2024年3月26日8:00
東武鉄道は日立製作所(日立)と共同で、生体認証を活用したデジタルアイデンティティの共通プラットフォームを立ち上げる。生体情報を暗号化する日立の特許技術「PBI」を用い、デジタル空間上に保存されている個人情報に、生体認証を活用して安全にアクセスする仕組みを提供。業種を横断してさまざまな企業に利用されるプラットフォームになることを目指す。まず今春、東武ストアの複数店舗に導入。顧客が店頭のセルフレジから、指静脈認証により、あらかじめ登録した生年月日、クレジットカード情報、TOBU POINT IDなどの個人情報にアクセスし、クレジットカードやスマホを取り出す手間なく、決済やポイント付与を行う実証実験を開始する。
多様な業種業態の企業が
共通で活用するプラットフォームを構築
東武鉄道は日立製作所(以下、日立)と共同で、デジタル空間上に保存された個人情報に生体認証を活用して安全にアクセスできる、デジタルアイデンティティ共通プラットフォームを立ち上げる。生体情報を暗号化する日立の特許技術「PBI(Public Biometric Infrastructure:公開型生体認証基盤)」を用い、両社が約2年をかけて検討を進めてきた。
特徴は大きく3つ。1つは、1社が独占的に利用するのではなく、多種多様な企業に幅広く利用されるプラットフォームを目指していること。「個人情報の収集・管理を自社だけで行うのは企業にとって大きな負担ですし、お客様にとっても企業ごとに個人情報を登録する必要が生じて不便です。業種を横断してあらゆる企業が共通に使えるプラットフォームであることが望ましいのです」(東武鉄道 経営企画本部 課長補佐 安齋秀隆氏)。
そして特徴の2つ目は、「PBI」の活用による高い安全性の実現。3つ目は、指静脈認証と顔認証の両方が使えることだ。開発はほぼ完了し、いよいよ今春、東武ストアの複数店舗で実証実験が開始される。
カードやスマホの提示は不要
生体認証で決済・ポイント付与を完了
決済を伴うこともあり、東武ストアでは今回、顔認証よりも認証精度が高いと言われる指静脈認証を採用。店頭のセルフレジに、外付けで指静脈情報を読み取る機器を追加し、レジ自体には画面表示を変更するための改修を施した。
顧客はあらかじめ自身のパソコンやスマホから、生年月日、クレジットカード情報、ポイントプログラム「TOBU POINT」のIDなどを登録。さらに店頭で、担当者が本人であることを確認した上で、専用端末で指静脈情報を登録する。
こうして一度、個人情報と生体情報の紐づけを行えば、準備は完了。顧客は商品購入時、セルフレジで商品をスキャンし、専用端末に静脈を登録した指をかざすだけで、自動的に決済とポイント付与が行われる。クレジットカードもスマホも提示する必要はない。生体認証を通じて年齢確認もできるので、酒類の販売にも問題はないという。
約70社ある東武鉄道のグループ会社のうち、導入の一番手として東武ストアが選ばれた理由は、デイリーで利用している顧客が多いため。「利用頻度が高いほど利便性を実感していただきやすく、早く慣れていただけると考えたからです」(安齋氏)。実証実験として導入を開始するが、終了時期は決めていない。つまりこれは本格稼働の入り口であり、その中で見えてきた課題を解決しつつ、徐々に導入店舗を広げ、全店舗での稼働につなげる計画だ。
決済方法は選択可能で、クレジットカードにおいては最もお得に「TOBU POINT」が貯まる東武カードをはじめ、東武ストア店頭で利用可能なすべてのクレジットカードに対応する。
店舗業務の効率化に貢献
幅広い企業との連携を呼び掛け
このシステムの導入によって、セルフレジの使い勝手および会計スピードが向上すれば、好んでセルフレジを利用する人が増え、有人レジの混雑が緩和することが期待できる。そうなれば有人レジからセルフレジへのシフトを加速させることができ、ゆくゆくは人件費削減の効果も期待できる。
「駅前立地の東武ストアでは、ペットボトルのお茶1本、缶ビール1本をさっと買って帰りたいというお客様も多いのですが、レジに列ができていれば買うのをあきらめてしまう。そういったお客様の取り込みにも効果を発揮できると思います」(安齋氏)
このプラットフォームの共通利用に関しては、すでにグループ内外の複数企業からの引き合いがある。同社はほかの鉄道会社との連携も積極的に進めていきたい考え。間もなく始まる実証実験の経過を、多くの企業に見守ってほしいと呼び掛けている。