2022年5月19日8:00
業種別の標準料率公開により公平性や透明性を確保へ
経済産業省では、2020年・21年に有識者による「キャッシュレス決済の中小店舗への更なる普及促進に向けた 環境整備検討会」を開催し、2022年3月22日に取りまとめを公表した。同検討会では、クレジットカード等のコスト構造を分析するとともに、アクワイアラ(加盟店開拓会社)がイシュア(発行会社)に支払う手数料であるインターチェンジフィー(IRF、イシュア手数料)の国際ブランドによる公開が望ましいとし、今後標準料率の公開を求める方針だ。経済産業省 キャッシュレス推進室長 降井寮治氏に同検討会での議論の内容について説明してもらった。
オンアス取引の構造分析も実施
アクワイアラ側のコストが重複して発生するケース
国内のキャッシュレスは成長途上だ。2020年のキャッシュレス比率は29.7%だが、欧米などでは4~6割を占める国もある。日本政府では、2019年6月21日に閣議決定された「成長戦略フォローアップ」でキャッシュレス決済比率を2025年までに4割程度、2018年4月11日に策定された「キャッシュレス・ビジョン」で将来的には世界最高水準の8割を目指すとしている。経済産業省では、2019年10月から実施した「キャッシュレス・ポイント還元事業」等を通じ、店舗・消費者双方に対してキャッシュレス決済の利用を促進してきた。同事業後も9割の人がキャッシュレス決済を継続して利用しており、店舗も引き続き導入するなど、一定の成果を生んだ。一方で、「事業者からはポイント還元事業でもキャッシュレス決済手数料が高いという声がありました」と降井氏は話す。ポイント還元事業では、3.25%以下の手数料率を参加要件としたが、依然として加盟店手数料の負担が重いとの指摘があった。そこで、2020年から検討会を開始し、クレジットカードのコスト構造を分析し、21年2月に中間整理を取りまとめた。その結果を踏まえ、2021年度も3回にわたる検討会を引き続き開催し、クレジットカード等のコスト構造分析の詳細化やコスト低減に向けた取り組みの検討、キャッシュレス決済の推進の社会的意義の検証、店舗にとってのキャッシュレス決済導入のメリットの定量化・見える化を行った。
中間整理では、イシュイング(カード発行)とアクワイアリング(加盟店開拓)が異なるオフアス取引に関して分析したが、インターチェンジフィーや、アクワイアリング業務のネットワーク・運営費用、端末費用の割合が大きいことが把握できた。最終整理では、イシュイングとアクワイアリングが同一会社の「オンアス取引」に関しても構造分析を実施。オンアス取引時では、カード会社内でインターチェンジフィーと同水準での内部取引が行われる場合が多く、銀行振込手数料をはじめとするアクワイアラ側のコストが重複して発生するケースもあるため、アクワイアリング事業単体では利益が出しづらい可能性が高いとした。また、PSP(ペイメント・サービス・プロバイダー)が介在した場合に収益性が悪化すると考えられるのもオフアスの場合と同様だった。さらに、イシュイングのコストは、ポイント・会員サービスなどの販促費用、貸し倒れや不正対策などのコストも発生している。
検討会では、電子マネーやコード決済(QR/バーコード決済)に関してのコスト構造も並行して分析した。降井氏は「電子マネーやコード決済は、現金でチャージする際のコストはそれほどかかりませんが、クレジットカードと紐づくと手数料がかかってきます」と説明する。また、PSPなどが介在することによるコストも発生しているが、一方で、決済事業者とのやりとりの一本化による各種作業の簡素化、決済事業者の収益が改善する効果もあった。
IRF公開でコスト構造の理解促進
標準料率公開で手数料が適切かの議論が生まれる?
インターチェンジフィー公開に関する検討では、中間整理でも「公開が望ましい」という方針が提示されているが、今後は国際ブランドに要請をしていく。加盟店は、業種別のインターチェンジフィーが公開されれば、相場観を持って、アクワイアラ等との価格交渉や乗り換え検討が可能となる。現在、国内で標準料率を設定しているのは4パーティモデルの取引を基本とするVisaとMastercard、Union Pay(銀聯)だ。また、3パーティモデルとなるJCB、American Express、Diners Clubにおいてもアクワイアラとイシュアが異なる形態は存在するが、標準料率の設定は行われていない。そのため、公平性の観点から指摘を受けていたという。検討会では、「いずれのブランドのカードにおいても、インターチェンジフィーの料率、イシュイングコスト等、アクワイアリングとイシュイングのコスト配分に関する情報について、契約時や加盟店から要望があった際にアクワイアラから加盟店に対して十分な説明がなされる必要がある」とした。標準料率の設定のない国際ブランドの取引はカード会社などが店舗への説明を行う。PSPに関しても手数料に関しての適切な説明をするように要請する。
降井氏は「現在、キャッシュレス推進協議会のウェブサイトでは中小企業向けの加盟店手数料の平均値が公開されています。業種ごとに標準料率が出ると、標準料率と全体の手数料率を比較し、自分の業種で適切かという議論ができます」と期待する。例えば、中小企業はPSPを介して契約することが多いが、PSPがアクワイアラと調整し、コストが標準よりも高い場合には交渉するなどの対応ができる。実際に、公正取引委員会の調査でも価格改定の交渉を行ったり、複数の企業から見積もりを取っている場合は、平均加盟店手数料率は低くなった。
IRF公開で加盟店手数料が下がる可能性も
検討会メンバーからは公開に反対の意見も
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