社会・キャッシュレス社会は程遠い」との理念から「夢のあるデジタルキャッシュ生活」の提案を今こそ決済事業者は高齢者に向けて提案すべきではないだろうか。

JR東日本「大人の休日倶楽部カード」に学ぶ点

団塊の世代が75歳に達する2025年には高齢者人口(65歳以上)が約3,677万人になると予測されているが、その時代の高齢者の多くはPC・スマホ経験者(保有)が多くを占めることになるが、デジタル化の進歩に対して全ての人が理解し使いこなせるとも思われない。

少なくとも「経験不足」「不安」により使いたくとも使えない高齢者に向けた「丁寧な説明」の機会を意識的に増やす必要がある。

同時に「デジタルキャッシュ生活」の楽しさ、優遇など夢のあるサービスを提案することで、高齢者自身のモチベーションを高めることが重要である。

JR東日本「大人の休日倶楽部」は高齢者に特化した優待サービスとして運営されているが、女性60歳・男性65歳以上を対象に「大人の休日倶楽部ジパング」を展開している。

同倶楽部へは「大人の休日倶楽部ジパングカード」(クレジットカード)の申し込み・取得が入会条件となっている。

主な特典の一部を紹介すると、

出典:JR東日本HPから

この他、旅行傷害や会報誌などメニューも多彩で充実している。年会費は個人(3,840円+524円)となっている。詳細は同社HPを参照されたい。

同倶楽部で参考にすべきは、ミドルコース(50歳以上対象)を含め、高齢者に特化したコンセプトが運営面からも見て取れるということである。20%、30%割引の高齢者優待も評価できるが、それ以上「申し込み」から「入会」「利用」まで一貫して高齢者への配慮が見られる点である。

その一例が同社HPの質問&回答コーナーである。(以下、引用)

Q:ボールペンで記入して、記入内容を誤った場合はどうすれば良いですか。
A:
入会申込書につきましては、黒ボールペンで、はっきりとご記入ください。
記入内容を訂正する場合は、誤った箇所を二重線で消し、その上に訂正印(金融機関お届け印と同一のもの)を押印のうえ、正当内容をご記入ください。
※修正液・修正テープを使って訂正された申込書はお受けできません。

Q:退職後で現在無職ですが、これから年金受給を開始する場合、またはこれから再就職する予定の場合、年収はどのように記入すれば良いですか。
A:お申込み時点での年収をご記入ください。

Q:夫婦会員で入会を申込む場合で、引き落とし口座を同じ口座にしたい場合はどのように記入すれば良いですか。
A:夫婦会員にお申込みの場合で、ご夫婦いずれか一方の口座のご利用を希望する場合は、<夫婦会員 本人用><夫婦会員 配偶者用>の両方に、ご利用になる口座の口座名義人等やお届け印について同一内容をご記入いただいたうえで、「お申込人」欄はカードをお申込みになる方のお名前、生年月日等をそれぞれご記入ください。

Q:携帯電話を持っていないのですが、携帯電話番号の記入は必要ですか。
A:
年齢条件を満たし、日本国内にお住まいで電話連絡が取れる方であればお申込みいただけますので、携帯電話・固定電話のいずれかしかお持ちでない場合でもお申込みいただけます。お持ちのお電話番号をご記入ください。

このQ&Aで気づいたと思われるが、高齢者に寄り添ったコーナーに作り上げられているこことである。細かく言えば足りない点もあるが、大事なことは姿勢である。

高齢者の理解が成熟したデジタル社会へのパスポート

マイナンバーカード制度、あるいはキャッシュレス・ポイント還元事業など一連の政策は、本来は国民あるいは地域住民の安心、安全、福祉など向上を目途に施行されたものであるが、なかなか思った通りには進んでいない。

一番の原因は国民・地域住民の理解・納得である。そこで提案したいのが、最も理解・納得が難しいと言われる高齢者へのアプローチである。高齢者自らが「納得」の発信、「利用」の発信が生まれれば事態は変わる。

その一端をキャッシュレス事業者が企業のミッションとして取り組むことで、高齢者とキャッシュレス社会の距離が縮まれば、デジタル社会との距離はさらに縮まる。そのためには「大人の休日倶楽部カード」ではないが、如何に高齢者に寄り添ったポリシーの元で、丁寧な普及活動ができるかである。

今回のポイント還元策では、一部の商店街と連携してスマホQRコード決済の説明を高齢者や未習熟の消費者を対象に行った例もあり、そこでの取り扱いは確実に増えたはずである。

しかし多くの場合は、実際にダウンロードから申し込み・会員登録・利用可能になるまでに未達のまま諦めてしまう例も少なくなく、安心して自分のものとして利用できる高齢者は限定されている。普通の高齢者がスマホでもカードでも、実店舗でもネット(モバイル)でも普通に使う姿が一般的になるまで徹底して取り組むことが第一歩である。

高齢者=キャッシュレス難民・デジタル難民を解消するためには、暫くはアナログで説明、習得してもらうための機会、場所を官民が連携して設けることが、結局は早道である。

高齢者も一度習得すれば自信をもって利用するようになる。同居家族にいる高齢者は、お子供や孫から教えてもらうことが可能だが、一人、高齢者同居家族では、その機会が少なく、結局難民化する。

高齢者も詳しい層から未習得者まで階層があり、未習得者をベースとした習得のプログラムの実施と具体的機会・場所の提供を検討すべきである。

高齢者が最大の理解者、味方になれば、格差やデジタル難民とは隔絶した「夢のあるデジタル社会」に近づくことができるはずだ。

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